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第十八話 家へ招いてみた


「じゃあ、早速俺は動くから、今日のところはこれで」


「ああ、頼むわ秋人……」


 話がある程度纏まったところで、独自調査の秋人は早々に始めるようだ。

 何しろ期間が二週間だからな。俺たちものんびりはしてられない。

 だが背を向けたと思ったら、思い出したように秋人は声を上げた。


「あ、そういえばコウジさん」


「なんだ?」


「マーカー教諭の得意な魔法は『土』の精霊系統だから、ちゃんと対策しときなよ」


「ははははは………、親切なアドバイスをどうも……」


 いっそ《決闘》のことを思考から排除したかったのだが、釘を刺されたようだ。

 遠ざかってく秋人の背中は、どこか笑うのを我慢してるようにも見える。あの野郎……楽しんでないか? もしかして俺が嫌がるの分かってて《決闘》の方向に持ってったんじゃねぇだろうな。


 見送りを終えると、タチバナが口を開いた。


「それで、私たちはこれからどうするの?」


「あー、本当は買い物に行きたかったんだが………明日の予定が大幅に変わったから、今日の予定も変えなきゃな……」


 まずは明日に備えて準備か………、まーたやることが増えたな。


「取り敢えず、俺は明日の《決闘》に使う魔法薬を作らねぇとな……」


 まぁ本音を言うなら、マーカーごときに自分が作る傑作の魔法薬なんて使いたくないんだけど。


「え? ストックしてたのは? コウジ君、いつも魔法薬は何種類も作り置きしてるのに……」


「今日の午前中、資金の方の調達にちょっとな……」


 売った。売ってしまった。売ってしまったんだよなぁ~~。はぁ~~、俺の魔法薬………。


「え……」


「……は?」


 その話に、イメルダとコウジはアホのような顔になった。口をポカーン、と開けて、まじまじと俺の顔を見てくる。

 やがて、イメルダの方が訝しげに眉を歪めて言った。


「ねぇ、コウジ君……もしかしてタチバナさんのこと好きなの?」


「は?」


「へ?」


 今度は俺とタチバナがポカーンとなる番だった。

 何を言うとるんだ己は?


「だってぇ! コウジ君、いっつも魔法薬愛でてて、私たちにもまともに売ってくれないのに、タチバナさんの課題のために簡単に売っちゃうなんて!」


 何故か若干、いや若干では済まないくらいに御立腹なイメルダの顔と言葉に圧される。


「んな訳あるか……金が必要だったんだから仕方ねぇだろ! ホントは俺だって売りたくなかったよ!」


「それを売るからおかしいのよ! そりゃあタチバナさん可愛いから熱心に手伝いたくなる気持ちも分かるけど、明らかに私と態度違いすぎない!?」


「いや、何でお前が引き合いに出てくんだよ……」


「え? あ、いや、その……それは別に何でもないけど………」


 プラチナブロンドを弄り、徐々に尻すぼみになるイメルダの声。さっきまで漂っていた恐いくらいの勢いが消えたのは良いけど、これはこれで反応に困るんだが。

 やっぱり幼馴染みとはいえ、一年も口を聞かなかったら距離が…………開いた感じは全くないな。この手のやり取りは昔からよくあった気がする。

 ぷるぷると震えてるようなイメルダ。


「どったの?」


「うっ、な、何でもない!」


 おう、勢いが戻った。てか怒ってた。何で? 何が起こった、いや、何で怒った?


「ねぇ、ラルーシュ君。あの二人放って置いて良いの?」


「いつものことだ。塾生時代で見飽きてるよあの二人の掛け合いは……」


 視界の端でそんな会話がされていた。いや、ほっとかないで助けろよお前ら。


「あ、ねぇコウジ……」


 と、思ってたらタチバナから声が掛かった。

 だが要件を聞く前に、再び耳ざといイメルダが反応する。


「そういえば、気になってたんだけど。タチバナさんはコウジ君のこと名前で呼んでるのね? 二人って、そんなに仲良かったっけ?」


 ……………あまり訊かれたくないとこを突いてきたな。

 俺だけが説明するなら事故としか言いようがない呼称変更事件だったが、タチバナからしてみると、


「え、と……、コウジが呼び捨てで良いって言ったから呼んでるんだけど……ダメかな?」


「べ、別にコウジ君が良いって言ったんなら良いと思うわよ………」


 そう言いながら何故お前は俺をジト目で見てくるんだよイメルダ。

 いっそ睨んでるような眼差しに後退りたくなる。だから、何で俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよ。マジで泣くぞ。ホントに泣くぞ。本気で泣くぞ。


 ◇ ◇ ◇


 家に帰ってきた。

 タチバナ、イメルダ、ラルフも一緒だ。ゴタゴタしてたせいで思ったより遅くなっちまったな。

 外は既に薄暗くなっている。


「親も姉貴も今日は遅いらしいから、気にせずどうぞ」


「お邪魔します……」


 遠慮の入った声で門を潜るタチバナ。


「何だか久しぶりね。コウジ君の家に来るのも……」


 微妙にグサリとくる言葉を放ちながら入るイメルダ。


「俺は先週来たばっかだ……」


 ラルフの場合はイメルダと違って仲間付き合いが続いてたから、ほぼ毎週通ってるようなもんだった。


 海藤家の無駄に広い敷地を見て、タチバナが呟きを溢す。


「魔法植物の栽培もやってるんだね………これもコウジが?」


「いや、俺が育ててんのは家の裏。親が使わなくなった魔法薬精製工場の隣でやってんだよ」


「工場って、もしかしてあれ?」


 家が建ってるその奥に四つある建物を差しながら、タチバナはどこか呆れたような表情になってる。

 気持ちは分かるよ。俺もたぶんこの家で生まれ育ってなきゃ引いてたと思う。

 何で家の敷地内にこんなに工場を建てたのか。

 なのに販売は別でやってるし。なら魔法薬作りも他所でやれよと思わないでもない。


 まぁ家に製造元があったから俺も古くなった工場を貰って魔法薬作りが出来る訳だけど。


「そういや、塾生時代はよくあの作業所に泊まって、寝台の上で魔法の話してたっけか」


 ラルフがまた懐かしい話を持ち出してきた。

 そんときは確か、イメルダや秋人、男女問わず他の塾生も何人かいたっけな。


「なぁ、あの頃みたいに、コウジの家に泊まり込んで合宿でもするか?」


「あ、それ良いわね」


「良くない……通いで十分だ……」


 何を言い出すかと思えば。もうそんな子供な歳じゃねぇ………訳でもねぇが、男女で泊まりは抵抗がある年齢にはなってるだろ。

 幼馴染みの俺たち三人と秋人はともかく、タチバナにはちょっとキツいだろ。知り合って間もないし。


「あ、私も合宿良いと思う!」


「でしょ? ほらコウジ君、タチバナさんもこう言ってるよ?」


 何でそう言っちゃうの?

 俺が気にしすぎなのかな?

 こういうのは普通女子の方が気にする問題だろうに。


「それに私、コウジが魔法薬作ってる所、見てみたいし」


 期待を込めた眼差しで俺を見てくる美少女。


「ダメかな?」


 上目遣いのタチバナ可愛い。けど気は進まない。自分の作業を人に見られるのってなんか気恥ずかしいんだよな。

 俺はサッと目を逸らすも、その先に同じような目をしたイメルダがいて、どうにもかわせない雰囲気だった。

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