第二十六話 何この二人……
何だろう。
背中からあまりよろしくない空気を感じる。
チラリと後ろの方を見やれば、その空気の発生源は予想に違わずイメルダだ。
装備屋の店番がテルノアだと聞いてから、すげー機嫌悪くなってやがる。
「ねぇ、コウジ……何だかギドさん、怖いんだけど……どうしちゃったの?」
あまりの雰囲気に耐えかねたのか、ヒソヒソ声でタチバナが訊いてきた。
「あー、まぁ、うん………お前も店に着いたら分かるよ………」
「店? 装備屋だよね? ひょっとして、さっき言ってたテルノアさん、って人に関係してるの?」
「まあな。というか、根本的な原因とも言える………」
「えー、と……仲が悪い、とか?」
「あー、似たようなもんだな。仲が悪いんじゃなくて、相性が悪い……」
「それって……」
「別に最悪、って訳でもないんだが……何かとイメルダは、テルノアを敵視しててな。俺としては気持ちが分からんでもないんだが………」
「でもギドさんって、誰かと仲違いするようなタイプには見えないんだけど……」
「ああ、普段のあいつは基本的に競争意識とか闘争心とか、何かと低く見えるしな。まあ、それは同学年の生徒を相手にしているからなんだろうけどよ」
「どういうこと?」
「いや、お前の前で言うのもあれだが、イメルダは元々この学年ではトップクラス………学年一位の座に着いていた天才だ。塾生の頃から頭一つ抜き出てたから、当時はライバルらしいライバルがそうそう同年代にいなかったからな」
厳密に言うとイメルダは同年代で全くもって敵無しだった、という訳でもない。
塾生時代の俺がイメルダとやたら競い合っていたというのは、この際置いといて。
「………その数少ない競争相手の一人が、テルノア・サベルジ。元ミーティア塾代表メンバーの《サイド・ガード》だったって話だ」
「………え? 《サイド・ガード》……?」
「ああ………、お前と同じポジションだな。まあ、それも昔の話だが……」
「昔のって、じゃあ今は?」
「イメルダ・ギドにとって最大のライバルだったテルノア・サベルジは、魔法の道には進まず……王都メリゼルの端にある一般学校に通ってるよ。それが言わば、イメルダとテルノアの深い溝を作った原因であり、今もなお険悪な雰囲気を漂わせる要因でもある訳だ……」
今でこそ不登校なんかになってるイメルダだが、当時は魔法の練習に誰よりも熱心で、魔法の怖さと魔法使いの在り方に真剣に向き合って努力し続けていた。
対して、テルノアはその真逆。俺たちとは全く違う人種とも言える。
俺が言うのも難だが、練習は不真面目で参加しないことの方が多く、魔法への思い入れもない。楽しいだけで魔法をやっていた少女。あいつにとって、魔法は遊びだった。
にもかかわらず才能だけでイメルダと同格の実力を持ち、アッサリとそれを捨ててしまう。
思い入れは人それぞれだが、イメルダにとってはその姿が我慢ならないことだったんだろうな。
「おい、コウジ……イメルダのあれ、なんとかしろよ……」
いい加減にこの空気が嫌になってきたのか、ラルフが超小声で言ってきた。
いや、うん、俺に言われてもね。何ともならんぜ。
「あの二人は塾生時代からいろいろあったからねぇ」
秋人まで遠い過去を思い出すようにぼやいていた。
俺らはあの二人のいざこざに巻き込まれて、散々酷い目に遭ってきたからな。
ちなみに最大の被害者は俺だと思うのよね。
「つうか、これから事の原因になってる奴がいる店に行くんだから、今から抑えたって意味ねぇよ」
だから諦めろ、と言いながら、いよいよ店の前に辿り着いてしまった。
イメルダの顔が一層険しくなったような気がする。
相性が悪い、か。
『性格の不一致なんてのは、誰にでもあるわよ。大人になるとそういうのにも愛想笑いで折り合いを付けるの』
魔法騎士として働き始めた頃、姉貴がそう言ってた。
『大丈夫だって。作り笑いでも上司くらい騙せるから(笑)』
そんなことを言う姉貴は、いつもより輝いていたとです。
…………嫌だなぁ大人の社会って。大人になんてなりたくないなぁ。
俺たちはサベルジ武具店と書かれた店の扉を開き、中に入った。
正面奥のカウンター。そこに座っている少女のライトブラウンのポニーテールがピクリと揺れ、明るい元気な声が上がった。
「いらっしゃいませー!」
腰まである長い髪を後ろで束ねた姿は、カッコよかったり可愛かったり。活発そうな印象が目立つ彼女の名は、テルノア・サベルジ。さっきまで話題に上がっていた少女その人だ。
この店の店主の娘で、こうして店番もやってる。俺やイメルダより些か背が高く、歳上に見えなくもないが紛れもなく同級生。
彼女は店に来たのが俺たちだと分かると、拍子抜けしたように営業スマイルから自然な笑顔になった。ハッキリ言って可愛い。
「あら、久し振りだね、コウ君………皆も、どうしたの珍しい……ミーティア塾の元塾生が揃って………同窓会?」
「ちげーよ。買い物だ……ここに来たんだから分かんだろ……」
そう言った俺に「そっか」とニカッとした笑顔で返したテルノアは、俺の隣に立つタチバナを見て首を傾げる。まあ、二人は初対面だからな。
「こいつはタチバナ………うちの学校の同級生だ」
俺が紹介すると、タチバナは一礼をして、
「はじめまして、立花レーナです」
そう自分の名を名乗った。
「あ、コウ君たちの友達ね。私はテルノア・サベルジ。王都メリゼルの西の端にある一般学校サウスルスに通ってるの。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
初対面の二人が互いに紹介を終えたところで、テルノアは店内に最後尾で入ってきた少女に目を向けた。
いまだ不機嫌そうな表情をしているイメルダだ。
昔の仲間。
塾に入って間もない頃、よく一緒にいる姿を見ていた気がする。端から見てた俺たちの目には、二人が親友のようにも写っていた。
楽しそうに笑う二人。
笑いながら他の塾生を蹴散らしていた二人。
先輩塾生さえも蹴散らしながら君臨していた二人。
ヤベー、こう見ると完全に女番長二人だ。いや、真面目な話、俺たちも一緒んなって暴れてたから人のこと言えねぇけどさ。ほら、何処にでもいじめっ子とかいるじゃん? そういうのほっとくのもよくないじゃん? だから撲滅活動みたいなのをやってたわけよ。いじめっ子狩り的な? 決して暴れる口実とかじゃないからね?
そんな女番長二人、イメルダ・ギドとテルノア・サベルジの視線が交差する。
…………………威圧感がパない。
やけに静かにほとばしる異様な空気。異常な冷たさ。
俺、逃げてよろしいか?
「久しぶりだね、イメルダちゃん………君がここに来てくれるなんて思ってもみなかったよ」
「ええ、私も来るとは思わなかった。あなたが店番してる店になんてね……」
「冷たいね~、イメルダちゃん……昔はあ~んなに仲良くしてくれてたのに……」
「昔は昔で、今は今でしょ……」
「そうだね……今はホントに嫌な娘になったよねぇ、イメルダちゃん……」
何じゃこの二人………身体から妖気みたいなの出とるんですけど?
どないすんのよ。




