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第二十五話 商店街に行くぞ

 決闘を終えた俺は、姉貴に背を向けて闘技場をあとにしようとしたのだが、


「どこへ行くぅ、まだ私は負けていないぃ」


 どうやら、気絶していたマーカーが目を覚ましたらしい。

 よろよろと立ち上がって、俺を睨む姿は疲労でボロボロ、汗だくで息も絶え絶えだった。


「マーカー教諭……」


 そんなマーカーに警告するように口を挟んだのは姉貴だった。


「この決闘は、相手を一時的にでも戦闘不能にすれば勝利となります。決闘中にあなたが気絶した時点で、勝敗は決しました」


「うぐぅ、いや私は負けていないぃ。そもそも貴様が止めなければ私は勝てていたんだよぉ! 勝手にこの私の決闘に割り込むとはぁ、貴様どういうつもりだぁ!」


「ちょ、マーカー教諭!!」


 姉貴に向けて身の程知らずな発言をしまくるマーカーに、ようやく起き上がってきたハデス先生が慌てて止めにかかる。


「そもそも貴様この学園の生徒ではないなぁ、一体何者だぁ! 事と次第によっては学園への無断侵入で魔法教会の人間を呼ぶことになるぞぉ!」


「マーカー教諭!!」


 もういい加減にダメだと思ったのか、ハデス先生は吠えるマーカーを地に叩き伏せた。

 いつの間にか右手に握られた剣で発動した魔法は『絶刀』だ。容赦ねぇ………。


「ぐはっ!」


 押し殺したような声がマーカーの口から漏れる。スッゴい痛そう。しかもそのまま剣先で抑え付けられて、暴れようにも身動きできないようだ。


「な、何をするハデス!!」


「彼女はメリゼル魔法教会協議会に所属する九人の魔法騎士団長の一人―――二代目《魔導女帝》海藤コーリエですよ!! これ以上の無礼は、教会所属の騎士である私が許しません!!」


 マーカーの顔が凍り付いた。

 魔法騎士団長。

 その言葉の意味を理解できないほどバカな奴ではないようだ。

 南大陸で最も力を持つ最大国家レイバ国の中で、最強の魔法使いである九人の騎士団長。メリゼル魔法教会の頂点に立つ存在は、この国の下手な貴族よりも高い権限を持っている。

