近づく戰
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ちょうどスバル達が地下への階段を見つけた時、ルノワールはセントピアから遠くを見つめていた。
『…もうすぐだ。私はこれを防ぐ事が出来なかった』
『仕方のない事です。これは運命、我々は全力をあげて戦います』
弱々しく呟いたルノワールに光の国の国長補佐、クロイツが言った。
『済まないな、本当に…。あれの指示を頼んだ』
そう言ったルノワールの眼には覚悟の炎が燃えていた。クロイツは「はい」と返事をすると国長の部屋から退室した。そう、戦いの時はすぐそこなのだ、とルノワールは胸の内で呟いた。
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『おい、これ見た事あるか、スピカ』
『…は、初めてです』
この場にいた者は全員驚きを隠せずにいる。この家に何年間も住んでいて尚且つ、本の内容までをも熟知しているスピカでさえこの会談は初めて見るのだ、驚くのは当然だった。
『スバル、行こう!絶対何かあるよ』
アーリアの予想はズバリ的中するのだった。暗い階段をドキドキする気持ちを抑えつつ、下って行くと位とつの部屋へ辿り着いた。そして、その光景を見てまたもや一同は息をのむ。一回ほどの量ではないがそれなりの数の本、部屋の中心には見た事のないような複雑な魔法陣、床に散乱する何らかの資料…。俺はその部屋を見た時、何故かめまいに襲われ、その場にしゃがみ込んでしまった。
『大丈夫?』
アーリアが心配そうに声をかけてくれる。アーリアの方をかりてゆっくりと立ち上がり、もう一度室内を見回した。
―――俺はここに来た事がある。
一度も来た事がないのに、この部屋に覚えがある。まるで、記憶を失った人間が感じるそれのようだった。何故そんな感覚に襲われたのか、それはこの部屋を調べることで明らかとなった。部屋にあった机の上に他の本に比べるとうすい本があった。それを読みやすそうと感じたアーリアが驚きの声を上げる。
『スバル、見てこの本の内容!日記よ』
その本はアーリアの言うとおり、誰かの日記だった。恐らくこの部屋を利用していた人物のものだと思われる。
「七月二十日 私はある魔法について知った。時空を支配する事が出来る魔法「超亜空間魔法」。これを使いこなせば私の夢が夢ではなく現実となるのだ」
日記の一ページ目はこう書き記されていた。
『ここのページ、読んでみて』
「十二月 二十九日 超亜空間魔法についてかなりたくさんの時間を割いて調べたが、今日、明らかになった事がある。それはこの魔法を操れるようになるには多大なる犠牲が必要だという事だ。思い立ってからこの日までで得られた情報は雀の涙ほどだが、私は諦めなどしない。そして夢が実現するのであればいかなる犠牲も払うつもりだ」
『まあ、ざっと読んだんだけど、最後のページが興味深いわね。読みあげるよ。「五月十一日 私はついに魔法陣を書き終えた。ほんの少しのミスもない。そして私は数多くの犠牲を払ってきたのだ、この魔法が失敗するはずがない。これが成功すればついに私の夢がかなうのだ。私は今まで闇の国への魔法開発部として動いてきたが、ついにそこから脱し、闇の国の最大戦力となるのだ。」…確かエトワールは最近ここらへんで超亜空間魔法が使われたって言ってたわよね。ってコトは…この日記の持ち主が、スバルをこっちの世界へ飛ばした張本人ってことになるわよね』
『スバルさんをこちらの世界へ送り込んできた張本人はこの日記の持ち主で間違いありませんね。この日記を持って行くと良いですよ』
そして、俺は日記を受け取りまじまじと見つめ直した。この日記も少しだけ、ほんの少しだけ見た事のあるようなそんな気がする。
『スバルは黒魔法を使うって言われて国から追い出されたのよね。つまり、スバルのあの黒い炎の魔法が黒魔法じゃないってことを証明できれば良いんだから…それについて書かれている本を探してみましょ、きっとあるから』
アーリアはそう言うとスピカ達と共に黒い炎について書かれている本を必死に探し始めてくれた。だいぶ頭痛は引いてきたので、俺自身も自分のために探し始める。今日初めてあったレグルスも熱心に探してくれているのだ。
『みんな、ありがとう』
『あったりめぇよ』
『なんでここまでして熱心に…』
『いいから、口を動かす前に本を探せ』
レグルスは俺の質問を遮り、俺の方など見向きもせずにそう言った。すると、少し離れて本を読んでいたスピカがちょこちょこと近くに寄ってきて、耳元で囁いた。
『…兄さん、昔からあんな感じなんです。感情を表現するのが下手と言うか、素直じゃないんですよね…でも気にしないでください。本当はスバルさんにありがとうって言われて照れてるんですよ』
そう言っているスピカはとっても楽しそうだった。その言葉には、お母さんのようにしっかりしている中に、少しだけ兄であるレグルスをいじっているようなどこか幼い部分も現れている。
