第二十四話 ぶっ潰してやる
闘技場に入ると、俺の扱いはまるで生け贄だった。生け贄で、見せ物だった。
公開処刑の処刑台に上らされたような気分だ。
一学年から六学年まで、結構な人数が上の観戦席に揃っているようだが、概ね一年生と上級生の目的はマーカーの魔法戦闘を見たいがためだろうな。
どこか期待が、第二学年の連中とは違う方に向いてる気がする。
んで、問題なのはその第二学年、つまり俺の同級生たちだ。
嘲笑、冷やかし、侮蔑、などなど。
目付きや顔付きだけでなく、何かと口に出して敵意や害意を向けられてる。
あれ? あれあれあれ? 俺ってこんなに嫌われてたのかな?
同じクラスの奴らはともかく全クラスでここまで悪く見られてるとは思わなかったぜ。
もうあれかな、潔く退学した方がいいのかな?
と、そこで、元からざわざわとしていたギャラリーが、沸き上がるように騒がしくなり………一気に静まる。
つられて上に目を向けると、全員の視線が、観戦席に入ってきた二人に集まっていた。
このメリゼル魔法学園に在学している四千人近い生徒の中で、今、最も有名な二人の魔法使い。
第五学年にして魔法学園最強、既に魔法教会でトップクラスの実力を持つ絶世の美女―――エレナ・サイフォリオ。
同じく第五学年で、サイフォリオ先輩に並ぶ美貌と才気を持つ魔法使い。そして、俺がこんな目に遭っている根本的な原因を作った者の一人―――クレリア・オルゴート。
………………何しに来たんだあの二人?
訝しげな目を向けてたら、二人が同時にこっちを見てきたので慌てて視線を逸らした。
と、逸らした先に見えた姿に、俺は絶句する。
黒いローブにフードを目深に被った存在が、観戦席の隅で潜むように立っていたからだ。
フードのせいで、顔は見えない。
けど間違いない。
あれは、姉貴だ。
あ、ね、き、だ!
お姉様………いったいそこで何をしてるのん?
というか、また仕事フケて来やがったなあの姉貴。マジで俺より姉貴の方が親父に説教くらうべきだと思うのだがどうだろう?
いや、マジであんたは何しに来たの?
てか、ヤバい。負けたら退学とかいう話が姉貴にまで伝わってたら…………、
チラリ、と恐る恐る姉貴の口元を見やれば。
―――ま、け、た、ら、ゆ、る、さ、な、い……。
ぎいぃぃぃぃやあぁぁぁぁ!
………………負けたら、アカン!
………………負けたら、死ぬ!
これで退路が完全に断たれた。
タチバナや秋人たちも、いつの間にか観戦席の方に上がって楽しむ気満々の顔でいる。
………………楽しくねぇ~。
大きく肩を落として、相変わらず偉そうな態度で立つマーカーの方へ身体を向けた。
もういいや。
今は余計なこと考えんのやめよ。
姉貴まで来ちまった以上、負けは絶対に許されない。
集中しろ。
研ぎ澄ませ。
心を鎮めて。
力を絞り出せ。
「おやおやぁ、そこに見えるのは無能なボンクラじゃないかぁ? よく逃げずに来れたものだねぇ?」
嫌味ったらしいマーカーの声が、どんどん遠くなっていく。
「見たまえよぉ、この大観衆………仮にもこれは君たちの仕掛けた『決闘』だぁ。君はこれからこんな大勢の前で無様に敗北し、醜態をさらすことになるんだよぉ」
嘲笑が聞こえる。客席の一部からも。
だけど、そんなことは最早どうでもいい。
「たっぷり後悔したまえよぉ。この私に『決闘』を申込んだことぉ。その提案をした如月君もぉ、ホントは君なんかとチームを組みたくなかったんだなぁ、こんな分かりきった賭けをさせてぇ。やはり君は、疎ましいだけの低俗なボンクラなんだよぉ」
「マーカー先生………それ以上、生徒へ暴言を吐くのは問題になりますよ」
この決闘の審判はレフィーロ・ハデス先生だった。
鋭い眼差しを向けた彼女の警告にも、マーカーはどこ吹く風で手をヒラヒラさせている。
