第二十九話 俺の唯一の後輩
塾生時代。
ぶっちゃけ俺はあまり後輩との交流はなかった。
何というか、そう…………どうにも俺は年下に好かれるタイプではないらしい。いつもいつも遠巻きに見られてるだけで、話し掛けてくるような奴といえばこの如月・ミーティア・秋人くらいのもんだった。
俺にとって、唯一と言える後輩であり、チームメイトであり、友達だ。
まあ、特別仲が良いというほどでもないし、慕われてる感はゼロに近いが…………。
イメルダやラルフとかは、あんなに後輩に人気があって尊敬されてたのになぁ~、俺だって同じ『ミーティア塾』代表チームでやってきたのに、何この差………こんなとこまで才能とかが関係あるというのだろうか……………くすんくすん。
「何しょげてんだ、コウジさん………」
「うっせぇ、全く俺を慕う様子のない後輩とこんな危険地帯に入ろうってときに、明るくいられるかよ………」
ホントに、出来ればもっと可愛げがあって俺を尊敬してくれる後輩が欲しかったぁ。
昔、塾生時代に如月・ミーティア・秋人が入塾したことを知ったとき、俺はあまり良い印象を持っていなかった。
理由は単純、秋人の名前だ。
ミーティア塾に入ってきた『ミーティア』の名を持つ少年。
これだけで分かると思うが、俺たちが通っていたミーティア塾は、秋人の母である伝説の初代『魔導女帝』が創設した魔法塾だ。
御曹司、エリート路線、優遇、依怙贔屓。
頭を掠めるのは、どれも俺にとって好印象を抱きくい単語ばかりだった。まあ、それは別に秋人に対してだけって訳でもないけど。
塾の創設者の息子に、その講師たちが他の生徒と同様の態度で接せられるとは思えなかった。子供ながらに嫌な考えを持ってたと自覚はしているが、これは仕方ないと言わせてほしい。
何故なら、俺がそうだったからだ。
魔法学園在学当時から魔法騎士として活躍してた姉の存在は、塾生だった俺にも少なからず影響を与えていた。
特別、その一言で俺の塾生時代の評価は全て分かる。
才能とはまた違った特別。
そして、如月・ミーティア・秋人もその特別だった。
今思えば、同族嫌悪ってやつだろうな。
姉貴の存在のせいで特別に見られるだけが嫌だった俺は、努力し続けてきた。努力して、俺の力で特別になろうとした。
その自負があった。
俺はやってきたぞ、という自負が。
だからなおさら、まだ会ってもいない、話したこともない頃から、俺は秋人に優越と嫌悪があったのは否定できない。
どうせただのお坊ちゃんだと、心のどこかで小馬鹿にしていたのだ。
我ながら子供だった。いや、今も子供だけど。
それから俺が秋人と直接話すことになったのは、秋人が入塾した半年後。
魔法塾は六歳から入塾可能になるから、一個上の俺は当時七歳だ。
ミーティア塾代表選抜会のことだ。俺、イメルダ、ラルフ、そしてテルノアの四人は前年度も入塾一年目にして代表入りしてたから、その年も先輩を押しのけて代表入り出来た。
そして、俺たちの一つ年下の天才も。
それが始めて如月・ミーティア・秋人の実力を見た瞬間だった。
天才という者の、その才能の一端を。
◇ ◇ ◇
課題攻略初日と同じように、俺たちは上級生用の演習場―――その危険区域の扉を開けて、中へと入った。
深くどこまでも続く森林は薄暗く、混沌とした魔の気配をムンムンに放っている。相変わらず、不気味な森だぜ。嬉しくもない二度目の入場だが、足がすくみそうだ。
「なるほど、ここが王都メリゼル屈指の危険地帯、魔の演習場か………」
「秋人、何でお前はそう平然としてられんだ? 信じらんねぇぜ」
「別に平然とはしてないけどな。ちゃんと感じてるよ、このヤバイ雰囲気は………」
そりゃそうだろうよ。こんな中で魔物『牛鬼』を探しだして狩ろうなんて、今更ながら命知らずだよな。
「もっとも俺としては、こんな場所で魔法植物の採取に勤しんでいたっていうコウジさんのイカれた気違い振りの方がヤバイと思うけどな」
ほっとけや!!
