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〈壱〉1 朝の出来事

『キャラオケに行こうぜぃ』


その日の始まり、最初に耳に聴こえた言葉がそれだった。因みにその日の始まりというのは朝のことで、日付の変わり目、深夜零時のことではない。深夜帯ならカラオケに行こうと誘われても、なんの違和感も無い。

朝だ。

朝の筈だ。

………朝だよな?

疑問に思って受話器を置いて、東側の窓のカーテンを開けてみる。朝日が目に眩しく映った。

うん、朝だ。

ということは、この受話器越しにカラオケに往こうと言っている輩のネジはぶっ飛んでいると判断して良さそうだ。

俺はまた電話機の前に移動、受話器を取って相手に聞いた。


「今日は平日だ。高校生は学校に登校する日だ。寝惚けたこと言ってんじゃねぇ、アホ」


『ヒハハハハ、残念無念また来年ッ! 僕ちゃんしっかりお目々はパッチリ気分爽快ソーダは痛快、ヒ〜〜ッハハハハハハハッ!!』


ネジどころの話じゃ無かったか。ハァッと溜め息をつきたくなるのを我慢して、話を続ける。


「昨日が丁度三連休だったろうが。誘うなら土日にか祝日にしろっての」


『ヒハハ。でもでも僕ちゃんその三連休、ずっと学校で補習授業。単位がヤバイと卒業ヤバイ♪ ヤバイバイバイ、バイバイキ〜ンヒ〜ハハハ!』


こっちがバイバイキンしたくなってきた。


「補習授業って………嗚呼、お前いつも欠席してるからな。うん、馬鹿か。尚更今日は学校に行けよ。平日にカラオケ行くから休日潰れてんじゃねぇか」


『ご助言ど〜もありがとさん。でもでもでも、平日に遊んで休日に補習受けると、遊べる回数の方が増えてお得パック買い占めじゃね?』


「代わりに長期休暇期間が潰れるけどな。この浅はか野郎」


『ヒハハハハ! こいつはど〜も手厳し!! んじゃんじゃキャラオケ行かにいのな?』


「行かない」


断った。

当然だ。俺も一応、しがない高校三年生なのだから、来年就職出来るように勉学に励まないといけない。立派な大人になる為に。


『ヒハヒハ、それじゃ、またまた今度、誘ってやるから』


そう返して、来年になったらこいつどうなっているんだろう絶対犯罪者になってそうだと想像してしまう馬鹿は、最後に俺にこう言った。




『まだまだ死んだら駄目ダメだぜ、憑物』




「嗚呼、お前もな。『天邪鬼』」




受話器を置いて溜め息一つつく。

あいつの喋りはいつ聴いても疲れて困るな。オマケに人を『憑物』呼ばわりしやがって。まあ、返し言葉に『天邪鬼』と呼んだ自分とどっこいどっこいだから深く責めはしないけど。

それよりも学校だ。学校に行かなくては、さっき外を見た時、太陽はかなり高い位置にあったと思う。天邪鬼との会話の手前、遅刻はしたくないなと考えベッドに視線を向けて、


「………………」


アホは俺の方だということに気付かされた。

ベッド脇の縁に置いている目覚まし時計の針を見ると、現在時刻、午前十時十三分。

遅刻なんて論じている時間は軽く超えていた。

何だ。昨日は確か九時頃に就寝したから……うわ、十三時間も寝てやがる。あいつはこの時間を知ってて電話を掛けてきたのだろうか。もしそうなら、俺が寝坊したのを何故知っている? それとも偶然か。フフ、偶然だ偶然だ世の中そんなご都合主義に満ちている訳がないんだそうだこの時計の針も本当はまだ七時を指しているんだおや俺はまだ夢を視ているのかな?


「…………現実逃避しても事は始まらない、か」


バグり始めた思考を正常に戻す自分。

さて、遅刻は確定したから、さあどうしようか。………うん、腹が空いた。朝食を取ろう。

冷蔵庫に何か入れてあったかなーと考えを巡らしつつ、五畳一間の狭い一室を横断して台所へ向かう。…五畳一間の畳みの上に、部屋の大半を占めるでかいツインベッドが鎮座していることについては、触れないで頂こう。誰しも広い寝床で寝たいと思うのは自然なことだ。

……通販に失敗しただけだけど。

というか、遅刻はもう決定事項だから妙にのんびりしている俺な訳だけれど、実はもう欠席する気が満々に満載だったりする。遅刻したんなら出席取っても関係無いもんね。フッフーン、と天邪鬼理論確立(?)。


「…………あれ、まだ頭がおかしいな。腹が減っているからか…」


空腹に責任転嫁して冷蔵庫を開けて、


「………………わあ」


パタン。


現実から逃げた。

俺はアホの子じゃなくて廃人だったようだ。今時冷蔵庫に靴を入れる人間はいないだろうに。うん、古今東西何処を探しても、冷蔵庫に靴を入れる狂乱野郎はいないだろ。自分を疑いたくなってきた。

何故に冷蔵庫に靴?

思い出せない。最近どうも物忘れが酷いな痴呆症か嫌だなぁとしゃがんで落ち込んでいたところへ、玄関の呼び鈴が鳴った。


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