探し出せ
短剣を俺の喉元に近付けた青年は、さらにその手に力を入れた。俺の首から血が流れ出てこないギリギリのところで力を入れてくる。喉から冷たい金属の感じが伝わってくる。短剣が震えていない所から、青年は動揺などしていない事がわかった。そして、俺が名乗ろうとした瞬間、近くでその光景に驚いていたスピカが今までにない大きな声で言った。
『スバルさんは悪い人じゃありません、兄さん!!!』
俺はスピカの「兄さん」という単語を聞き逃しはしなかった。恐らくアーリアも同じく「兄さん」と言う事に驚いている様子。
『んじゃ、その金髪の女は?』
青年は顔をしかめてスピカに尋ねた。
『アーリアさんもスバルさんの仲間で悪い人じゃありません!短剣をはなして下さい!!!』
スピカは見る限り相当怒っているらしい。そして、俺の喉元からすっと短剣がはなされる。その場から振り返ると青年の全貌が明らかとなった。ツンツンの白い髪に整った顔。身長は俺ぐらいで、これまた異世界風の服装に身を包んでいる。
『まぁ、スピカがそこまで言うんなら…』
『相変わらずだな、レグルスよ』
光の竜、エトワールが口を開いた。レグルスと呼ばれた青年は竜を懐かしそうに見上げ、こう言い放った。
『そっちこそな』
光の竜は若干笑ったように見えた。
『お前は…氷か?』
レグルスは俺の顔を覗き込みながら尋ねた。「お前は氷の竜魔道士か?」と言う質問だと解釈した俺は頷いた。
『話の途中だ、レグルスよ』
エトワールにそう言われたレグルスは「うっせーな」などと言いながら、スピカのいる所までいった。
『話とは…この状況でも話せる内容か?』
話、それは俺がこちらの世界の人間ではない事について。かなり重要な内容で、情報漏れは勿論厳禁だが…レグルスは同じ竜魔道士なんだし、スピカの兄という事もあって心配は…たぶんなさそうだ。
『大丈夫です』
『では、汝の話とやら、聞いてみようか』
『俺は…こっちの世界の人間じゃないんです』
ゆっくりと噛みしめるように言った。誰も何も言わない。スピカもレグルスも俺の異様な魔力の感じから何かを感じ取っていたのかもしれない。
『another world…ですね』
スピカがゆっくりと確認するように言った。俺は真っすぐにエトワールを見つめたまま、頷いた。そして俺は出来るだけ詳しくそして、わかりやすく今までの事をありのままに伝えた。
『…まず、汝がこちらへ送り込まれた原因は恐らく「超亜空間魔法」の影響であろう』
話を全て聞き終わったエトワールは言った。その場にいた全員の頭の中に疑問符が浮かぶ。
『…あのスピカも知らないか』
『えぇ、そんな魔法、聞いた事がありません』
「あのスピカ」とはやはりスピカは天才だったのか。先程の石碑の所でも少し思ったのだが…超天才なのか。
『「超亜空間魔法」。それは魔法でも不可能に近い事を容易くやり遂げてしまう強力な魔法の事だ。例えば「国を一つ滅ぼす」などと言ったところだ。…勿論術者への負担はかなりのものだが』
『超亜空間魔法とスバルがとばされたことと何が関係あるの?』
アーリアが痺れを切らしてエトワールに質問をした。
『…超亜空間魔法は時空を歪め、その時にできる莫大なエネルギーを利用した魔法。その時空の歪みに汝が引き込まれたものだと考えている』
『じゃあ、誰がその魔法を…』
『私が記憶する限りでは、少し前に超亜空間魔法に似た魔力を感じ取った。それがここだ』
『…星空の丘で…?』
『そうだ。…レグルスとスピカの家まで調べに行くと良い。あの家は推測であるが超亜空間魔法を使用したと思われる人物が住んでいた家だと思う。存在の証明だったな。家の参考になる書物を持って行くと良いだろう。良い証拠になるはずだ』
エトワールはそこまで言うと、大きなその翼を少し動かし、その場から離れる姿勢を取った。
『エトワール、また行くのかよ』
それを呼び止めるようにレグルスはエトワールに問いかけた。
『済まない。我はしばらく、いやもう帰ってこないかもしれん。行かねばならんのだ。…クロウは、氷竜はもう行ったか?』
『俺にある程度竜魔法を教えた後何も言わずにいなくなってしまいました』
『…そうか。済まないな。我はあまり汝の力になれんようだった』
エトワールは俺を見ずに遠くの空を見つめながら言った。俺はそれに「いえいえ」と言うのが精一杯だった。スピカがエトワールの足元まで近づいてその足を撫でた。
『もう会えないのですか?』
『…済まない。…我も本当は行きたくはないのだ。悪い予感がする。しかし、これも運命。この地は離れるがこの地を思う気持ちは消える事はない。ここは我の故郷だからな』
そして、エトワールは翼を動かし、その大きな体を宙に浮かばせる。
『何があっても守りきるのだ!それが光星竜の魔道士の運命。さらばだ、友よ!!!』
