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第九話 気が重いなぁ

 さて、俺とタチバナによる上級生演習場の危険区域攻略が決まった訳だが。


 何て言うか、今さらに後悔しております。


 攻略の準備。とにかく、まず必要なのは纏まった金だな。

 必要物資の調達というか。俺たちは魔法使いとして、攻略に必要な魔力、魔法、能力、技術が致命的に欠けてる魔法使いの見習いだ。

 攻略に必要な最低限の物に上乗せして、相応の手段ってやつが要るわけで。


 揃えるためには取り敢えず、金がいる。


 すっかり薄暗くなった空の下。

 メリゼル魔法学園の玄関でタチバナと分かれた俺は、一人自宅に帰って来ていた。


 さぁーてどうしましょ。


 金に関しては…………まぁ何とか出来る。

 むしろ問題なのは調達の方だな。俺みたいな子供に、どこまでの物を売ってくれるかねぇ。


「あらコウジ、おかえり……」


「…………姉貴」


 家に入ったすぐそこに、姉貴がいた。


「どうだった? クレリアの訓練」


「訓練? ははは、あれを訓練とは言わねぇだろ。ただ狼の群れの中に投げ入れられただけだ」


「あー、森に入ったんだ。その様子じゃ、逃げ帰ったのね」


 笑ってやがるよこの姉貴。元は誰のせいだと思ってやがる。

 「犯人は、お前だ!」くらい言ってやりたい。


「……で、どうするの?」


 試すような声で、姉貴は俺に問いかける。


「…………準備を、整える。まずはそれからだ」


 俺の返しを聞いた姉貴は、一瞬だが息を飲んだように動きを止めた気がした。

 だがその後は何でもないように、「そう」と一言呟いて、奥に引っ込んで行ってしまった。

 どこかその背中が、満足そうに微笑んでいるように見えたのは、たぶん俺の錯覚だろう。


 さてと、俺は俺のやることを済ませよう。


 自分の部屋にカバンを投げ込み、向かった先は庭にある俺専用の魔法植物栽培地。


 俺の両親は魔法薬のための植物栽培や工場での薬品精製も行っている。そのため庭は以上に広く、横には工場も四つほど建っている。


 俺が使って良いと言われて貰えたのは、十メートル四方の小さなスペースだけ。それを植物の種類ごとに隔離して、集めた数種類の魔法植物を育てている。


 ここは、ある意味では宝の山かもしれない。


 世間ではあまり御目にかかれない貴重な植物も多々あって、俺が毎日徹底した管理をしている場所だ。

 俺は腰のホルスターから魔法石を取り出し、『収納』を解放する。

 輝きと共に中から出てきたのは、今日、あの演習場で採取した魔法植物『パールフラワー』だ。ちゃっかり持って帰っております、テヘッ。


 使っていない栽培地の一角。

 おろしたばかりの土の中へ、この紫色に光る花を植えていく。

 この土は魔法植物専用のもので、『土』系統の魔法で作られた特別製だ。植える植物に合わせて土の状態を変えられるし、土自体に魔力が含まれているから、魔法植物の栄養も十分に摂ることが出来る。 


 その後、他の植物の状態。育ててる最中の植物が植えてある土の状態。そこに流れる微量な魔力の管理も細かく気を遣って見ていった。


 ―――俺の日課……。


 栽培地から植物の一部を採取して、次は工場の方へ向かった。


 俺の栽培地の隣にある、商売用とは別の小さなアトリエ。

 親父が魔法薬師として独立した当初、まだ経営が安定していなかった頃に使っていたボロ屋だ。

 今では俺しか出入りしていない、俺の工場。


 重い扉を開けて中に入り、『火の魔法石』で灯りを点ければ、小さくとも魔法薬作りに使う設備が完備されている。

 ステンレス製のピカピカに磨かれた釜。

 釜から伸びるライン。

 貯蔵用のタンク。

 埃だらけでボロボロだったのを、俺が毎日磨き捲って整えた。

 魔法薬の精製に埃や劣化した機材は天敵だからな。


 工場の奥には作り終えた魔法薬が試験管に詰められ、固定化の魔法で状態を維持したまま保存されている。


 作ったのはもちろん俺。


 家と隣り合わせになってるせいか、物心つく前から親父が工場で仕事するのを見ていた。

 いろいろ作業のやり方とかも教えて貰ったし、自分で勉強もして、今ではちゃんとした魔法薬を精製出来るまでになっている。

 まぁ、ここまでくるのに何度も自分で育てた魔法植物をオシャカにしてきたけど…………。

 

 並べられている試験管から、なるべく在庫の多い種類の物を数本取る。


 火系統の魔法を一時的に増大させる『フレイムパウダー』。


 付着箇所から爆撃を起こす『爆砕液』。


 身体能力を一時的だか数倍に引き上げる『ビルドスパーク』。


 ……………我ながら、なんて物騒な物を作ってんだろ。


 中に入っている液体を灯りにかざし、俺は迷っていた。


 あんまり自分で作った物は売りたくないんだがな。 


 どうにも俺は、商売人にはなれないかもしれない。作ったものに愛着を持ちすぎると、親父にもよく言われていた。


 だが、今回ばかりは、


「はぁ、しょうがねーか」


 金がいるんだからな。


 ちなみに、この南大陸はゴールド通貨。

 今の俺の所持金は三十万ゴールド。

 百ゴールドで大体ジュース一本分だから、十一歳にしてはかなり金持ちな方だ。

 親父の仕事を手伝ってたときの収入が効いてるな。


 けど、あの森に入るための準備には、こんなもんじゃ足りねぇんだよな。


 世の中は金だと知った十一歳の一日でした。


 珍しい薬品ばかりだから、俺の目で見ても売れば合計で百万ゴールドくらいにはなるだろ。

 その金で、俺とタチバナが死なずに、あの森を攻略する準備を整えなきゃならねぇ訳だ。

 

 …………はぁ、気が重いなぁ。


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