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第二十七話 テルノア・サベルジ


 海藤光示―――《トップ・アタッカー》。


 ラルフ・ド・ラルーシュ―――《ハーフ・アタッカー》。


 テルノア・サベルジ―――《サイド・ガード》。


 イメルダ・ギド―――《エンド・ガード》。


 如月・ミーティア・秋人―――《シャドー》。


 二年前に『ミーティア塾』が世界大会まで勝ち抜いた最強のベストメンバー五人。

 テルノア・サベルジは、俺たち四人と共に『ミーティア塾』の黄金世代と言われた天才の一人だった。

 塾生ながらに魔弾の名を付けられた彼女の正確無比な後方援護射撃によって、俺たちチームは何度も助けられてきた。

 あの『魔弾の銃姫』がいなければ、世界でも世代最高だったかもしれない名射手だ。

 我ながら褒めすぎのような気もするが、実際にテルノアの実力はチームメンバーの誰もが認めていた。他者への評価が辛い秋人ですら、彼女の射撃は天才的だと言ったんだ。俺の抱いた感想も間違いではないだろう。


 だが、


『私、魔法学園は行かないから……』


 一年半ほど前。その一言を聞いたときのイメルダは、呆然としていた。

 恐らく、俺も同じ顔をしていたことだろう。


 何を言ったのか分からない、というのを俺はこのとき始めて味わった。

 そしてその日以来、黄金世代とまで言われた俺たち『ミーティア塾』の五人は二度とチームを組むことがなくなった。


 生まれた亀裂は現在も変わることなく。


「あなたは、いつまでそうしているつもりなの?」


「えぇ~? 私はずぅ~っとここでこうしてるつもりだけど?」


 はい、こうなっておりますね。

 イメルダとテルノアの仲は昔からは考えられないほど最悪にまで落ちている。

 親友と一緒に魔法学園に通えると思っていたイメルダとしては、裏切られた気持ちになったのも分からなくはないが。

 本当の理由を知る俺としては、どちらの味方も出来ねぇな。


「おい、そろそろこっちの用事を進めたいんだが?」


 いい加減にしてほしい思いでそう言うと、


「コウ君……」


「コウジ……」


 こわっ!!

 何で俺が睨まれてんの!?

 俺もラルフも、それどころかタチバナまでビビってるんだけど!?


「イメルダ先輩もテルノア先輩も、あまり俺たちの予定を遅らせないでくれるか?」


 そこで思わぬ助け船をくれたのは秋人だった。思いの外、冷たく刺すような声だったが。

 睨みをきかせていた二人は一瞬で威圧感をおさめる。相変わらずだが、イメルダもテルノアも、いや、ラルフと俺もか。秋人の底冷えするようなこの声にはどうにも逆らえない、反論の余地を許さない圧迫感があるんだよな。


「そうだね、ミー君が言うならそうしよっか………」


 テルノアはさっきまでの険悪さが嘘のように、明るい声を上げた。

 なんでチーム唯一の下級生であるはずの秋人に皆が従うのかねぇ。これはあれか、生まれや育ちの問題かな?

 まあ、それは置いといて。


「じゃあ、テルノア、ここにリストアップした『魔法具』を揃えてもらえるか?」


「はいは~い……………って、これ、え? 何? 何に使うの?」


 リストアップされた紙を見て、テルノアが思わずといったように声を上げる。


「ちょっと野暮用でな。代金は気にしなくていいから、急ぎで頼むわ」


「あの、よろしく御願いします」


 俺の言葉に続くように、タチバナが深く頭を下げる。律儀なやつだな、ホントに。

 テルノアは改めてリストを見直す。


「まあ、明日には用意できるけど。ホントに何に使うのこれ?」


「ちょっと学園の課題でな。いろいろ準備がいるんだよ」


「へぇ、魔法学園ってそんな厄介な課題があるんだ………行かなくて良かったぁ」


 後半の台詞は本音か嘘か、おどけた様子で笑う彼女の表情からは分からないが、イメルダはあからさまにその言葉に反応していた。

 俺は、このとき悲観な思考に浸りながらも表情を変えなかった自分を誉めてやりたいね。


「じゃあ、明日またくるから、そのときに頼むわ」


「りょーかい、サベルジ武具店にお任せあれ!」


 そうやって笑う彼女は、さっきとは違って本当の笑顔を見せていた。


 ◇ ◇ ◇


 今、サベルジ武具店には俺とテルノアの二人だけ。

 俺はテルノアと武具調達の打ち合わせがあるからって、みんなには先に帰ってもらった。あいつらには打ち合わせ以上に今の手持ち魔法と精度の確認をするように言っておいたから、今頃は外の訓練場で魔法の練習をしてるだろうな。


