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第二話 右肩下がりのテンション

 下校の鐘が鳴り響く。


 心地よい解放感を味わいながらまっすぐに家へと帰って、趣味の植物栽培と採取……が俺の放課後なのだが、今日は呼び出しがある以上、直帰は許されない。


 教室内で「今日遊ぼうぜ」なんて声が飛んでいるが、その言葉が俺に飛来することはないので、誰よりも早く教室を出ていく。

 コソコソしているつもりはないが、やはり肩身が狭く感じることもあり、逃げるような様になっていた。

 誰とも目は合わせないように、下を向いて教室の扉まで競歩の如くスピードで歩く。


 姉貴の指定した教会は、魔法学園のすぐ近くに立つバカデカイ建物だ。


 ―――――メリゼル魔法教会。


 扉の前まで来て、あと一歩が踏み出せない。誰だって慣れない場所には入り辛いもので、人目を気にしながらウロウロと入り口付近を行ったり来たりしていると、


 突然、扉が開いた。


 出て来るのが姉貴なら良かったのに(いや、別に良い訳ではないが)、何て思ったが、開いた扉の向こうにいたのは、メリゼル魔法学園の女生徒の制服を着た、一人の少女だった。


 金色がかった長い茶髪を揺らす、綺麗な顔をした幼い少女。たぶん、俺と同じ学年だろう。リボンの色が緑だ。


 俺は咄嗟に知らないフリをして、何も用がないはずの遠方に目を背ける。背けつつも、チラチラと教会側を見て、その彼女と目が合ってしまった。

 慌てて逸らすが、扉から出てきた人物は、真っ直ぐに俺の元へと歩いて来た。

 ………何だか恥ずかしい。


「入るなら早く入ったら? 見てる方が恥ずかしいわよ」


 見られてた方はさらに十倍恥ずかしい。

 バツが悪そうに頷く俺を呆れた顔で一別すると、彼女はスタスタと元来た道を戻り、教会の中へと入っていく。


「何してるの? 入るんでしょ?」


「あ、ああ……」


 後に思い出して顔を覆うくらいのエピソードを入場料として、俺は魔法教会へと踏み行った。


「カイトウ君だよね? A組の………」


 前を歩きながら、少女は言う。


「そうだけど……、キミは誰?」


「わたしはC組の立花(タチバナ)レーナ……」


 知らない名前だ。

 まあ、クラスメイトの顔も全部覚えてない俺が、他のクラスの生徒を覚えてるはずもないが。


「先生に言われたの。キミを迎えに行って、って……」


「先生?」


「ええ、たぶん教会の前でウロウロしてるだろうから、って言ってたよ。まさにその通りだったね……」


「………」


 せっかく蓋をした黒歴史をほじくり返すな。

 というより、俺の行動パターンを読んでるってことは、先生ってのは姉貴のことか……。


 姉貴が先生……、


 ………嫌すぎるな。


 とても授業はサボれない。

 まあ、この場合の先生は、教育機関の講師、ではなく魔法組織のマスター、という意味だろうが。

 

「なぁ、あんた……姉貴の弟子か何かか?」


「ううん、違うよ。私はメリゼル魔法教会所属の魔法騎士長クレリア・オルゴートの弟子の一人だから……」


「………クレリア先輩の?」


「先生を知ってるの?」


「姉貴の知り合いだよ。何度かうちに来てたから、少し話したことあるってだけ。つうか、在学中にも関わらず最前線で戦って、戦果を上げ続けた魔法騎士………クレリア先輩は、メリゼル魔法学園では結構有名な人だろ……」


「あ、それも知ってるんだ。カイトウ君って、学園のことに興味ないと思ってたよ」


「………」


 どうやら、俺の堕落した態度は他のクラスまで噂が轟くレベルになっていたようだ。

 これじゃあ姉貴も動くか。


「まあ、興味ないけどさ…」


「ちゃんと授業も受けないと、卒業できないよ?」


「お前は俺の姉貴かよ……」


 改めて見れば似てなくもない。

 いや、それはどうでも良いとして、なんで今日知り合った同級生からお小言を言われているのだろう?

 近頃、学園の講師からその手の注意を受けなくなった俺には、俺のために言ってもらえるその言葉は少しだけ新鮮だった。


 ………聞く気は全くないけど。


 不真面目な人間は、口で注意されたところでそう行動には移さないのだ。姉貴のように脅迫紛いに呼び出す場合は別として。




「着いたわ」


 少女の言葉に、俺は目の前の扉の上に記されている部屋の名前を見た。

 役職付きで、姉貴の名前がある。

 どうやら、ここが地獄の入り口らしい、そんなことを心に浮かべた瞬間、


 不意打ちで勢いよく開いた扉が、俺の顔面に直撃した。


「うわぁ~、痛そ~」


 端で見ていたタチバナが呟く。

 かなり力強く開いたらしく、実際、もの凄く痛い。ガクン、と床に膝を付くぐらい痛い。


 こういうときは、日頃の行いを見直そうかとも思うが………、


「あら、何してるのコウジ……」


 開いた扉から顔を出したのは姉貴だった。このアマ……、わざとじゃないだろうな。


「あ! レーナちゃん、案内ご苦労様。ごめんね、こんな愚弟の迎えなんかさせて」


「いえいえ」


 姉貴の礼に、タチバナは笑顔で答える。

 俺はまだジワジワくる鈍痛を堪えつつ、どうにか立ち上がった。


「コウジ、バカやってないで早く入りなさいよ」


 バカをやらせたのは誰かハッキリ言ってやりたい。謝罪の言葉ぐらいあっても良いんじゃないだろうか……………あ~、いてぇ!


 執務室の中に入れば、姉貴には勿体無いくらいの良質な広い部屋。


「………で? ………俺になんの用だ?」


「用件を言う前に……あなたたち、自己紹介は済んでるかしら?」


 あなたたち、とは俺と、一緒に執務室に入ったタチバナのことだ。


「はい、滞りなく」


「そう、ならいいかな。これからは顔を合わせる機会も多くなるんだし、ちゃんとお互いの紹介くらいしておかないとね」


「…………話が見えないんだが」


「午前中に言ったでしょう? あなたのその曲がった根性を叩き直す、って……」


「ああ……」


 忘れたかったことだが、どうやら恐怖で刷り込まれた記憶は消えないらしい。

 姉貴が話を続ける。


「……レーナちゃんの先生が、オルゴートだってことは?」


「聞いた…」


「じゃあ話は早いわね。明日からコウジは、レーナちゃんと一緒にオルゴート魔法騎士長に鍛えてもらうことになったから……」


 閻魔大王が俺のサボりに対して出した判決は、地獄行きだった。裁量の厳しさを見直してくれたとしても、この理不尽な一刀は俺を頭から切り裂くだろう。

 魔法の練習で理不尽に対する防御、というのを設けて頂きたい。しゃないと、マジで俺の人権ないから。

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