エトワールはそう言い残すと、一気に高度を上げ、西の空へと飛んで行った。
『行っちゃったわね』
アーリアは名残惜しそうに呟いた。
『…お前、色々と事情あるってわかったからよ、家に来い!光星竜の魔道士として俺はお前の手伝いしなきゃいけねぇ』
『そうですね。スバルさんには助けてもらいましたし、家に泊まっていいですよ。勿論アーリアさんも』
『…んじゃあ、お言葉に甘えて』
そう言ったのはアーリアだった。レグルス達の家はさほど遠くはなかった。二階建ての木造の家が建物一つない大自然の中に一人寂しくあった。
『そういえば光星竜ってエトワールの事?私含めて世間の人は光の竜って言ってるけど』
歩いている途中、アーリアが素朴な疑問を二人にぶつけた。確かに光星竜とは聞かない。「ああ、それなら」とスピカがそれに対応する。
『エトワールは光と星を司る竜なんです。兄さんはそれの星の竜魔法を使って、とっても強いんです』
『じゃあ光の方は?』
『光の竜魔法は難易度が高くて俺に教えこめないって判断したらしい。その時はスピカもこれ以上に小さかったしな』
一、二歩先を行くレグルスは言った。この事からだいぶ小さい時にエトワールに竜魔法を教えってもらったらしいという事がわかった。あくまでも推測だが。
木製の扉を開くと、まず目に飛び込んできたのは壁一面にきれいに整頓された本、本、本。
『す、スゴイこの本の数。こんなに沢山どうしたの?』
『この家に来てからずっとありましたよ』
「す、スゴイね」とアーリアは未だ驚きを隠せない様子だった。
『スピカ、お前、超亜空間魔法だっけ?の事書かれた本なんかこの中で見た事あるか?』
『いえ、ないです』
『え!?スピカ、ここにある本の内容もしかして…全部覚えてるの?』
今のレグルスとスピカの会話を聞いていて、たまらず言ってしまったまさかと思う疑問。それにスピカはけろっとした様子でこう答えた。
『ええ、まあ』
『マジかい!!!』
さすがにこの事実にはアーリアと二人揃って驚いてしまう。どこかの天才的な博士じゃあるまいし…いくら天才って言ったって十歳前後の健気な女の子だよ。
『スピカはちょっと前まで光の国セントピアの大学の博士号取ったぐらいだからな。まあそんな事は置いといて…』
『置いといてじゃない!』
アーリアが鋭く突っ込む。俺も胸の中では突っ込んでいたが口には出さなかった。
『…この中の本を全部記憶しているスピカがわからないとなると…どこにあるんだ、その本ってのは?』
全員がこの質問に黙りこくってしまった。確かに…どうすればいいかわからない。やっぱり…。
『片っぱしから読んでいくってのは…ダメかな?』
アーリアは俺がまさに今考えていた事を提案した。それでは効率が悪いのはわかるが…ある程度は整理整頓されているだろう。
『…それしかありませんね。手分けして探しましょう。出来るだけ手に取ったものは元の場所に戻すようにして下さい』
そして、各自で言わば「証拠探し」である超亜空間魔法などの本について探し始めた。わけのわからない数学の本、分厚い辞典のような本、絵本など多種多様な本があった。その中に一冊ひかれるものがあった。タイトルは「わかりやすい世界史と魔法史」。そう言えばこちらの世界の歴史などについては全く無知だったなと思い、本を開いた。
「【此の地の誕生】此の地は元々海が広がっており、大陸などはなかった。しかし、海中で大噴火が起こり地面が盛り上がると同時に、海水が干上がり此の地が誕生したとされている。竜は初期のころから此の地に生息しており、人間は此の地誕生から約百年後に此の地に辿り着いたとされている。先住民の人口は少なかったものの、光、闇以外の五国、五部族に別れていたが、移民と言う形でその当時から対立していた魔法を使う光と闇の部族が入ってきた。そして、まだ魔法を使えなかった先住民たちは異国から来た光と闇の部族にそれぞれ支配され、さらに対立が激しくなった。その後大戦争が勃発し、両者決着がつかず、その頃魔法を竜から教わった先住民たちが謀反を起こし戦争は終結し、現在の七国、七部族となった。竜狩りはこの後に行われる…」
『おい!みんな!ちょっと来てくれ!』
突然にレグルスの声が少し遠くから聞こえた。その本を閉じて元に戻して俺はレグルスのもとへ駆け寄った。レグルスが指さす先には本に隠れていた…スイッチのような出っ張り。
『これってなんか押したらゴゴゴ…みたいな!きっとそうだよ!』
アーリアはそのボタンのようなものを見るなりはしゃいでいる。その意見にスピカも異論はないようだ。
『じゃあ、押すぞ』
そして、レグルスはゆっくりとそのボタンを押した。すると予想的中、ゴゴゴ…と音をたてて複雑に本棚が動き出し隠し部屋のようなものが出現した。アーリアはさらにはしゃぎ出した。
『これは…』
『地下への階段だ!!!』




