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第二十三話 見せてやるよ

 二年ほど前の『魔法塾対抗戦』―――あの世界大会で、俺は始めて敗北を知った。


 西大陸パルレギア王国の第二王女―――光・ロード・パルレギア。


 大会を勝ち続け、誰が相手の練習でも負けなしだった俺が始めて敵わなかった相手は、同い年の女の子だった。


 パルレギア王国のお姫様。


 魔法学園に在学している学生は例外なく見習い魔法使いだが、彼女は塾生にして枠を超えた存在だった。

 度を超えた、と言ってもいいかもしれない。

 とにかく彼女は常識を遥かに凌駕する領域にいた。


 美しき魔法使い。


 世代最強の魔法使い。


 ―――『魔弾の銃姫』。


 魔法界全土。大陸を問わず、各国にも魔弾の異名を持つ魔法使いは何人もいるが、剣を武器として戦うのが基本の魔法戦闘で、彼女の手に握られていたのは銃だった。

 魔法の銃。

 過去の大戦の産物とも言われる魔法具だが、製造仮定で精霊を宿せないことから欠陥品となった武器だ。

 精霊の力を宿せない魔法具では、魔法の威力は剣に数段劣る。射ち出される魔法攻撃も避けられないスピードではないため、ハッキリ言って現代魔法においてはクソの役にも立たない物の筈だったんだが。


 結果的に、俺は負けた。


 勿論、手も足も出なかった訳じゃない。

 ギリギリの、本当にギリギリの戦いだった。僅か一秒の駆引きが勝負を分けたと言っても過言ではない。本当に……………駆引き弱いなぁ、俺。読まれちゃうんだもん。思惑が読まれちゃんだもん。んなもん勝てるもんも勝てねぇやい。

 同世代との戦いで、始めて負けた瞬間。

 悔しかったけど、それでも清々しい気分だった。

 全力でぶつかっても勝てなかった。

 自分の全力に答えてくれる存在がいることの嬉しさを始めて知った。

 そうだ。

 あの時、俺は確かに嬉しいと感じてたんだ。

 自分が勝てないくらいに、強い存在がいることを。


 本当に、


 バカだったよな。


 ―――まさか、本当に二人がかりでこの程度? これで世界大会のトップツー? いくら余興だからって、笑えない冗談だね……。


 世の中には、戦うことさえ放棄してしまうような本物の天才がいる。

 才能を、恐怖と感じてしまうほどの天才がいる。

 天才を、もはや化物と呼んでしまうような存在がいる。

 化物で、怪物で、ただの人間でしかない俺たちでは届かない場所。

 踏み込むことの出来ない境界線。

 絶対的なまでの、才能という壁が分ける世界。


 俺では到底理解の及ばない領域に立つ。

 俺のような偽物の天才とは全然違う。

 そんな本物の才気という奴が。


 ◇ ◇ ◇


 今日一日の大半を爆睡して過ごした俺は、体調万全、体力満タン、何の言い訳も思い浮かばないほどに絶好調のコンディションだった。

 さてはて。

 やって来ました放課後だ。

 やったぁ放課後だあ! 今日の授業全部終わったあ! あとは帰るだけだあ! 俺は自由だあ!

 あははははははは……………はぁ、マジ帰りてぇ。


 ここは模擬戦や決闘に使われるメリゼル魔法学園の闘技場……………の控え室。


 俺の目の前には、俺がチームメイトとして選んだ友人たちと、タチバナの姿がある。


「凄いな、見てみろよコウジさん……客席の方、学園の生徒で満席だぞ?」


 これから使う闘技場の方を魔法でモニタリングしていた秋人が言う。


「満席って………、何だってこんなくだらん決闘を観に他の学年の生徒まで来てんだよ……」


「おー、思ってたより多いな。つか、あれ、コウジさんと同学年の人たちとか、学園の教員の一部とかは、なぁんか嫌な感じの顔してるぞ。大方、コウジさんがボコボコにされて退学させられることを喜んでる人たちか。さすがはコウジさん、随分と嫌われてるな」


「んな事細かな解説いらねぇよ。マジで落ち込むだろ!」


 秋人の言うことは紛れもない事実だろうが、そんなハッキリ言わないで!

 ただでさえここまでタチバナに強制連行されたことでテンションだだ下がりだったのに。これ以上下がったらもう逃げるぞ!

