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第十九話 魔法薬作りが心の癒し


 ――海藤光示の魔法薬教室――


 魔法薬の精製に使われる植物には陰性と陽性があって、魔力を吸収して育つ魔法植物を陰性。日の光を浴びて育つ普通植物を陽性としている。


 これらと触媒とを上手く調合し、中性にして作られるのが世間で販売されている魔法薬だ。


 魔法薬を作るためには作業工程があって、工程の数は作るものによって変わったりもする。


 俺が今回作る魔法薬は『ビルドスパーク』。


 飲んだ者の身体能力を高める薬だ。

 素材は陰性の魔法植物―――『黄の実』×2、『海樹かいじゅ』×1、『スパーク・フラワー』×1。


 作る量で原料の数も変わるが、この比率で大体試験管五本分。

 ちなみに陰性の魔法植物は中性にする前に口にすると毒にしかならないから注意。俺も昔、興味本意でかじってみたら悶絶、気絶。速攻で病院に搬送された。

 もうしない。絶対しない。良い子は真似しないでね。


 《仕込み》


 まず始めに、釜の中に素材原料を投入する。ここで素材の質というのも大事で、腐った実や枯れた花、それに近くなってる魔法植物だと出来上がりの質も悪くなる。

 まぁ、俺が完璧に育てた植物にそんな危惧は無用だがな。堂々とドヤ顔を決められるぜ。

 素材を入れるのに順番は別に無いから、適当に放り込む。


 原料を入れたら次は触媒になる『霊水』だ。精霊の宿る水―――これは『火』、『水』、『土』、『風』の精霊で種類があるけど、どれも市場価格1000ゴールドで1樽買える。

 ただ今回作る『ビルドスパーク』は精霊の種類を問わないから、今一番在庫の多い『風』を使う。精霊はどうでもよくても『霊水』の量は決まってるから、流石に目分量とはいかない。樽から計量用の瓶に移し、釜へ投入。

 ここで量を間違えると、後々の工程で影響が出てくる。

 作り始めた頃は水を入れすぎて完成した魔法薬がやたらしゃばしゃばになったり、逆に水が少なすぎてゴテゴテになったりした。飲むときも気持ち悪くて、喉越し最低だった記憶がある。


 《加熱混合》


 素材と水。

 これらを適量入れたらそれぞれが馴染むように釜内を混ぜる。

 陰性の魔法植物は『霊水』に溶けるから、数分間掻き混ぜてれば釜の中は液体だけになり、透明だった水面は混沌とした色に変化。茶色だな。ぶっちゃけ綺麗な色ではない。


 ある程度釜内が混ざり合ったら、釜に熱をかける。釜の下部に敷き詰めた『火』の魔法石に魔力を送って、外から内部を加熱。


 釜の内温は100℃を超え、高熱をかけることによって釜内の液体が蒸発し始める。

 水分がとび、『霊水』の精霊が持つ魔力が、素材となった魔法植物に結合していく。

 熱をかける時間は『ビルドスパーク』の場合、二時間。もともと『霊水』の水は揮発性が高いため、釜の液体は目に見えて減った。


 ちなみに釜に触るときはミトンの着用をお忘れなく。

 俺は前に忘れてしまって火傷した………、くらいはまだ良いんだが釜の中にジュースをひっくり返して、いろんな思いのこもった叫び声を上げたことがある。


 《中和調整と濾過》


 加熱混合が終わっても、未だ陰性の液体だ。


 ここで釜に入れるのが陽性の普通植物。


 これも比率を間違えると中和を通り越して陽性になってしまう。陽性普通植物―――『日の草』を磨り潰し、適量を計ってちゃんと入れような。

 まぁ、魔法薬調合に使う陽性植物は大概『日の草』だ。中和するだけで魔法薬の成分に影響を与えない植物はこれだけらしい。


 物作りは品質が命だからね。『日の草』が手元にないとき、陽性だからと思って横着に適当な普通植物を入れたらダメだぞ。


 爆発しても知らないからな。


 あと、普通植物はいくら混ぜても『霊水』に溶けない。だが掻き混ぜる規定の時間で陽性の成分が釜の中に浸透。陰性を中和したあとは釜の底から伸びる配管で中性母液を濾紙の乗った濾過皿に流し、溶けなかった普通植物の残りかすを濾過によって取り除く。


 濾過された母液はそのまま配管を流れ、別の釜に移されるのだが、ここで使う濾紙の枚数や厚さを間違えると濾紙が破れてやり直しになるから、ちゃんと魔法薬に対応したものを使うことが大事。


 濾過後、濁りや淀み、不純物などが液に無いことを確認したら魔法薬『ビルドスパーク』の完成だ。

 

「あっという間に作っちゃうんだね。コウジ、凄い手慣れてる」


 出来上がった魔法薬に目を輝かせながらタチバナが言う。


「まぁ、『ビルドスパーク』は製造工程が少ないし、製造仮定で魔力調整がないから作り手の腕より素材の質がものをいうな……」


 まぁ、質も最高なんだけど。ドヤァ。


「けどコウジ君、相変わらず凄い几帳面よね。設備とか全く汚れてないし」


「例え汚れても直ぐ様掃除してるからな。製造器具の管理も完璧だ」


「うわぁ、こんな輝いてるコウジ君、久しぶりに見たなぁ~」


 無駄にニヤニヤしてる俺に、イメルダは明らかにドン引きしていた。

 だってだって、俺の唯一の取り柄なんだぞ。少しくらい自信持ったって良いじゃねぇか。

 ちなみにラルフの野郎は見てても暇、とか言って魔法書を読みふけってる。俺が作った傑作にも見向きもしねぇ。クソ、後でパンチしてやる。グーパンチ。


「でも魔法薬作りしてるときのコウジって、凄く真剣で楽しそうだね。自分が夢中になって精一杯やれることがあるって大事なことだよ。だからこそ、こんなに上手に魔法薬を作れるんだと思うし」


 微笑みながら掛けてくれた言葉に、俺は何だか嬉しくなる。そんなこと言われたのは、随分久しぶりだった。

 魔法に冷めて、周りからも冷たい目を向けられて、それが当たり前に思いながらも、何処かで誰かに見向きして欲しいと思って………挫折した俺に残されたこの才能だけは手放せずに、一人で磨いていた。

 ずっと一人で、いつも一人で、ただ一心に培ってきた力。

 それを、自分を認めてくれたような、温かい言葉。

 …………ヤバイ。タチバナが女神に見える。マジで可愛い、というか素敵。


 もっと褒めてと犬のように駆け回りたい気分。


 そのまま呆っとタチバナを見ていると、何故かイメルダから睨まれたのですぐに正気に戻った。


 危ない危ない、さっきのイメルダの話じゃないが、マジで惚れるとこだった。


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