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第十六話 また面倒なことになってきた

 チームメンバーは五人揃った。

 秋人を連れて、俺とタチバナは学内に戻っていた。

 イメルダとラルフにも連絡は入れたし、すぐに合流して攻略の準備に取り掛かれるだろ。


 ただ『通信』中の会話で、「あー、やっぱりミーちゃん誘ったんだ。コウジ君なら絶対に声掛けると思ってたよ」とか、「塾生時代と面子変わんねぇな。つうより、お前が誘う奴ワンパターン過ぎだろ」とか、言われたのは気にするところだろうか。


 ちなみに、ミーちゃん、ってのは秋人の愛称だ。如月・ミーティア・秋人 のミーティアから取ってミーちゃん。呼んでるのはイメルダとか塾生時代の女子連中だけだけどな。


 さて、あとの問題といえば。


「そういえば、チーム結成の書類を提出しないとね」


「ああ、そうだったな」


 タチバナの言葉で思い出した。

 魔法学園において集団活動を行うパーティーや魔法チームの基本構成であるファイブマンセルを組む際には、学園に構成メンバーと活動内容を報告する義務があるんだった。


 職員室にて。


「却下だよぉ。君たちのような成績優秀な生徒四人を、何でその堕落した見習いなどと組ませなければならんのかねぇ」


 先生の承諾がおりなかった。

 明らかに趣味の悪そうなド紫色のコートを着た中年の男。俺たち子供から見ると大男にも感じるひょろ長い背丈の教諭は言う。


「毎年いるんだよねぇ。大方成績の良い生徒たちと一緒に組んで自分の成績を上げたり、楽をしようとか考えてたんだろうが……身の程を弁えたまえよ海藤コウジ……君ごときが彼らのような成績上位者と同じパーティーを組めるなんて思わないことだよぉ」


 相変わらず、嫌味な先生だな。言葉は的を射てるだけに納得するしかないのだが。

 彼は、メリゼル魔法学園第六学年担当実技講師の一人―――ガルシア・ウェイ・マーカー。

 魔法学園在学中の生徒が個人で作るチームやパーティーの構成や活動などを管理している魔法教員だ。

 書類をこの先生に出して認めて貰わない限り、ファイブマンセルもパーティーも作ることを許されない。

 クソ、よりによって何でこの人がチーム構成の管理者なんだよ。


 俺は魔法学園の大概の魔法教諭に嫌われているが、こいつだけはある意味別格と言って良いほど最悪の相手だ。

 徹底した実力主義を振りかざし、才能の無い生徒には興味も示さない。

 俺みたいに授業も聞かない、魔法実習はサボるような輩は端から相手にもしない。まぁ、それは仕方ないにしても、自分の思い通りに動かない生徒にはトコトンなまでに冷淡な対応で迎え、気に入った生徒には優遇する。

 おまけに女子生徒に対しては胸の付近や尻などところ構わずボディタッチしようとして、とてつもなく嫌われている、と聞いた。

 在学中の生徒に対する態度が教師とは思えないほど差別的な野郎だった。

 

 やっぱりこいつから許可を貰うのは無理か。


 最悪、書類提出をしなくても五人で攻略に乗り出すことは出来る。

 ただファイブマンセルチームとして登録を行っていない状態で危険区域や演習場を利用すれば、バレたときに無断行為による処分などもある。

 個人利用の場合は自己責任で、場所の使用や遠征の許可を得る以外に何もないから不思議なものだが、団体行動を行うにはチームの責任と義務を背負わなければならない。

 このチーム構成と管理は、魔法使いとしても最も重要とされることの一つで、チームで動くことの意味と、個人の無責任な行動がチーム全体にもたらす最悪の結果を避けるために、きちんとチームのリーダーを決め、チームメンバーの役割を決め、その一つ一つに責任と自覚を持たせるように形作った制度だ。

 課題だから、なんて理由は通用しない。

 例え課題を行うにしてもチーム編成の管理があるのだから、何故許可を得なかったのか、となるのは当然だ。


 俺は兎も角、魔法使いとして、他の四人には目を瞑れることじゃない。

 皆は必死に認めて貰おうと懇願しているが、マーカー教諭が首を縦に振る気配は無かった。

 原因が俺にあるから居たたまれないが。交渉の余地があるとはとても思えない。


 どうする。


 頭を悩ませていると、秋人が不敵に笑って言った。


「要は、海藤コウジ先輩が成績上位者と同じか、それ以上の実力を示せばいい訳ですよね」


 おい、秋人。何を言い出すつもりだ。


「ふん、そいつの実力なら知っているよぉ。学年五十位内には入っているようだけど、君たちのような才気とは比べても天と地ほどの差があるだろぉ………堕落してるのも加えると、実践戦闘の実力など目も当てられないボンクラだよぉ」


 うわぁ、ひでー言われようだなぁー。

 マーカー教諭の言葉に、タチバナとイメルダの顔色が怒りの向きへ変わり始めてるのが分かった。

 ムッとした顔で睨むような眼差しを見せる美少女二人に気づきもせず、マーカー教諭はさらに続ける。


「所詮、低俗な虫けらが何をしたところで……何も意味は無いんだよぉ」


 ドクン、と今度は俺の胸に刺さるものを感じた。

 ―――それは、その考えは、あの頃の俺を彷彿とさせるには十分なものだった……。

 我慢の限界とばかりに叫び出しそうになったイメルダを、ラルフが止める。

 そのラルフの顔もかなり苛ついてるようだが、イメルダやタチバナよりかは冷静なようだった。

 そして、冷静を通り越して冷気のようなものを出している奴も約一名いる訳だが、兎に角この場を治めるのはこいつに任せるしかない。


「学園の成績だけが、魔法の全てではありませんよ」


 如月・ミーティア・秋人は言う。


「ではこうしましょう、コウジさんとマーカー教諭の二人で、『非殺傷結界』内による《決闘デュエル》を行い、コウジさんが勝ったらこのチーム構成を認めて頂けるという方向で」


 これまたとんでもなくブッ飛んだことを………。

 ていうかおいおい、


「ちょ、ちょっと、ちょっと待て秋人……」


「元はコウジさんの日頃の態度が原因なんだから、文句は言わないでよ」


 有無も言わさぬ勢いの秋人は、すでに交渉の主導権を握っている。

 俺の身の安否も握っている気がするのは、気のせいではない。


「ふん、如月君。君がこのボンクラの何を買っているのか知らないがねぇ。私はメリゼル魔法学園実技専門講師だよぉ。こんな堕落した見習い程度に負ける訳がないだろぉ?」


「何が起こるか分からないのが魔法の醍醐味ですから」


「……いいでしょうぅ。もし《決闘》でこの私に勝てたなら、そのチーム編成を認めてあげましょうぅ」


「決まりですね」


 決まっちゃったよ。


「時間は明日の放課後にお願いします……」


 俺の意思は欠片もない。

 はぁ、また面倒なことになってきたなぁ。


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