 そんなことを心の中で思ってると、今度はラルフが映像を覗き込んで口を開く。


「おい、よく見ると、ミーティア塾時代の先輩たちまでいるぜ………」

 

「あ、ホントだ。カーラ先輩とかまでいる。そいえばコウジ君は入塾当時から塾生代表メンバーだったから、たぶん、みんな気にしてるんだね」


「確かに、先輩たちの表情は他と違って、何か期待したような、心配したような、どこか怒ったような顔してるな。塾生時代の天才が学園に入って悪い噂ばかりだから、それに対するものだろう。久しぶりに見れるコウジさんの全力への期待。学園に入ってから落ちぶれたコウジさんへの心配。魔法への興味とやる気をなくしたコウジさんへの怒り、か。まあ、それに至っては俺たちも同じだが」


 ラルフとイメルダ、秋人の会話に、何だか居たたまれない気持ちになってきた俺。

 知ってる先輩たちにまで観に来られるとは思ってなかったから、何か、こう……スゲー緊張してきたんだけど。しかも期待とか、俺がこの世でもっとも求めていないものだからね。


「コウジ? 大丈夫? そろそろ時間だよ?」


 あー、タチバナだけが今の俺の癒しだなぁ。俺のことをちゃんと心配してくれるのはお前だけだよ。

 ま、この状況に追い込んだ原因と、この場に無理矢理連れた来たのは君だけどね? 心から心配してくれるならいっそ俺を帰らせてくれないかな?


「マーカー先生は、もう闘技場に出てるよ?」


「みたいだな。というか、何だ……あの偉そうな態度。明らかに人をバカにしたような顔しやがって……」


 まだ俺が場に出てないにも関わらず、すでに俺のことを見下しているような顔で堂々と腕組みをしているマーカー教諭。

 うーわー、マジうぜー。

 ウォーミングアップか何なのか、剣を抜いて、土系統の魔法で的当てやら剣術やらを見せびらかしてやがる。

 公開処刑前の模範演技は集まった生徒たちに好評なのか、「おお~」とか「すげぇ」とかの感心の声が上がっていた。

 まあ、魔法実技担当の講師が使う魔法なんて早々見られるものじゃないから、興味を惹かれる気持ちは分かる。

 自分たちの使えない魔法や、出来ない剣技などを簡単にやって見せる人間に憧れるのも無理はない。

 いや、別段それはいいんだけど……………何あのマーカーのドヤ顔。

 超腹立つんだけど。というかムカつくんだけど。


「なぁんかイラつくな。ああいうバカは……」


 どうやら秋人も同じ気持ちだったらしい。

 見ればラルフ、イメルダ、タチバナまでも、呆れたような冷たい眼差しでその様子を眺めていた。

 ここにいるメンバーは全員、分かっている。

 だからこそ、俺はこいつらをチームに選んだんだ。

 友人云々以前に、理解出来ない人間と、俺は一緒に戦えない。

 例えば、今あの観戦席でマーカーの技に感嘆している生徒たちとかな。


 こいつらはちゃんと理解している。


 だから、分かるんだよな。

 マーカーのやっていることが、教員としても、魔法使いとしても、如何に愚かなものであるか。


「無知な教員へしっかり教えてやれよコウジさん。本物の魔法戦闘ってやつをな……」


 秋人の言ったセリフは、奇しくも俺が朝に教室で言ったことと同じだった。

 そのクラスメイトたちも、今、あの観戦席の中に見える。

 他の誰とも違う、どこか陰りのある表情をしていた。


「本気でやれよ。コウジ……」


 昨日から続いているラルフの言葉は、決闘前にも念押しとばかりに告げられる。


「五分もあれば、マーカーが地べたに張り付いてるかもね」


 イメルダが笑いながら言う。随分と高く買われたもんだな。本当に勝てると思ってんのかこいつ。


「頑張ってね、コウジ。コウジはやれば出来る子だよ」


 というか、やらかしちゃった子なんだけどな。

 出来る出来ない以前に、取り組み方が明後日の方向にいっちゃってるよ。

 タチバナの言葉に苦笑いして、俺は改めて集めたメンバーを見やる。

 はぁ、皆にここまで言われたら、しゃーねーか。


 俺は両手首に身に付けた銀の腕輪を確認し、リュックの中から魔法薬の小瓶を一つ取り出す。

 魔法薬『ビルドスパーク』。

 身体能力を上げる力を持つ薬。

 身体能力強化というと思い浮かぶのは、速く動けたり、怪力になったりと、インパクトの強いイメージが真っ先に出てくるが、この『ビルドスパーク』がもたらす身体能力強化は単純かつ地味な―――体力増加。

 所謂、精力剤のような効能だった。

 俺は一応、速力を上げる魔法薬『アクセルスパーク』も作れたのだが、作らなかった。作る意味もない。

 必要性が皆無だからな。

 俺は蓋を開けた『ビルドスパーク』を一息に飲む。

 体の中からエネルギーが沸き上がるような感覚はないが、俺が微細なところまで神経を使って作り上げた魔法薬だ。これで体力はほぼ無尽蔵の状態。

 効き目はおよそ三十分。

 一試合は余裕でもつ。

 体力を気にすることなく、遠慮のない全力が出せる訳だ。


「うし、じゃ行くわ……」


 見せてやるよ。

 俺の本気ってやつをな。

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