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〈弐〉2

◇ ◆ ◇ ◆ ◇




≪それじゃあお二人は、これから記憶探しの大冒険に繰り出す訳ですねぃ?≫


「何だ、そのとっても胸躍りそうな比喩は」




午後12:30。

自宅アパート付近の公園の一角。ジャングルジムの高所に腰を下ろして煙菅を吹かす情報屋と、ジムに背中を預けて所在無げに空を見上げる俺は、とりあえず情報の取引きは後回しにして世間話に花を咲かせていた。

花咲かせる、なんて煌びやかな表現をするような内容ではないけれど。

因みに、俺と同行してきた彼女は砂場の方で野良猫を見つけ、戯れている。見えない存在におっかなびっくりの野良猫と彼女を眺めながら、情報屋が言う。


≪あの娘は割と霊感が強いようですねぃ。ほら、ああやって猫を触ってますしぃ≫


「だろうな。俺の部屋の扉もバンバン叩いてたし。…本当にポルターガイスト現象だったからな」


俺は感慨深く、答える。あの時は冗談で例えたつもりだったのに、実際は見事的中していた訳だから、なかなかどうして、世の中侮れないな。


≪何処ら辺が侮れないんですかぁ?≫


「聞くな。適当に言っただけだから」


≪さいですかぁ≫




どうでもいい会話は続く。







「ところで情報屋。お前が前に抱えてた問題って、やっぱり未解決のままなのか?」


≪未解決、というかなんといいますか……。ほら、俺ってもう死んでるじゃぁないですか。愚兄の過ちを止める為に方々を飛び回っていたのに、結局兄に殺される形で終わっちゃいましたからねぃ。おまけに、殺された直前に俺の愛娘まで奪われちゃって、散々ですよぅ≫


「成程……。苛々の原因はそれか。何百年何千年も生き長らえてきたのにその結末じゃ、確かに後味悪すぎるな」


≪そうでしょぅ、そうでしょぅ。ですから、当てつけでお憑かれさんには情報は上げないという訳なんですよぅ≫


「意味判んねぇよ。俺関係ねぇだろうが」


≪んー……ですねぃ。んじゃぁ、情報の提供は無しにする代わりに、情報を交換するってのはどうですかぁ? 俺もお憑かれさんに御聞きしたいことがあったんですよぅ≫


「聞きたいこと? お前なら大抵のことは調べられるだろ。なんでわざわざ俺に聞くんだ」


≪お憑かれさんにしか解らないことだからですよぅ。良いですかぁ?≫


「良いけど、何だよ?」










≪俺の愛娘は、救われましたか?≫









煙菅から立ち上る煙が風で揺らいだ。情報屋はふざけた態度からうってかわって、真剣な眼を俺に向ける。俺は顔を上げて、情報屋の姿を逆さまに捉えて、しばらく考えた後に、答えた。


「―――救われたよ。お前の娘は、エリスは最期には救われた。お前の兄貴から解放されて、」







「救われて、死んだよ」







≪……………そうですか≫


情報屋は眼を閉じた。娘の死に悲しんで暮れる、という感じではない。救われた、ということに安堵したようだ。死んだ後の心残りは、これでようやく解消出来たことになるのだろう。




その様子を黙って見ている俺には、到底理解は出来なかったが。




≪ではでは、お憑かれさん。俺はそろそろ、行きますねぃ≫


カンッと煙菅を叩いて火種を落とし、情報屋は明るい調子で答えた。

俺もジムから背を離して軽く背伸びして、


「そうだな。突っ込んでやっても良いけど調子乗りそうだからやめとこうかと考えたけどそれだとお前に会いにきた意味がなくなるから懇切丁寧に突っ込んでやるよ情報教えてねぇだろうが馬鹿」


突っ込んであげた。


≪ちゃんと句点で区切りましょうよぅ≫


「突っ込み返すな。いいから教えろ」


≪ハイハイ≫


仕方なさそうに返事をする情報屋だ。約束をブッチ切ろうとした癖になんてふてぶてしい態度だろうか、とも考えたけどここで突っ込むと話は進まない。しょうがなく俺は引く。

情報屋はジャングルジムから一歩踏み出し、見えない柱の上をを歩くように空中を移動しながら話し始めた。


≪先ずはお憑かれさん。貴方に彼女を差し向けた人のことですけどぅ…これはやはりお答えするのは控えますねぃ。お憑かれさん、もう心当たりついてるでしょ?≫


「悪い。ありすぎて見当がつかない」


≪で、その代わりに彼女のことについて少し≫


「彼女のこと?」


少し驚く。情報屋が、依頼を受けた情報以外の、他人の情報を公開したこは一切無いのに。


≪彼女に教えても記憶がなければ活用されないでしょうからねぃ。だから、お憑かれさんに教えときます≫


「何だ?」


≪彼女が死んだ場所は、信染橋前の交差点。その横断歩道でぃす≫


「!」


それは、かなり有力な情報だった。信染橋といえば此処からそう遠くない。彼女の問題を解決する上で、一番入手に苦労しそうな取っ掛かりが早くも見つかった。

俺が今得た情報を吟味していると、提供者である情報屋は嬉しそうに笑う。

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