「ふん、こんなクズに何を言ったところで問題ではないよぉ。切り捨てられるべきボンクラに構っているほど魔法学園の講師は暇じゃないんだぁ」
そんなマーカーの態度に再度睨みを利かせるハデス先生だが、今の俺にはその光景も、どこか遠い世界に見えてくる。
「さぁ、君はさっさと開始の合図をしたまえぇ。ついでに私の華麗な魔法戦闘をしっかり見ておくことだねぇ」
マーカーと俺の間に一定の距離がとられ、ハデス先生がその真ん中に立つように手を掲げる。
この決闘にほとんど制限はない。
ただ相手を戦闘不能に追い込むだけだ。
限りなく、本物の魔法戦闘に近いものといえるだろう。
だからこそ俺も、
本当に、本気で、戦える。
「それではこれより、ガルシア・ウェイ・マーカーと海藤光示による決闘を始めます!」
ハデス先生の掛け声により、決闘場の空気が緊張に包まれる、ということはなく、騒々しい雰囲気は変わらなかった。
当然だろう。
勝敗の見え切った勝負に、緊張などしない。
諦められた戦い。
逆に、何の期待もされない戦いほど、楽な勝負はないともいえる。
気負う必要などない。
焦る必要などない。
負けて当然と周りから思われているならむしろ、それをひっくり返してやったときが一番面白かったりする。
嘲笑を浮かべ、高い椅子に座りのさばるバカを叩き落とす瞬間ってやつは、
最高に、高揚する。
これから始まる決闘は、そういう戦いだ。
実力の差と才能の差が物語る残酷な壁。
魔法という、完全実力主義による生死を分けるぶつかり合い。
魔法は楽しむものでも、自慢するものでも、優越感に浸るものでもない。
魔法は生きるか死ぬかの生命線。
勝てば生き、負ければ死ぬ。
決闘に望む者ならば、それを本当の意味で知っていなければならない。
だから、
それを知らずにその場に立つなら、
徹底的にぶっ潰してやるよ。
「両者、剣を構えて!」
ハデス先生の言葉に、マーカーは腰の剣を抜く。
そして俺は、
「『我が手に剣を』」
魔力を込めた声によって、両手首に付けた銀の腕輪へ呼び掛けた。
それに答えるように両の腕輪が白光し、腕輪の中から二本の刀剣が現れる。
右と左。
俺が両手に握った赤紫色と青紫色の刀身をした小さめの剣を見て、ハデス先生は目を見開いた。
「二刀流………」
その呟きは、観戦席に新たに広がったざわめきの中に消えた。
観戦席。
塾生時代の先輩たちは、ハデス先生と似たような驚きの顔をしている。
他の上級生たちは高みの見物のつもりなのか、どこかお手並み拝見という顔をしている。
俺の同級生たちは小馬鹿にしたように吹き出したり、嘲笑の勢いを上げたりしていた。
「なんだぁ? 剣を、しかも『霊剣』で二本も持ち出してぇ、本当にふざけたボンクラだなぁ貴様はぁ……。振り方もろくに知らない小僧がぁ、『霊剣』を持つなぞ十年早いよぉ。貴様のようなボンクラには、木剣の方がお似合いだぁ」
マーカーからも嘲りの言葉をぶつけられるが、今度はハデス先生も反応しなかった。
先生の顔は、どこか歓喜したような気持ちの高ぶりが如実に表情に出ていた。
嬉しそうというか、楽しそうというか、俺が二本の剣を取り出したことが、ハデス先生の何かに影響を与えたようだ。
まあ、別に俺には関係ない。
興味もないしな。
今すべきことは、目の前にいるこのバカを叩き潰すことだ。
武者震いを抑えるように、ハデス先生がその手を挙げる。
「決闘―――開始!」
始まった。
俺は取り敢えず、様子見をしようと二本の剣をだらりと下に向けたままマーカーの出方を待つことにした。
「ふん、そのやる気のない構え、やはり貴様にはこの学園を出ていってもらわねばならんようだねぇ。幸いにもこれは君が挑んだ決闘だぁ。痛め付けられても文句を言うなよぉ?」
マーカーが俺に剣先を向けた、のは良いんだが、
「最初の一撃は手加減してあげるよぉ」