本を探し始めて、一体どれくらいたっただろうか。この部屋には時計もなければ、地下のために窓もないため、時間がわかる要素は腹時計という原始的なものしかない。しかし、それは俺達に時間帯を教えてくれるものとなった。腹が減った。それだけで、おおよそ夜なのだという事はわかった。隠し部屋への階段のスイッチは、レグルスが偶然見つけたものであったため、思っていたほど時間はかからなかった。しかし、今の本探しには対照的に時間がかかっている。…腹が減った。早く見つからないだろうかと一冊の本を手に取った時、アーリアが沈黙を破った。
『あった!!!…スバル、これ』
皆が読んでいた本を置き、アーリアのもとに駆け寄る。その本の題名は「闇の国 魔法開発部門研究課題」だった。アーリアはその本のわりと序盤のページを開き、読んでみてと促した。
「研究課題「人口竜魔法」 今回の研究は人口竜魔法についてである。これまで幾度となく研究を重ねてきた人口竜魔法だが、今回、ついに今までの研究が実を結び、人口竜魔法を使用する事が可能となった。その人口竜魔法の種類は…」
その続きまで読んで、思わず驚きの声を上げてしまった。
『人口竜魔法、「黒炎竜の竜魔法」だぁ!?』
『ということは、スバルさんの黒魔法に近い感じの魔力は人工的に作られた黒炎竜の竜魔法…』
『しかも、この後に書かれてるんだけど、初期段階は炎の色は、黒じゃなくて蒼なんだって。それに、髪の毛に炎が着火するって言う所も同じだし、この本の著者がこれを使えるようになったって書いてあるのよ』
アーリアの言うとおり、その内容は本当に書かれていた。よってこの黒い炎は正式な黒魔法ではないという事がこの本によって証明された。それと同時に、俺がこの人口竜魔法を使えるという事は日記の人物が俺の事をこちら側の世界に飛ばしたという事をより明確にするのであった。
『じゃあ、スバルが日記とその本を証拠にすればお前がわりー奴じゃねぇって事が証明できんだな』
そうだ。これで、今俺が持っているこの二冊の本とエトワールの証言により、俺が黒魔法使いではないという事が証明できる。やっと、ハルとデントのもとへ帰る事が出来るのだ。そう考えると、この二冊の本が物凄く大切なものに思えた。レグルスの問いかけにゆっくりと頷く。
『そうときまれば飯だ、飯。お前ら腹減ってるだろ?…ほら、上行くぞ』
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『うんま~い☆』
アーリアはレグルスの作ったシチューを口に運ぶなり、感嘆の声を上げ続ける。アーリアの言うとおりレグルスの作る料理は絶品であった。人はみかけによらないとはこの事だ。勿論こんな事は口に出しては言えないが。
『美味しいですよね』
皆お腹がすいていたのか、すぐに食卓にあるレグルスの手料理はなくなってしまった。夕食を食べる時間が遅かったため、すぐに寝ることになった。スピカが布団を敷く前にこんな提案をしてきた。
『家が狭いのでここしか寝られる場所はないんですけど…場所は私、兄さん、スバルさん、アーリアさんで良いですよね?』
『なんでよ!』
『え!?…だって、スバルさんとアーリアさんってそういう関係じゃないんですか?』
『…ち、違うわよ』
あれ、アーリアの反応が少しいつもと違うような…。いつもだったら「違うわ!」と言う具合に思い切り反論するはずなのに、今日のアーリアは頬を赤らめ、スピカの方から目をそらして弱めに言った、そんな感じだった。
『じゃあ、アーリアさん、私、兄さん、スバルさんで良いですか?』
アーリアは「うん」と言う。レグルスはそんな事はどうでも良いようだった。俺も同意するが、先程のアーリアの反応が気になって気になって仕方がない。
布団に入ってから、すぐに一人分の寝息が静かに聞こえた。恐らく、スピカのものだと思う。今日の本探しはあの小さな体にはやはり応えたのだ。
『二人とも起きてるか?…スピカは寝ちまったんだけど』
レグルスが布団に入ったまま、言った。スピカを起こさないように小さめに返事をする。アーリアの返事も聞こえた所から、スピカ以外はまだ起きているようだった。
『俺達はさ、昔、闇の国やつに母さんをさらわれたんだよ』
突然の告白だった。一番驚いたのは俺ではなくアーリア。その理由は言うまでもない。
『父さんはスピカが生まれてからすぐにどっか言っちまって、ほとんど母さんが女手一つで俺達二人の事を育ててくれたんだ。…確か俺が十歳でスピカが六歳だった。俺達が住んでた町は光の国の外れで、闇の国のヤツが少人数だったけどお仕掛けてきたんだ。母さんは強かったけど、それが仇となってさらわれちまった。…その後、国長のルミエールに保護されて、しばらくセントピア内で生活したんだ。それで、強くなるために光の竜を探して、竜魔道士になった』
『私も同じ。小さい時に両親を闇の国の奴に殺された』
レグルスはそれを聞いて、驚いたように声を上げる。その後「似た者同士だな」と呟いた。
『俺達みんな闇の国の人間から傷を受けている。俺達は何もやってないのに…』
『私、決めたんだ。絶対に闇の国に復讐する』
アーリアは腕を天井に向けて力強く言った。
『俺もだ』
『…私たち、もうそろそろ行かなきゃならない所があるけど…レグルス達も頑張ってね』
そこで会話は途切れた。皆静かに眠りについたからだ。この時、こんなにも早く復讐のために戦うという機会が近づいていたことは誰もわからなかっただろう。