「それで? まだ何か用があるの?」


 カウンターの席に座り、頬杖をついたテルノアが訊いてくる。

 マジか、用が本当は魔法具のことじゃないってのはバレてると思ってたが、いきなり切り込まれるとはな。

 仕方ない、観念してストレートに訊くか。


「親父さんとお袋さんの容態、訊いとこうと思ってな……」


「別にそこまで気にするほどの怪我じゃないよ、二人とも。入院は延びてるけど、リハビリは順調だし、来年には退院出来ると思うよ」


「そっか、良かったな………」


 テルノアの両親は、現在 メリゼル中央病院に入院している。二人とも去年までは意識不明の重体で、意識が回復した今でも上手く身体が動かせないほどの重傷を負っていた。話を訊く限り、今では順調に回復しているようだが、とても店をやれる状態ではない。

 俺たちがここに来たとき、テルノアが一人で店番をしていた理由だ。一人しかいない店員がカウンターに座るのは、当たり前だろう。とても魔法学園に通っている時間なんてない。それどころかテルノアは一般校のサウスルス学院でもほとんど休んでいるらしいからな。


「なら………」


 それと、俺はもう一つ訊きたいことがある。


「お前の容態はどうなんだ?」


 ビクッ、と怯えるように彼女の肩が震えた。

 テルノアにとって、魔法は遊びだ。

 俺たちとは明らかに違う人種だろう。

 彼女にとって魔法は、簡単に切り捨ててしまえるものだ。


 だが、友達は違う。


 魔法のことなんてどうでもよくて、本当はイメルダたちと同じ学園に通いたかった思いは、俺も本人から聞いている。そのときに涙を溢していたことも、俺は知っている。

 ただの遊び程度にしか思っていなかったはずの魔法。

 大切なものやことは無くしてから気付くとは良く言ったもんだ。

 簡単に切り捨ててしまえると思っていたものを、自分の意思に関わらず失って、結果それを知ることになった。

 魔法というものの重さを。

 知ってしまえば、知る前には戻れない。

 その結果が、今のこの状況だ。

 沈み込んだような表情で、テルノアは口を開く。


「少しずつ良くはなってるけど、まだ魔法は使えないかな……」


「そう、か………」


 俺も似たような顔でそう返すしかなかった。

 魔法塾の卒業が迫っていた頃、サベルジ一家の旅行中に起きた不幸。魔法犯罪者による襲撃は、当時観光客で賑わっていた南大陸の街を破壊し、多くの重傷者を出した。

 その中には襲撃された街に滞在していたサベルジ一家もいて、総勢百人に迫ると言われた襲撃者たちの魔法戦闘に巻き込まれる形になってしまった。

 当然、魔法使いたちも襲撃に大して何の対策も取らなかった訳じゃない。観光客や街の人々で組織された義勇軍が立ち上がり、襲撃者を退けるために戦った。サベルジ一家も義勇軍に加わっていたそうだ。

 だがその魔法犯罪者たちは、かつての戦乱の時代で恐れられた闇の魔法使いを思わせるほどの力を持っていたようで、とても敵う相手ではなった。

 その結果、テルノアの両親は重傷を負い、テルノア自身も後遺症を残すような傷を負ってしまった。

 この観光地であった街の襲撃事件は、大々的な内容はいまだに秘匿されている。何人の重傷者が出て何人が死んだのか、それも俺たち一般人には分からない。俺も姉貴に聞いたから知ってるだけだ。

 勿論、イメルダやラルフたちも知らない。

 テルノアがそんな襲撃事件に巻き込まれたことすらも。

 だから何も分からない。テルノアが魔法から離れた本当の理由も、その思いも。

 そして、それでいいとテルノアも言っている。事件の守秘義務もあるのだろうが、自分の考えの甘さが招いたことだから、わざわざ彼女たちに知らせる必要はないのだと、自分に言い聞かせるように。

 今のイメルダとのスレ違いを決して納得してる訳じゃないだろうが、これは確かにテルノア自身の問題だ。魔法というものを軽んじていた結果、起きてしまったその悲劇。テルノアを悪いと言うのはあまりに可哀想な話だが、魔法における運命ってやつは得てしてそういう風に出来てしまっている。

 原因と結果。魔法ではそれが運命的な事態で起こる。幸運であろうが、不幸であろうが。

 

「テルノア……」


「何よ……」


「無理だけはするなよ」


 挫折した俺に言えるのは、これくらいしかないけど。せめて友達として心配はさせてほしい。

 するとテルノアは自然な笑顔を見せながら言った。


「コウ君も、ね。また昔みたいに魔法と向き合えるようになったなら、私みたいなことにはなってほしくないよ」


「そればかりは保証出来ないけどな。魔法なんて、どんなことが起こるのか分かんねぇんだから」


「そう、だね……」


 テルノアの声が、再び小さな呟きに変わる。


「ミー君はともかく、イメルダやラルフのこと、それにタチバナさんのこと、よろしくね………コウ君」


「ああ、分かってるよ」


 魔法を軽く見ていた結果。

 最後に確認するように頷いて、俺はサベルジ武具店をあとにした。

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