はぁ、また馬鹿げたことを言ってやがるなぁ。本当にこいつぅ、魔法使いとしての自覚があるのかねぇ。
あ、やば、マーカーみたいな口調になっちゃった。
「『大地の精よ――我が声に従え・漠土の硬弾』」
マーカーが唱えたのは、種別魔法第一種精霊系統の土系統初級魔法『漠土の硬弾』だった。
どこからともなく現れた『土』がマーカーの掲げた剣の先に集まり、凝縮されて硬化される。
一流の土系統魔法使いともなれば、ただの初級魔法の砲撃が鉄球並みの硬度を誇るらしい。
ぶっちゃけ、当たれば超痛い。
勢いと重さもあるから骨の二、三本は折れるだろうな。
「降参するならぁ、今のうちだよぉ。土下座でもしたら認めてあげようぅ」
「……………」
敢えて返事をせずに睨んでいると、マーカーは苛立たしげに顔を歪めた。
「このっ、クソ生意気なボンクラがぁ!」
叫びながら勢いよく放たれる土の塊。
大きさはおよそ俺の顔くらいだな。
その狙いは寸分の狂いもなく、俺の身体に向かってくる。
流石は実技担当の魔法使いだけあって、照準も威力も学生とは比べ物にならないな。
イチイチかわすのも面倒だった俺は、だらん、と下ろしていた左側の剣を、硬弾が着弾する手前で斬り上げた。
硬化された弾丸は一瞬で真っ二つに分かれ、俺の左右を通り過ぎる。
後ろで重い物が壁にぶつかった音が派手に響いたと同時に、観戦席を含めた闘技場の全ての時が止まった、ような気がした。
いや、ただ静まりかえっただけだが。
あれだけ騒いでいた同級生の奴等まで、嘲笑した顔のまま固まってやがる。
「な、な、な……」
対峙しているマーカーの方は、言葉が上手く出てこないようだ。
間抜け面だ。しかも、まったくもって隙だらけだな。
「マーカー教諭………」
面倒だが俺はマーカーに言葉を向けてやる。
「アホ面かましてボヤボヤしてると、負けますよ?」
「っ! き、貴様ぁ!」
おー、怒りに奮えている。
プライドを傷付けたか? なら、よし!
「図に乗るなよぉ! ボンクラぁ!!」
あーあ、子供の言葉を真に受けて簡単に頭に血が上るとは、なんか俺が相手にしてるのがバカらしくなってきたな。
「『 大地の精よ――我が声に従え・漠土の硬弾 』」
再び唱えられたマーカーの魔法。
今度は一発じゃない。
連射された土の硬弾は、様々な変化をつけて俺を囲むように迫ってくる。
けど、この程度の魔法なら、ほとんど意味はないな。
第二学年である俺は、まだまともな系統魔法を習ったことがない。
メリゼル魔法学園では第三学年から習うのが普通だし、魔法塾でも精霊系統などの種別魔法は選択授業の一環として学ぶものだ。そこで選んでいなければ、他の授業に触れる機会は魔法学園までお預けになる。
塾生時代―――イメルダやラルフが選択していたのは種別魔法の精霊系統だったが、俺が選んでいたのは魔法戦技の剣術系だった。
そして俺は、塾生時代から剣術では誰にも負けたことがない。
その理由の一つが、これだ。
「『竜の牙』」
俺の中の魔力が両手を伝い剣に集まり、高まる力が凝縮から一気に爆発する。これは、剣の一振りがもつ威力を、俺の魔力が許す限り引き上げる技術だ。
魔力を帯びた刀剣から竜の咆哮のような叫び声が上がる。ビリビリとした空気の震えが、闘技場全土を揺らした。
「『竜の円舞』」
左右の剣を硬弾の嵐にぶつける。
発射される軌道、変化する軌道、その全てを読んで叩き斬っていく。
あー、剣振りながらクルクルと回ってると目まで回るぜ。
結局、十数発の硬弾は、一発たりとも俺にかすることがなかった。全ての土の塊を斬り裂いた俺は片方の剣をマーカーへ向けて、カッコつけた風に笑った。
唖然とした顔が剣の先にある。
「これで終わりか?」
唖然としてるのは観戦席の連中も同じのようだ。さっきから全然声が聞こえてこない。いや、俺が集中してるから聞こえてこないのかね?
