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第二十八話 取りあえず下見はしとこう


「おい、これはどういう状況だ?」


 テルノアとの話を終え、遅れながらも皆が向かった学園近くの屋外魔法訓練場に来てみたのだが………、


 ぐったりと地に伏せるイメルダとラルフ。

 そして、二人のすぐそばに君臨している(?)立花レーナ。


 何より穴ぼこだらけで荒れ果てた訓練場。


 いや、マジで何があった?


「コウジさんに言われた通り、魔法戦術の確認をしてたんだけどな……」


 俺の疑問に答えたのは、近くのベンチに座ってノートを取っていた秋人だった。


「………で? 何でこうなる?」


「俺たちが予想してたより、タチバナさんが実戦的な能力の高い魔法使いだったから、かな………」


 秋人の言うところはつまり、イメルダやラルフですらタチバナに魔法で追随出来なかったってことか?

 んなアホな。いくら二人が塾の卒業以来戦闘系の試合をしてないとしても、同学年のタチバナとここまで差がつく訳が………、


「似てるな、本当に………」


 俺の思考を遮って、秋人は続ける。


「彼女、コウジさんとまるで同じタイプだ」


「いや、どこがだよ。ポジションは違うし、戦闘スタイルはむしろ対極だぞ?」


「戦闘方法の話じゃない」


 俺の疑問に秋人は首を振る。

 じゃあ何だよ、と訊こうとしたところでイメルダとラルフは立ち上がっていた。まだ練習は終わってないようで、続きとばかりに二人は構えている。

 一方のタチバナは、特に身構えることもせず、ごく自然体で立つのみだ。が、隙らしい隙はない。

 こいつ、昨日は魔法の未熟さが目立って気付かなかったが、明らかに実戦慣れしてやがる。


「『大地の精よ――我が声に従え・漠土の硬弾』」


 イメルダが発動したのはマーカーも使っていた『漠土の硬弾』。片手に集まる土の玉は凝縮され、硬化される。まさに魔力を込めた弾丸だ。元の潜在能力の高いイメルダの魔法は、もしかしたらマーカーより威力は上かもしれねぇな。


「甘いよギドさん!」


 対して、タチバナは魔力弾を放った。魔法戦技の基本中の基本である本当にただの魔力弾だ。本来なら『漠土の硬弾』に対抗できるはずもない魔法なんだが……………、


 タチバナは驚くほど速い反応と射出速度で、魔法の構築途中だったイメルダを吹っ飛ばした。

 発動が簡易な魔力弾とはいえ、後出しでイメルダよりはえぇのかよ。


「『水の精よ――我が剣に纏え・流水の剣撃』」


 今度はラルフが魔法を発動した。

 ラルフが手にした木剣に水が纏い、鋭く大きな刃へと変化する。

 まだ完全に魔法を修得しきっていないからか、魔力の不安定さはあるな。けど学園クラスの魔法使いには十分すぎるほどの威力だ。


「だから、甘いって、ね!!」


 再びタチバナは魔力弾を発動する。イメルダを迎撃して僅か二秒足らず。剣を振る間も無く、ラルフも吹っ飛ばされていく。


 おいおいおい、冗談だろ………、なんて魔法発動スピードだ。射出直後に同威力の魔法を瞬時に発動かよ。


「ほとんど連射だな。魔力弾とはいえあの威力の魔法をあそこまで速く撃ち込めるとは…………」


「こりゃ、イメルダとラルフじゃ敵わねぇな」


 秋人は冷静に魔法戦闘を見ながらタチバナの技術に感心しているようだが、俺としては天才的な実力者だったイメルダとラルフが圧倒されるのを見て複雑な気分だ。まあ、このレベルの使い手が相手じゃ仕方ねぇが。


