第十七話 決闘?ご冗談を……先に今後の話しようぜ
秋人の野郎。本当に十歳かよ、ってくらいに話の流れを持ってくのが上手いな。
俺がマーカー教諭に嫌われているからこその《決闘》って訳か。
決闘方式なら何の気兼ねもなく堂々と俺を叩きのめせるから、常日頃から俺を見下してるマーカーなら乗ってくると踏んだんだろうが………、
これって絶対的に勝つ自信があっての話だよな。
職員室から場所を屋上に移動して。そこに着いたと同時に、俺は大袈裟なまでに頭を抱えた。
ノォ~~~、何でこんなことになってんだよぉ~~~!
昨日から引き続いて、段々と状況が悪化し続けてる。いっそ落下し続けてる。がっつり負の連鎖へはまってしまった。脱出不可能。逃げようとすれば姉貴という名の鬼が降臨する。
何これ、俺って詰みすぎじゃね。終わってるにもほどがあんだろ。
「どうしろってんだよ……」
「え? 《決闘》で勝って許可をもらうんだろ? お安いご用だ」
アホ言え安い訳あるか。むしろ高過ぎるわ。気軽にお買い上げ出来るレベルの話じゃねぇよ!
「勝つって如月君………相手は先生だよ?」
タチバナも言外に無理じゃないかと言うが、秋人は、いや、秋人だけじゃなくイメルダとラルフまでもが、もう勝ったかのような顔でいる。
「お前ら、何でそんなに自信有りげなんだよ」
戦うのは俺なんだけど?
その俺が自信皆無なのに何故お前らが満面の笑みなんだよ。
「ま、心配はしてないよ」
「頑張ってね、コウジ君」
「組手じゃねぇんだから、今度はちゃんと二本でやれよ、コウジ……」
いや、例え全力を出したとしても、勝てると言うには遠すぎると思うんだけど。俺の本気を見せてやる、って言って初公開の全力が負けることほど恥ずかしいパターンはないからね。そのシチュエーションが適応するのはフィクションの中のラスボスか、倒した後で仲間になってくれるような美味しいキャラだけだからね。俺は絶対に違うんだよ。そもそもリアルでそんなことになったら笑い者だろ。
「コウジさん」
苦悶してると、秋人に呼ばれた。
「何だよ」
「どうして模擬戦じゃなく、《決闘》にしたか分かるか?」
「知るか、お前がマーカーを焚き付けるための言葉の綾ってやつじゃねぇのかよ」
「じゃあ、具体的に模擬戦と《決闘》では何が違う?」
「は? んなもん、《決闘》では戦闘ルールの制限が……」
そこで、秋人が言わんとしてることに気付いた。
「そう。決闘では模擬戦に比べて戦闘に対する制限がかなり少ない。つまり………コウジさんのもう一つの才能……」
―――『魔法薬』。
それを戦闘に持ち込むことの規定も無くなる。
確かに、それは俺にとって圧倒的なアドバンテージを与えてくれるだろう。
今の俺の唯一の手札。切り札、とも言える力だ。
「……………ってか、おい。何だよもう一つって。俺は魔法薬以外に取り柄らしい取り柄なんてねぇよ。言うならたった一つの才能だ」
「コウジさん、まだそんなこと言ってるのか………」
何故か秋人は呆れた顔をした。
すると今度はラルフが言う。
「まぁ、いいじゃねぇかミーティア……いくらマーカーでも、コウジが魔法薬を使うなんて思ってもないだろ。あとは、コウジの剣に懸けて問題ねぇって」
だから何でお前らはそんなに自信満々なんだよ。戦うのは俺だ、俺。痛い目に遭うのも俺なんだよ。そんな軽い感じで話を流さないで。
「そんなことより、攻略の話をしようよ」
秋人の野郎…………そんなことより、っておい………俺にとってはそんなことじゃ済まないんだけど……。
「コ、コウジ? 大丈夫?」
気遣ってくれるのはタチバナだけだ。良い娘だな。ホント良い娘。
事の根元にいる娘でもあるんだけどね。こいつの課題を手伝うのに何で俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。終いには泣くぞ。
はぁ、と深いため息を吐き、全く大丈夫そうに見えないだろう俺に苦笑するタチバナ。
一先ず自分が出してる負のオーラを引っ込めて、今後の方針を決めよう。
「取り敢えず、秋人……お前は上級生用の演習場と、そこに生息する『牛鬼 』について調べといてくれるか? 攻略しようにも、現状じゃ情報が少な過ぎてな」
「了解。その手のことが得意な知り合いもいるし、調べ方は任せてくれて良いよ」
「おう、お前の好きにやってくれ。攻略の方法はそれから皆で考えよう」
「分かった」
一年生ながら、たぶん頭の良さでは秋人がこの中で一番優れてる。