まあどっちでもいいや。
「今のはまさか………クレリアと同じ………」
ようやく聞こえてきた声は、観戦席にいたエレナ・サイフォリオ先輩の呆然とした呟きだった。
確かに俺が使った剣技は、《竜皇》と呼ばれた天才魔法騎士クレリア・オルゴートと同質のものだが………、流石に俺の魔法戦技じゃ先輩ほどの威力は出せないだろう。いや、先輩の技は見たことねぇけど。
「バカな! 『竜剣術』は最上級クラスの騎士にすらまともに扱える者がほとんどいない先天的能力に大きく依存する高等魔法戦技だぞぉ。何故それを貴様のような小僧がぁ!?」
マーカーは酷く混乱しているようだった。
気持ちは分かる。
ボンクラ呼ばわりしていた気にくわない生徒が、自分にすら使えない高等魔法戦技を使っている事実に相当なショックでも受けてるんだろうな。
無様な野郎だ。
「ああ、あんたらとは才能が違うからな」
言ってやった。
ああいうエリート思考には、的確で一番ダメージのデカイ言葉だ。
「ッ!」
あ、キレた。
「図に乗るなと言っただろうぉ! いい気になるなよボンクラがぁ!!」
みっともなく叫び散らして、もはや滑稽だな。
だがマーカーは本気で怒りの臨界点を超えたのか、激情のままに剣を地に突き立てる。
「『大地の精よ――我が元に集い・従う守護者となれ』」
次にマーカーが発動したのは、土によってゴーレムを造り出す魔法『大地の守護者』。
それによって兵士のなりをした土の人形が二十体ほどマーカーを守るように現れた。
ガッチリと、自分が隠れられるように土人形を盾にしている。
どこの臆病な王様だ? 笑える絵面だな。
「自分の身を守るのに必至ですね、マーカー教諭……」
「黙れぇ! 高等魔法戦技を使えるからといって貴様のようなクソガキに負ける私ではないぃ!」
「そう叫ばなくても、別に間違った戦術ではありませんよ。自分より格上の相手と戦うとき、自分の身を守りながら逃げるのは選択肢の一つでしょう」
「なんだと!!」
ぶちギレたマーカーを相手に俺はさらに挑発を続ける。
感情任せに動く奴ほど、読みやすいバカはいない。
そんな術者に呼応するように、土人形の兵士たちが俺に突撃してくる。
剣と盾を持ち、甲冑姿のゴーレムは当然の俺よりもデカくて、十体以上が近くまで迫って来ると中々に威圧感があったが、威圧感なら俺だって負けねぇ。
―――魔力を一気に高めろ……。
俺の中にある膨大な魔力が闘気と混じり合って身体の内から湧き上がる。
殺気は出していない。
それでも本物の戦いを知らない魔法使いにとって、これだけの重圧はかなり厳しいだろう。
俺を中心にして闘技場に広がっていく魔力の波紋は、観戦席でこの戦いを観ていた大半の生徒や教師たちの腰を抜かせるには十分過ぎたようで、皆の顔付きがさっきまでと明らかに変わっていた。
んで、俺の相手であるところのマーカーもまた、威圧を受けて尻餅を付いている。
ゴーレムたちも静止していた。
「どうしましたマーカー教諭? 本物の戦場では、尻餅を付いている暇なんてありませんよ?」
「き、貴様ぁ、さっきから何だその態度はぁ!? 私はこの名門メリゼル魔法学園の講師だぞぉ!? 貴様のようなクズな生徒が手をあげていい相手ではないんだぁ!!」
「…………本気で言ってんのか?」
「あぁ!?」
本当に、どこまでも苛つくバカはいるもんだな。
「決闘は模擬戦とは違う……………戦いの場だ」
命を懸けるべき本物の戦場の一つだ。
「魔法使いが立つ戦場で教師も生徒も関係ねぇよ。力が勝れば生き残り、力が足りなきゃ死に至る…………ただそれだけだ」
そしてその力を大きく支えるものの一つが、持って生まれた天性の才能だ。
「見せてやるよ。格の違い、才能の違いってやつをな」
威圧したまま俺は再び二本の剣を構え、勢いよく地を蹴った。
木偶の坊同然のゴーレムと、その先にいるマーカーに突っ込む。
「ひ、ヒィ!!」
マーカーの悲鳴のような声が上がった。ゴーレムたちが俺の行き先を阻むように動き出す。
バカデカイ剣が振り下ろされるのを右の剣で受け流し、反撃に左の剣を突き立てた。
左が盾によって防がれても、受け流した方の右が身体を回した遠心力で戻ってくる。
「『竜の牙』」
防がれた左の剣に右の剣を叩き付けて発動した『竜の牙』は、ゴーレムの盾ごとその胴体を真っ二つに斬り裂いた。
続くゴーレムは左の剣で足を薙ぎ払い、その後ろにいたゴーレムの首を右の剣で吹き飛ばす。
研ぎ澄まされた集中。
体力さえ気にしなければ、魔法薬『アクセル・スパーク』を必要としない俺の速力は、動きの重いゴーレムごときに捕まらない。
俺は数秒の内に、十数体のゴーレムを全滅させた。
勢い止まらず、俺は恐怖に固まったマーカー目掛けて駆ける。
剣を構えて突撃する俺の頭の中にあったのは、戦場で相手を叩き潰すときの感覚だった。
即ち、
―――死ね!!