「確かにいくら強力な魔法でも発動させなければ意味はない、か………」


「発動の速い簡易魔法で敵の体勢を崩し、大技を決める。タチバナさんがやったのは、射撃型の魔法使いの基本戦術の一つだな」


 秋人が言った俺に似てる、ということの意味がよく分かった気がするな。

 完全に実戦のみを想定して鍛えたあの魔法戦闘スタイルは、ある意味では確かに俺と似てる。


 ―――昔の俺と、だがな……。


 少なくとも今の俺とは似ていない。

 魔法使いとして駆け抜けてきた者とそうじゃない者とは、どんなに似ていても全く似ていない。

 才能以前に心の有りようがまるで違う、だからハッキリと言えるのは、


「似てねぇよ、全くな………」


 それだけだ。

 昔の、あの頃の俺とは、どうだっただろうな。


 姉貴のような騎士を夢見て、必死に努力し続けて、実戦における訓練も積みに積んで、たどり着いた天才の肩書きに良い気になって、


 ――――――本物の存在を知らなかった、あの頃の俺は……………。


 ふん、挫折した俺が、そんな疑問を抱くことさえおこがましい、か………。

 そんな感傷に浸っていると、休憩に入ったのか三人がこっちに戻ってきた。


「はぁ、やられたやられたぁ~」


「まさか俺らが二対一で負けるとはな、タチバナのやつ強すぎだろ………」


 イメルダとラルフは割りとボロボロだ。もはや虫の息だ。今にも倒れそうな感じなんだが…………いや、というか、おい! 誰がここまでハードにやれって言ったんだよ!

 これじゃ明日に動けねぇだろ!!


「あ、コウジ、来てたんだね。いやぁ~、久し振りにいい運動したよ」


 だがタチバナは息も切れてねぇ、何なら軽く汗を流した程度である。

 うん、それぐらいでいいんだよ。疲れを残さないくらいの練習でな。


 …………………………………果たしてこの場合、どっちを注意すべきなのだろうか。


「あの二人が見事にバテバテだな……」


「というか、秋人もこうなる前に止めろよ」


 一番年少でしかも練習に参加していない秋人に文句が出てしまった俺である。


「いいんじゃないの、互いの実力と手持ち魔法の確認なんだし」


「だとしても課題攻略に影響出してたら本末転倒だろうが……」


「まだ課題の期日に十日はあるんだろ? それなりに時間割いても問題ないと思うが………」


「課題のレベルに日数が合ってねぇだろどう見ても!!」


 だからなるべく演習場に出て、地形や魔物の生態を調べときたいんだよ。特訓の時間を増やしての一発勝負じゃハッキリ言って死ぬっつうの!


「まあ、いくらイメルダさんやラルフさんでも、十日の間にどんな特訓したって実力が大幅に上がる訳でもないしな。タチバナ先輩以外は元塾生メンバーだからチームとしての連携もほとんど練習する必要はないし」


「分かってんじゃねぇか………」


 木陰に座り込んで休むイメルダとラルフを横目に、俺はどうにもため息が出そうだ。その二人の前に立って悠然と水分補給をしてるタチバナは、まあ明日も平然と動けそうだが…………、


 はぁ、明日は下見に行こうと思ってたのに、どうすっかなぁ。


「下見は俺とコウジさんで行けば良いだろ」


「ホント簡単に言うよな、お前は………」


 こういうところは、昔から全然変わってねぇな。どっからくるんだろうなこの自信はよぉ。


 まあ、ともあれ、頼もしい奴だ。


「適当にやろうよ、ただの課題なんだしな………」


 あー、うん、本当に、頼もしい(?)奴だ。


 いや、どっちにしろ今日は解散だな。





 んで、その翌日。


 俺と秋人は学校をサボり、二人して上級生用の演習場の入口に立っていた。

 ちなみにタチバナやイメルダたちにはここに来ることは言っていない。絶対付いてこようとするし。

 言わなかったら言わなかったでバレた後で文句を言われそうだが。

 まあ、俺はサボりの常習だから、学園休んだからってまさかこの施設に来てるとは思わんだろ。バレないバレない、たぶん。


「さて、じゃあ取りあえず、演習場の下見と行きますか」


 俺はそれよかこの秋人とツーマンセルってことの方が嫌な感じがするんだが、果たして大丈夫なんだろうか。

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