悩める子羊
初任務から数週間がたった。あの後も何度も任務に同行したが、相手が魔導士の場合のみ動けなくなることが発覚した。この事を言ってもロブ爺は自分で何とかせんかいの一点張りだし、どう頑張っても動かないものは動かないのだから困る。
やはり怖いのだ…。
毎日毎日魔法の練習は欠かさずやっているから自信がないわけではない。やはり相手を殺してしまう、までは行かなくても傷つけてしまうということに罪悪感があるのだ。こちらの世界はそういう風に回っているから、この運命からはこちら側に来てしまった以上避けることはできない。
これは自分に与えられた一つ目の試練なのか…。だが、これ以上自分のせいで仲間が傷つくのは見たくない。
そのためには強くならなければならない。相手を傷つけるという事を受け入れるしか他はない。
そう思って今日も三人で役所へ向かった。役所で見かけない大柄な男に声をかけられた。
『おぉ、誰だいハル、この子は?』
『あ、ジンクス。久しぶり。こいつは遠い親戚のスバルだ。デントと同い年だったし私たちの新しい家族だ。三人でチームを組んでいる』
『孤独のハルも卒業か』
そう言ってジンクスという大男は笑った。大きな太刀を持っている。ハルとは役所で知り合った仲だそうだ。ランクは中級。年は十五といったところだろうか。十五にしては体が良すぎるような気もするのだが、良い先輩だ。
『二人で任務を選んで来い、ちょっと話がある』
『はーい』
ハルが任務を選ばせてくれるのは初めてだ。だが中級は選べない。選べばボコボコにされてしまう。
『ジンクス、スバルの事なんだが、スバルは相手が魔導士の時だけ体が動かなくなってしまうんだ。…何か良い解決案はないか?』
『ほぉ、昔の俺と同じではないか。それならとっておきの解決案があるぞ。しかし何が起きても俺に何も言うなよ。少々手荒くなってしまうからな』
『ほどほどにな。いつがいいだろう?早い方が良いのだが…』
『明日の早朝、闘技場でどうだ?』
『わかった、よろしくな』
『任せてくれ』
そう言うとジンクスは太刀の様子を確認して任務へ行ってしまった。
『姉さん、これでいいだろ』
俺達が選んだ任務は簡単なものにした。零下の森の氷ネズミ退治だ。氷ネズミとは氷魔法を使える大型のネズミで最近いっきに大量発生して森を荒らしているそうだ。そいつを九十匹退治。これなら俺も出来そうだ。
『まぁ、良いだろう。ひとり三十匹だ。行くぞ!』
大丈夫相手は鼠だ、出来るさ!
零下の森入口。
『では、一時間後に集合ここに集合。討伐出来なかった分は集合してからだ』
そういうと俺達三人は零下の森に散った。どこにいるんだろう。森の入口付近に大量発生してる奴を倒せばいいからすぐ見つかるだろうと思っていた矢先、草むらが動いた。
即座に身構える。草むらから大型のネズミが出てきた。外見はハリネズミのようだ。とげがつららのようになっている。ネズミちゃんはこっちに向かって突進してきた。いける!相手はただのでかネズミちゃんだ。両手に蒼い炎を纏う。その手を突進してきたネズミちゃんめがけてクロスして切りかかる。
ジューという音とともにネズミちゃんのつららは溶けて黒こげになってしまった。一匹終了。三分クッキングでネズミの丸焼が出来た。初めて相手を倒したという優越感に浸っているとまたもや気配を感じた。しかもかなりたくさんだ。
ガサガサという音ともに四方八方からネズミが飛び出してきた。ざっと20匹以上。焦げたにおいに寄って来たと見える。それと同時に両手を合わせ地面につける。
『炎の壁っ!!!』
俺の周りに魔法陣が出来あがり、その淵から蒼い炎の壁が出現した。それはだんだんと大きく広がり、やがて周りにいたネズミちゃんどもは一瞬にして黒こげとなってしまった。
一,二,三,四,五,六,七,…二十,二十一,二十二,二十三,二十四,二十五。二十五匹もここ五分ぐらいでやっつけてしまった。
その後も順調に倒し続け十五分余りで討伐し終え、黒こげネズミ三十匹を集合場所へ持って行った。それでも十五分かかってしまったが、一番乗りだった。
その十分後にハルが到着し、その後すぐにデントも戻ってきた。九十匹討伐。
『スバルやるなぁ、魔法使えたじゃんかぁ。一番乗りだろ、すげぇなぁ』
そんな事を話してるうちに依頼主の自然環境保安員が来た。ベージュのつなぎに同色の帽子をかぶっている。肩のあたりには自然環境保安院の証である刺繍が施されていた。
『少し早めに来たんですが…スゴイですねぇ。ありがとうございます』
任務完了。代金をもらい、役所に戻らずそのまま帰り道に着いた。
『明日は役所に行く前に早起きして、闘技場へ行くぞ』
ハルが帰り道にこんな事を言った。
『闘技場へ行って何をするんだ?』
たまらず俺が質問した。デントも気になってうなずいている。
『少し用がある。特にスバルにな。…用件は着いてから言う』
何だろう…。俺に用件って。思い当たる節がない。闘技場とは魔導士達が自分の腕を磨くために鍛え合う場所で一種のスタジアムのような所である。俺を魔導士と闘わせるのだろうか。
たくさんの疑問を抱えつつ帰ってからはすぐに眠りに着いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の朝、いつもより一時間以上も早くたたき起こされ闘技場へ向かった。まだ朝日すら顔を出してはいない。闘技場は役所のすぐそこにあるサッカースタジアムの様なものである。中心には広々とした地面が広がりそこで自由に動き回っていいのである。
勿論早朝なのでまだ誰もいない。
『誰と何すんだよ』
眠そうにデントが言う。
『スバルにジンクスと勝負してもらう』
やはりそういう感じか…。少し感づいてはいたが、相手はあの大男である。こちらに勝機はあるだろうか。たぶんハルが俺が動けなくなる事を心配して手を打ってくれたのだと思う。
すると向こう側からジンクスが現れた。
『スバル君、ヨロシクな。正々堂々と行こう』
『よろしく』
ジンクスと握手を交わす。あの大きな手を握りながら、大丈夫!俺ならいける、昨日は出来ただろ!!!と自分を奮い立たせる。
『では…』
ジンクスは太刀に手をかけかなりのスピードで俺に斬りかかってきた。
かわさなければ…。くっ!やはり動かない。まともに食らったら速攻ダウンだぞ。逃げろ。
そう思っているうちにどんどんジンクスの太刀と俺との距離が近づいていく。ヤバい、斬られる。
そう思った瞬間、体全身に痛みが走り、切られたと思われる腹部が熱くなる。とびっ散った自分の血が見える。そして俺はうめきながらその場に崩れ落ちた…。
次回スバルvsジンクス!!!