実際には非殺傷結界があるから死なない。だから、ためらいなく俺は二本の剣を薙ぐように振り下ろす。
甲高い金属音が響いた瞬間、爆発でも起きたのかと思えるほどの風圧と轟音が闘技場を包み込んだ。
動きを止められた俺の二刀。
大きな魔力と大きな魔力。選ばれた一握りの存在が持つ魔力の波動がぶつかったことによって生じる嵐。
………っていうか、おいおいおい!
闘技場の壁とか床とか、観戦席の一部が圧力でぶっ壊れてるぞ。
結界で闘技場が囲まれてなかったら間違いなく観戦してた生徒たちまで怪我してたくらいには危なかった。
マーカーは魔法の技術はともかく、俺とタメ張る魔力はない。
つまり、俺の剣を止めたのはマーカーじゃない。
割り込んできた存在は、黒いローブを纏っていた。
「って、姉貴……?」
いや、分かってたけどね。
俺が全力で魔力を込めた二本の剣を、一本の剣で真っ向から平然と止めれるなんて姉貴くらいだろ。
姉貴は相変わらずフードを目深に被っているが、呆れたような表情でいるのが分かる。
「コウジ………やり過ぎよ………」
「いや、やり過ぎ、って……」
「今の一撃……非殺傷結界があったとはいえ、直撃させればマーカー教諭を再起不能には出来たでしょうね」
あ、そうなんだ。
チッ、おしかったな。
「その心底残念そうな顔は取り敢えず隠しときなさい。マーカー教諭は気絶してるけど、観戦席からドン引きされてるわよ?」
言われて上を見てみると、生徒たちの半分くらいと観戦していた教員の全ては恐怖の表情を浮かべていた。中にはマーカーと同じように気絶してる奴らまでいる。
この決闘の審判をしていたハデス先生も、俺と姉貴の魔力がぶつかった爆風に吹き飛ばされたのか壁際に転げて固まっていた。
「決闘はここまで。勝者はあなたで、誰も文句は言わないでしょう」
「まあ、それでいいならいいけどよ……」
「ええ、お疲れ様、コウジ。腕は鈍ってないみたいで安心したわ」
「いや、こんな雑魚相手じゃ話にならな過ぎて、鈍ってるもクソもないけどな………」
本当にため息が出てくる。少なくとも俺よりも数段実力が上だと思ってたのに、蓋を開けたらこれだもんな。
「魔法実技担当の講師と聞いて相当強い魔法使いかと思えば、拍子抜けの期待はずれもいいとこだ」
「あなたは自己評価が低すぎるのよ。塾生時代に世界基準だったあなたを倒せる魔法使いなんて、この学園ではエレナかクレリア、メルトリエの三人か秋人様……もしくは―――」
「コウジ!」
姉貴の言葉は闘技場に降りてきた少女の声に遮られた。
振り向くとこちらに駆けてくる姿が見える。
「タチバナか……」
「うん、凄かったよコウジ! さすがは剣の神童と呼ばれた《双剣童子》!!」
ピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねるタチバナに随分と懐かしい通り名を出され、俺は苦笑いした。
その名前に対してじゃない。
別に今さらそんな通り名に意味はないからな。
ただ、その名前を以前から知っていたように呼ぶ少女に、俺は素直に笑えなかった。
《双剣童子》は、《魔弾の銃姫》と共にあの試合の中で付けられた、知る者の少ない通り名だ。
ミーティア塾出身以外のこの学園の生徒が、当たり前のように使う名前じゃない。
―――予想はしてたが、やっぱりこいつは……。
俺は、俺とタチバナを見ながら楽しげな笑みを浮かべる姉貴に気付かない振りをしていた。




