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第二十話 戦う準備か心の準備か


「………で、コウジ……手持ちにする魔法薬は『ビルドスパーク』だけか?」


 ラルフの言葉に、俺は小さく笑う。


「マーカー教諭は『土』系統魔法の使い手………秋人は対策しとけって言ったけど、俺に打てる手なんてしれてるしな」


「『土』ってことは、相性で有利なのは『風』の魔法だけど………」


 そんなの使える訳無いわよね、とイメルダは言う。

 ………確かに使えないけどね。言い方に何かトゲを感じるぞイメルダさん。

 南大陸で使われる4つの精霊系統魔法は『火』が『風』に、『風』が『土』に、『土』が『水』に、『水』が『火』に強い、などの相性がある。

 まぁ、ぶっちゃけ相性で有利なら勝てるようになるほど、この魔法界が甘い世界な訳もなく。

 魔法にも初級から上級までランクがあるし、威力、規模、効力、魔法によってそれも様々。

 相性は戦術の基本ではあっても、所詮は教科書戦闘の一つに過ぎない。

 何が起こるか分からないのが魔法界の醍醐味なら、相性を引っくり返す非常識も常識と考えられる訳で。

 というか、そもそも魔法界の戦いに型にはまった常識なんてない訳で。

 いっそ魔法における非常識という常識に乗っ取り、敢えて相性で不利な『水』でいくのはどうだろうか。

 あ、どっちも使えねぇや。

 そもそも戦う相手の対策って常識だよな。非常識な魔法戦闘の裏を突いて対策しないのがベストな対策ではないだろうか。

 結論、魔法で対策って意味あるの?


「………コウジ……何か今、ひねくれたこと考えなかった?」


「凄いなタチバナ、ついに俺の思考も読めるようになったとは………」


「顔に出てるよ……」


 と、タチバナ。


「ああ、やる気の無い怠惰な顔にな」


 と、ラルフ。


「コウジ君、ポーカーの類いは昔から苦手だったわね。いつもミーちゃんにカモられてたし」


 と、イメルダ。


 うわ、嫌な思い出が………。

 だって秋人の奴、平気でイカサマとかするし、顔見ただけで相手の手札を読んだりするし。それでいて自分が見せる表情はポーカーフェイスかブラフ。けど、ブラフと思って手を決めてもブラフじゃなかったりして。

 俺が顔に出てる出てない以前の問題だ。あれは俺がポーカー弱いんじゃなくて、秋人がズル賢いだけだろ。

 実際、秋人はカードの類いで負けたことがないと聞いた。

 もうやらねぇ。あいつとのカードは絶対やらねぇ。俺の幼き日のトラウマだ。


「まぁ、対策は………なんとかなるだろ」


「良いの? そんなんで………」


 杜撰な俺にタチバナは呆れていた。


「負けたら負けただ」


「ま、負けちゃダメだよ!」


「そうは言ってもなぁ」


 どのみち、確実に勝つなんて無理だろ。

 対策しない、は冗談としても、対策したところで勝てる見込みがどこまで変わるかって話だ。

 まぁ、それでも今俺たちの課題になってる『牛鬼』狩りよりは数段マシかもしれないけど。


「そういや、コウジ………」


「何だ?」


 ラルフが言う。


「剣はどうした? あのお姉さんから貰ったって『霊剣』……」


「あー、物置探せば出てくるだろ」


 …………たぶん。


「ちょっとちょっとコウジ君、まさか手入れもせずに置きっ放しなの?」


「あー、手入れ……、してる……、よ?」


「返事が全然大丈夫じゃないじゃない!」


 イメルダが怒声を上げて迫ってきた。怒ってるのがよく分かる、恐い目だ。


「い、いや、大丈夫だって! 錆びたりしてないから……」


「コウジ、魔法で精霊を宿して作られた『霊剣』は錆びないよ……」


 必死に言い繕う俺に、タチバナが横から冷静なツッコミを入れてくる。


「ちゃんと二本あるんだろうな?」


 さっきの学園でもそうだったが、ラルフは明日の《決闘》をマジで勝ちに行けと言ってるらしい。

 剣術稽古の時のこと、もしかして根に持ってるのか?

 負けたら恥の「俺の本気を~~」以下略、で戦うのは気が引けるんだよなぁ。


「そんなに俺が恥さらしになるのが見たいのかよ」


「………見たいんだよ」


「おい!」


「今のお前の本気をな……」


 思わぬ言葉に意表を突かれた。

 イメルダもタチバナも驚いた顔でラルフを見て、同じく驚いてる俺の方へ視線を移す。


 そして、


「………私も……私も見たいな……コウジ君の、今の全力が………」


「イメルダ……」


 あの、俺が魔法から離れていった一年前の出来事を、この二人は知っている。

 にも拘らず、そんなことをいうのか、お前たちは………。


「ねぇ、コウジ……」


 今度はタチバナが言う。


「相手が誰であろうと、魔法使いが戦いの場に立ったならその死力を尽くして戦う―――クレリア先生はそう言ってたよ」


 真っ直ぐとした綺麗な瞳が俺に向けられる。


「やってみなよ。私もコウジの全力の戦いが見てみたい」


 そこまで言われたら、俺に言い返せる言葉はない。

 時間は何よりの良薬でも、まだ完全に癒えたとはいえない俺の力がどれだけのものなのか、俺自身も分かっていないかもしれないな。


「………まぁ、チームを組む以上、互いの実力くらい正確に把握していないとダメだろうしな」


 どうにも素直に頷けないあたり、やっぱり俺はひねくれてる。

 クスクスと笑い出す三人に気恥ずかしさを感じるのと同時に、俺はがらにもないことを言ったと後悔した。


 素直じゃない解答。だがチームを組めることを前提に出た言葉。


 正式にチームを組むにはマーカー教諭の許可がいる。現状、許可を得るための唯一の方法。


 勝つためには、手は抜けないよな、やっぱり……。



 ――攻略開始三日目――



 翌日の学園は、何故か妙な噂が流れていた。

 俺が登校する際、やたらと見られていたから何事かと思ったら。

 学園の廊下で話題になってる内容が嫌ほど耳に入ってきた。聞かなきゃ良かった気もするが、もう遅い。


「聞いたか? カイトウコウジの奴、マーカー教諭を怒らせて、《決闘デュエル》することになったらしいぜ。しかも、負けたら退学だってよ」


「相手がマーカー教諭じゃ、カイトウの退学は確定だな」


「いよいよ年貢の納め時ってやつか、ククク………」


「ようカイトウ、お前今日で学園終わりなんだってな! 餞に最後の退学試験は俺らも観に行ってやるぜ!」


「逃げ出すんなら早めにした方がいいぜー。恥は掻いても痛い目には遭わねぇだろうからなぁ」


「元々プライドなんてねぇんだし、土下座でもして許してもらってこいよ」


「「「「「「「アッハハハハハハハ……………」」」」」」」


 生徒が行き交う中、すれ違い様に下品な笑いを浮かべる同級生たち。何でか知らんが、話がデカくなってる上に、俺に降りかかる不幸が増えてね?

 あっれ~~? また、面倒なことになりそうだぞ~~。


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