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???

謎です。

午前0:00。


闇が、街々を覆った。


夜空で瞬いていた星々は消え失せ、唯一残る満月も、その輝きを失ってしまう。


常識外れの現象に、気付く者はいない。


地上の人工的な光に包まれた夜の街を闊歩している人々に、この異常事態が眼に映ることは、ない。


自己の現実に固着し、世界の真実を否定する者達には、到底眺められはしない。










ビルとビルが密接した街の一角。

大小様々な建物が規則正しい羅列を描く中、その間隙に設けられた小さな小さな空き地。隣で建設途中のビルがあり、作業に使う器具類が無造作に放置された、街の死角。訪れる人も、近づく人すらもいないこの場所に、一人の男が立っていた。

黒いドレッドヘアーに黒いサングラス、南米辺りで見掛けそうな奇抜な格好した男は、古風な煙菅を燻らしながら空の様子を眺めている。街々の誰も気づかない異様な空を、逐一眺めている。

しばらくして、


≪―――おやぁ、これは久方振りですねぃ。前に会ったのは四、五年前ですかねぇ?≫


「………」


物陰からもう一人男が現れ、ドレッドヘアーの男が声を掛けた。

天の光が閉ざされ、闇の色が濃くなった世界で、姿を見せたその男は闇に染まらず、自身の色を際立たせていた。

闇を打ち消してしまう、白。

何処までも白い、男。

男は無言のままでドレッドヘアーに近寄り、共に空を見上げる。他に動きは見せず、特に語る様子もなし。ドレッドヘアーは拗ねたように、隣の男を見遣る。


≪喋ってくれないと俺も困るんですけどねぃ。まぁ、それは脇にでも置いときましてぇ。今回はどのような御用件でぃ?≫


話し掛けると、白い男は言葉少なめに応えた。


「……刻が動いた」


≪はい? ……あぁ、あぁ、そういうことですかぁ。成〜る程ぉ。では、かねてからの依頼をこなして貰いたいんですねぃ?≫


「………」


沈黙。


≪いや、だからですね、だんまりはなるべく控えて貰わないと、間ぁが持たないですけどぅ………聞いてますぅ?≫


「………、」


沈黙。


≪判りました。判りましたよぅ。ほーんと、賢人様は必要以上に喋ってくれないから、やりづらいったら無いですぅ≫


「………」


沈黙。


≪……もう独り言の域すら越えちゃってますねぃ。まあ良いですよ。ええ、ええ、構いませんとも。会話なんて邪魔なだけですからねぇ。では、御依頼の件の物は、近日中にあの方にお渡ししますよぅ≫


「………頼もう」


沈黙が破られた。


≪あ、やっと喋った。はぁ…本当にやりづらいったらぁ…≫


「………」


ぶつくさ言うドレッドを残し、白い男は場を去ろうとする。それに気づいてドレッドは、煙菅を上下に振って彼を呼び止めた。


≪あぁ、待って下さぃ。一応確認を取っておきたいんですけどぅ≫


「………、」


≪本当に、こんなことしちゃって良いんですかぁ? 『管理者』に怒られますよぉ? ていうかぁ、“消され”ちゃいますよぅ?≫


質問に、男はやはり口数少なめ、淡々として答える。


「………、案ずることはない。そなたに迷惑は掛からない」


素っ気ない返答。

めげず、ドレッドは改めて言い直そうとして、


≪そうじゃなくてですねぃ、貴方は…、≫


「私のことは」


遮って、有無を言わさぬ調子で、


「そなたが口を挟む余地もない」


断じた。

明確なまでの、拒絶。

気遣いを足蹴にされたドレッドは、無表情で引き下がる。


≪………さいですかぃ≫


「去らばだ」


際立つ白は、また闇の中に吸い込まれて消えた。

残ったドレッドは気難しい顔で煙菅をくわえ直し、


≪………………ふぅん≫


一人、喋り続ける。




≪だそうですけどぅ、良いんですかぁ? 管理者さぁん≫




「構いません」




≪消さないんで?≫




「今はまだ、利害は一致しているので。貴方は彼の依頼を遂行されると良いでしょう」




≪管理者さんが仰るなら、そうさせて貰いますけどねぃ≫




「…その刻が来るまでは、見逃します」










宵闇は、深く、濃く、沈んでいく。










…―――満月が紅く輝いた。




世界が紅色に染まる。




漆黒の宙と紅い膜が交わって溶け、月から銀白の糸が舞い降りる。




糸はこの世界には無い、異界の文字を綴りながら、ビルとビルの合間にある空き地に降りたって不可思議な模様を描いていく。




その模様は、次第に収縮して人の形を成していく。




光が弱まり、模様は人の形から人そのものへと変わって、




人が、現れる。







「…」






それは天空の色を映し出したかのような、何処までも黒く、黒々く、闇に溶け込んだ細身の男だった。




闇に溶け、しかし闇よりも濃厚な、黒い男。




男は、何も置かれていないだけの空き地を静かに眺め、




そして、










「さて。“終焉りの終わりを、開始めるとしよう”」









何の感情も込めず、冷淡な表情を崩さず、吐き捨てた。

謎なのです。

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