魔法学園の成績は勿論、駆引きや策略、調べものや情報収集の類いは専門分野だろう。
「情報が集まったら場の偵察もするけど、それはまた考えるか」
「じゃあ、私たちは?」
「俺が物資と装備を調達するから、タチバナたちは調整も兼ねてそれに付いて来てくれ」
「装備って……」
「木剣やら半端な魔法やらで戦えると思ってるのか?」
「うぅ……」
俺の言葉に、タチバナは首を竦める。『牛鬼 』と接触すら出来ずに逃走するしかなかった昨日の攻略を考えれば、頭数を増やしただけじゃあ、まだ話にならない。
「けどコウジ君……資金はどうするの?」
イメルダの疑問は最もだった。まだ学園の生徒でしかない十一歳そこらの子供が、大した金額を用意できるとは思えないだろうな。
まぁでも、その点はもう解決してる。
「金はあらかた用意出来てる。問題はいらねぇよ」
「お金って……コウジ、もしかして自分のお金で!? 私たちの分の装備も買うつもりなの!?」
途端、タチバナが叫ぶように言った。
そういやこいつ、パンと飲み物奢ってやっただけで申し訳なさそうな顔してたな。装備を整える金が結構な額になるのは普通に想像できるし、俺の負担でも心配したんだろう。
だが見ればタチバナだけでなく、イメルダもラルフも微妙な顔をしていた。
「コウジ君、流石にお金の負担を君一人に押し付けるのは悪いよ」
困ったように言うイメルダに、俺は特に考えもせずに言葉を返す。
「別に気にする必要はねぇよ。俺の金だし……」
「それなら尚更だ。ただの物の受け渡しや、要らない物を人にあげるのとは違う。特に、金は如実だからな、大事なものだって誰でも知ってる。だからお前だけに出させるのは友達として良い気分がしねぇんだよ」
ラルフの言葉に、俺は目を丸くする思いだった。
そういや、金銭問題は人間関係に大きく影響を与えるとかよく聞くな。普段から人間関係に関わりが薄いからそんなこと考えもしなかったわ。
「つってもなぁ~、調達は必須項目だぜ? 攻略に出る以上、消耗品の類いは必ず買い直さなきゃならねぇし、装備に至っては学園で使ってるようなちゃちな物じゃ魔物相手には話にならねぇ」
「それは確かに……」
俺の言葉に秋人も頷く。まぁ、秋人は自前の装備があるし、そもそも金銭面は家柄なのか俺よりも懐豊かだ。が、他三人の空気は変わらず微妙だった。
あー面倒くせー。このままじゃ話が進まねぇっつの。
「じゃ俺が買ったのをお前らに貸すってことでいいか?」
言い方を変えただけのような案を出してみるが、当然タチバナが納得するはずもなく。
訝しげな目で言う。
「それじゃ買って貰うのと変わらないよ。サイズとか専用の物とかも買うんでしょ?」
「いや、まぁそうだけど……」
「それにこれは元々私の課題なんだよ? お金なら私が用意するから、コウジは出さなくて良いよ」
「それじゃさっきと状況が変わらねぇだろうが」
そもそもそんな大金、どうやって用意するつもりだよ。俺はともかく、学生のタチバナに収入源があるとは思えない。
何よりその意見ではイメルダもラルフも、無論、俺も納得しないしな。
結局それから不毛な論議は続き、出世払いで肩替わりする、という結果に落ち着いた。俺かタチバナか、どっちが金を出すかは話が更に長くなりそうだからまたにした。
次だ。次の話。
「やっぱり一番重要なのは、戦闘用の魔法だな……」
皆の顔付きが少しだけ引き締まる。
最初に口を開いたのはラルフだ。
「魔物に有効なダメージを与えられるほど強力なものとなると、まだ第二学年になったばかりの俺たちには厳しいな」
「もともと魔法を本格的に修得し始めるのは第三学年。私の場合は『地形変化』の魔法は使えるけど、他の魔法は実戦で役に立つような威力は出せないのよね」
天才肌のイメルダでも、頼れる魔法は良いとこ一つ。単一の魔法使いとしては、むしろ弱点は多い方だな。
「私も『火炎の弾丸』以外はまともに使える魔法はないから……標的に当てられても威力は『人狼』にダメージを与えられるほどじゃなかったし……」
昨日のことを思い出したのか、タチバナは少しへこみ気味だ。
ちなみに秋人は何も言わずに、話の流れに耳を傾けてるだけだった。
「二週間の期限設定がある以上、新しい魔法を修得している時間はない。だが、魔法の威力を最大値まで上げるくらいは出来るだろ………偵察を兼ねながら、弱い魔物を相手に経験値を重ねるとするか……」
まだまだ考えることもいろいろあるが、当面の予定はこんなもんだろ。
後は俺の家でやるか。明日は余計な予定も増えたし、そのための準備もあるからな。