 その序列は、王族の次点。

 メリゼル魔法学園の教員という立場は確かに大きなものだが、騎士団長クラスがその気になれば一瞬で首を飛ばすことも可能だろう。

 ようやく自分の発言していたことを理解したのか、マーカーの顔が真っ青に染まっていく。


「…………騎士、団長? それも、かい、とう? じゃ、じゃあまさか、海藤光示は………」


「私の大事な弟ですが………何か?」


 姉貴、怖い。

 緊張した空気は観戦席からも伝わってきた。

 ハデス先生の発言。それに、姉貴の凍えるような声。

 間近で目にする魔法騎士団長の姿に、完全に気後れしているようだな。まあ、こんだけ圧巻な風格を醸し出してりゃ、ビビるぜ普通。


「そういえば、レッフィーに直接会うのも随分と久しぶりね。昨日は通信で話したけど……」


 そんな空気を壊したのは、他ならぬ姉貴である。

 あー、そいえば姉貴とハデス先生は学園時代の同級生だったな。にしても、レッフィーって(笑)。


「コーリエ………その呼び方はやめてって前から言ってるだろ……」


 うん、嫌がってるね。ついでに吹き出しそうになった俺を睨んでるね。

 くわばら、くわばら。

 大体話が纏まったようなので、俺はそろそろ課題達成の準備に向かいたいところだ。


「もういいか、姉貴?」


「ん、ええ、あなたたちがチームを組む話なら、私が通しておいてあげるわ。コウジが実力を示したことだし、意見する人なんてたぶんいないわよ」


「実力ねぇ。半分も出してなかったけど、良いのか?」


「十分よ。それと、体力は早めにつけておきなさい。せっかくの高い能力も、使いこなせなかったら宝の持ち腐れよ?」


「だから、俺は別に魔法使いになるつもりはねぇんだって……」


 最後の方は超小声でぼやいたのだが、姉貴には余裕で聞こえたらしい。超睨まれた。

 こういうときは、逃げるに限る。


「うっ、行くぞ、タチバナ……」


「え、あ、うん……失礼します。海藤騎士団長」


「ええ、コウジのことよろしくね」


「は、はい!」


 いや、軽快に返事してるけど、よろしくしてるのはどっちかと言うと俺の方だからね。

 左右の手にある剣を腕輪の中に戻し、退出しようと向かった闘技場の入口には、イメルダやラルフ、秋人たちも来ていた。三人とも、決闘の結果に満足したように笑っている。

 はぁ、ようやくこれで課題が先に進む訳だ。

 疲れるねぇ。

 闘技場を出る前に一度振り返ると、すでに姉貴の姿はない。

 そしてようやくハデス先生の剣から解放されたマーカーが、ぶるぶると震えながら起き上がっていた。

 あーあ、相当ビビったみたいだな。姉貴と姉貴の肩書きに。ついさっきまで偉そうにしていたのが嘘のように小さくなっている。

 なんか、俺が勝ったというより、姉貴に全部持ってかれたような気がするな。

 どうにも最後の一撃を加えられなかったことでスッキリしなかった俺は、憂さ晴らしに去り際の一言を付け加えてやることにした。


「失せろ、雑魚が……」


 決まった。俺の捨て台詞。

 なんか異様に闘技場が静かだったせいでスゲー響いたけど。

 台詞を発した数秒後にマーカーが崩れ落ちたような気がしたけど。

 観戦席の生徒や教員が固まった気がしたけど。


 俺、気にしない。


「あんまり浅い台詞を吐くなよ、コウジさん。自分の価値を下げるぞ?」


 と、思ってたら、一番年下の秋人に怒られた。

 反省反省、てへっ!


 ◇ ◇ ◇


 王都メリゼルの西地区ウェルス。

 俺たちはここの魔法商店街に来ていた。

 メインストリートから裏道まで、レイバ国の魔法に関するあらゆる物資が揃っている場所らしい。

 本当かどうかは知らんが、ここらの店の店主たちが豪語してるんだから、そうなんだろう。


 まあ、この商店街の何が凄いって檻に入れられたサーベルタイガーが堂々と店の前に並んでるところかな? あれ? これって確か、地上界の絶滅した動物だったような気がするんだが。


「おう、コウジじゃないか。今日はお友達と買い物かい?」


 店の前で呆れ顔をしていると店主のおじさんに声を掛けられた。

 俺はよくここら辺に来ているから、大概の店の人とは知り合いだ。


「どうも、店長……また変なのを引っ張ってきたみたいだね……」


「変なのはねぇだろ。ちゃんと見てみろよこのサーベルタイガー。最近仕入れ始めたばかりだが、ペットとしての評判もかなり高いぜ?」


「これ、ペットのつもりなのか………」


「地上界で絶滅する前に大半をこの魔法界に移住させて、それから何年も経っちまってるからな………当時のままとはいかねぇが、まあ大して変わらんだろ」


 いや、知らねぇけど。

 そもそも地上界なんて行ったことねぇし。


「なんか、魔物みたいだね……」


 タチバナが少し引き気味で言う。


「昔読んだ図鑑にこんなの載ってたな……」


 秋人はどこか興味深そうにしている。


「でもちょっと可愛くない?」


 イメルダ………どう見ても可愛くはないぞ。


「食えるのかな?」


 肉じゃねぇよラルフ! ペットだよ! いや、ペットにしたいとも思わねぇけど。


「で、買うか?」


「買わねぇよ……ただでさえ家には、手を焼いてる猛獣がいるってのに……」


 姉貴だね、姉貴だよ。

 下手したらサーベルタイガー食われちゃうんじゃないの?

 弱肉強食って怖い。


「今日の用事は装備屋の方だから、またなおっちゃん………」


「おう、今日も店番はテルノアちゃんだから、ちゃんと相手してやれよ!」


「……………」


 ペットショップ(?)のおっちゃんの言葉に、俺は、というより、俺の後ろにいるイメルダがあからさまに嫌そうな顔をしていた。

 あいつとイメルダ。超仲悪いんだよなぁ。

 なんか知らんがこの課題をやるにあたって、次から次へと面倒事が増えてるような気がするぜ。


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