容姿に反して本当に可愛くねぇなこいつは………、ちっとは先輩を敬えよ。
「無用なお喋りはここまでにして、剣二本はちゃんと腰に差しときなよ、コウジさん」
俺に指摘をくれながら、秋人は戦闘モードに入ったようだ。
「ああ、分かってるよ」
収納魔法で『腕輪』に入れていた二本の剣を、制服のベルトに通し、準備してきたリュックをしっかり背負い直す。
俺はリュック持って準備万端だが、秋人は手ぶらというね。舐めてんのかマジでこいつは。
まあ、魔法使いは基本的に収納魔法が掛けられた『腕輪』にいろいろ物を入れるから本来荷物らしい荷物は要らないんだが、許容量の多い『腕輪』は必然的に値段が高い。だから学生が持ってるのは精々『霊剣』が一本入るくらいの『腕輪』なはずなんだがな。どうやら、秋人の両手首にある『腕輪』はそうじゃなさそうだ。
クソ、これだから金持ちって奴は。
ともあれ、何の準備もしてない、なんてことがないのを祈るばかりである。
「はぁ、じゃあ行くか………」
ため息混じりに俺はそう言った。
かくして、俺たちは魔物が闊歩する危険区域の下見に出た。
はぁ、ホントは五人全員万全の体勢での探索が良かったんだがな。どういうことだよこれ、危険区域をまだ学園の二年と一年が二人で動くとか、自殺志願者と思われても仕方ない所行だ。さてはて俺たちは無事に帰れるのだろうか。
問題なのは、物事を常に冷静で正確な目をもって見極める秋人が、何故か俺に対してだけ過大評価がすぎるところだ。
昔からなんだよな、それ。
普段は辛口で憎たらしい癖に、妙なところで持ち上げたって俺に出来ることなんてねぇっての。
あ、もしかして俺の栽培している魔法植物を狙っているのだろうか。
ダメだ! 絶対にやらんぞ!!
「さっきから何一人でぶつぶつ言ってんだよ………」
秋人に呆れた目を向けられながらも、俺たちは森の中を進んでいく。
「取りあえず、地形の確認と生息する魔物の確認だな。秋人、図書館で調べて何か分かったか?」
「ん、まあ、それなりに」
と、秋人は鞄からノートを取り出した。丁寧に几帳面な書かれ方をした文字の並びを眺めながら、説明してくれる。
「まずこの上級生用演習場の危険区域は、森林地帯、湖地帯、荒野地帯、あとちょっとした山岳地帯に分かれてるらしい。当然、魔物たちも自分達の住みやすい生息区域にいて、その種類はこの演習場全体で約五〇種、魔物の数はおよそ一五〇〇体………」
「改めて聞くとゾッとするな、一五〇〇体の魔物ひしめく演習場を歩いてるとか、それだけでトラウマもんだぜ………」
「まあ、ほとんどが低級魔物だけどね。中級魔物がだいたい三〇〇、上級魔物が七〇、その上級魔物の中に位置する『牛鬼』一七体のうちの一体を狩ることが今回の目標な訳だね………」
「本当に途方もない気がしてきたぜ………」
こうやって数で表されるとスゲー無理な気がしてきた。いや、元々できる気してねぇけど。万全の準備で整えて行けばそれなりに撃破率は上がると思ってたんだが、そう甘くないだろうなぁやっぱり。
「何より問題なのは『牛鬼』単体以上に、このバカ広い演習場とそこに住む一五〇〇体の魔物を掻い潜って行かなきゃならないことだよなぁ」
「コウジさん、体力ないもんな」
うっせぇ、俺には『ビルドスパーク』があるからいいんだよ。
……………あれ、連用できないんだけどね。
使用後は八時間以上の間を取りましょう、コウジ製薬からのお願いです。
という注意書きをするくらいには劇薬だ。もし時間を守らずに飲んだら、魔力暴発、入院二週間は必至である。何故そうなるのを知ってるかって? それはご想像にお任せしよう。
「コウジさんの体力もそうだけど、肝心の『牛鬼』が生息してるのは山岳地帯だ。演習場入口からだと一番遠い位置だけに、スムーズに進んでも半日以上はかかる。これだと、コウジさんじゃなくてもまだ子供の俺たちじゃあかなりキツいよ」
「その間には他の魔物との戦闘にもなるだろうしな。全員の体力が削られた状態で『牛鬼』と戦えば、ただでさえ低い勝率が皆無になっちまう」
「せめて他の魔物との戦闘だけは避けられたら良いんだけどな………」
流石にそれは無理だろう、と一瞬思った俺だが、ふと、古い本で読んだある魔法薬のことを思い出した。
確か、一定時間魔物からの認識をかわす効果のある薬。
あまりに記憶が古すぎて作ったことはないが、帰ったらその本を探してみるか。
そんなことを考えながら歩いていると、視界の端に目を引く物が!!
「お、『光草』発見!!」
淡く白光を放つその魔法植物は、市場でも中々に出回らない稀少種の一つ。前に来たときに見つけた『パールフラワー』と同じくらい珍しい植物だった。
さて、回収回収、っと。
「本当に変わらないよな、コウジさん………」
後ろで秋人が呆れてるような気がするが、気にしない気にしない。こっちが大事。
取り出した瓶の中に、『光草』を丁寧に入れて蓋をしっかりと閉める。
「そんなことしてると、魔物が出て来たときに………」
と、秋人の言葉が途中で止まった。その視線は一定の方向で固まっている。
ああ、また嫌な予感が、と思い俺もそちらを見ると、予想に違わず『人狼』だった。
前回にタチバナと来たときに遭遇した魔物だ。
あのときは逃走を選んだが…………、
生憎と今回の俺はしっかりと武器持参だ。
しかも、世界大会で頂点に立ったチームの一人、如月・ミーティア・秋人もいる。
「コウジさん、戦闘準備はいいか?」
どうにも逃げる理由はなさそうだ。




