光の竜魔道士
『私、先程から思っていたのですが、スバルさんって竜魔道士ですよね、氷の』
前方にいるスピカはこちら側を見ながら、いつもより大きめの声で言う。スピカの案内であの細い通りから、広い通りへ出た後、移動手段として提案されたのが今のっているこれ、「太陽光式魔力二輪車」。太陽の光エネルギーを動力とするこのスクーターのようなものはほんの数十分間だけの練習で、初心者の俺でもかなり上手に乗れるようになる代物。どうやらこの世界では太陽光式魔力二輪車が発明されるまで魔法を使える人か、高価な魔水晶を購入し、魔力のある状態の人でしか乗る事の出来ない魔力二輪車が普及していたため、太陽光式魔力二輪車はとても画期的な発明だったらしい。
そして、その画期的な発明品は今俺に、アーリアが俺が乗っている太陽光式魔力二輪車に二人乗りをしていて、俺の上半身に腕を回して体がなかなかの具合で密接しているという状況を作り出してくれた。このような状況になったのは俺にしがみついているアーリアが尋常ではないほどに、この太陽光式魔力二輪車を乗りこなせなかったためだ。そのためかアーリアは少々ご機嫌斜め。
先程前方で太陽光式魔力二輪車を馴れた手つきで乗りこなしながら、物凄い事を聞いてきたスピカという少女。彼女についてわかった事は、スピカが星空の丘に住んでいるということと、体術に物凄く長けているという事だけ。ききだそうと試みたのだが、今はスピカがスバルが竜魔道士だという事を言い当ててきたので驚いている。
『違うんですか?』
スピカは突然に止まり、追いついた俺達に確認してくる。
『…そうだけどなんでわかるんだ?』
『私を助けようとした時の氷の壁の感じです。あれが何処となく竜魔法に似ていましたから』
『竜魔法の感じ?』
アーリアは俺にしがみついたまま、疑問を口にする。「感じ」とは何の事なのか俺にもわからない。
『そうです。私の魔法は絶対的否定魔法と言いまして、相手の魔法を完全に無力化できる魔法です。この魔法を習得するなかで、魔法の独特な感じに敏感になりまして』
『でも、それって竜魔法について見たり、知ってたりしないとわかんないんじゃ』
『あ、言い忘れてました。私、竜と一緒に生活した事あるんです』
スピカはとんでもない事をけろっと言う。こちらが竜魔道士という事もあると思うが、いくらなんでも冷静すぎやしないだろうか。
『じゃあ、スピカは光の竜魔道士?』
『いいえ、違いますよ。私は絶対的否定魔法を習得した代償にその他の攻撃魔法などは一切使う事の出来ない身となってしまいまして…だから、体術を頑張ったんです』
ほ~と二人で納得してしまうが、だとしたら光の竜魔道士は一体誰なんだという疑問が生じる。そして、俺がそれについて尋ねようとした時、スピカは「早く行きましょう!」と言って太陽光式魔力二輪車を動かし始めてしまった。
しかし、スピカの竜と一緒に生活している発言によって、ほとんど確実に光の竜とあう事が可能となった。ここまで物事が順調に進んだのは、久しぶりのような気がする。太陽光式魔力二輪車に乗りながら風を感じ心地よく進んでいる。
いくつかの疑問を抱きつつも進み続けること数十分。見慣れた真っ白な街並みはいつの間にか草木に変わっていた。
『ここからは歩きです』
舗装されていた道路の突き当たりに一つの古びた石板のようなものが立っている。
『この石板にはこう書かれています。「竜の瞳を持つもの、その瞳で真実を目撃し、結界を打ち破らん」と。私はスバルさんが竜魔道士だという事は信じています。ですが一応確認と言う事で、竜の眼を使って結界を解除してください』
言われるがままに結界を解くために竜の眼を使う。すると、見えない結界を触りながら驚いていたアーリアが感嘆の声を上げた。
『すごいよ。結界がなくなっちゃった』
アーリアは先程まで結界が張ってあったところ付近で手を上下左右に動かしながら、結界がなくなったと騒いでいる。
『この文字は、古代文字なので、この魔法は竜が長い眠りについた千年ほど前からかかっていると思われます。とても強力な古代の魔法で、私の絶対的否定魔法でも打ち消すことが出来ません。…光の竜のところまではもうすぐですよ』
『す、スピカこの文字読めるの?』
アーリアは石版の文字を眼を凝らしながら、スピカにたずねた。スピカは「はい!ちょっとだけ勉強したので」と歩みを進めながら、明るく答える。ちょっとやそっとの勉強では古代文字が読めないことぐらい文字を見なくてもわかる。
小高い丘まで行くと、スピカは足を止めた。
『ここです』
風が丘を含むこの草原全体をなでる。すると、突然、草原に大きな影が落ちる。
『来ました』
そして、バサバサという音と、先程まで心地よかった風とは対照的な強めの風を上から感じる。その白銀の皮膚には星をちりばめた様に煌く金色の模様。見るもの全ての目を奪ってしまうような、豪快な翼。その姿は美しいという一言だけでは表現できないほどのものだった。アーリアは初めて見る竜に目を丸くしている。
『久しぶりだな、スピカ』
着地した竜は優しい声でスピカに言った。
『はい。久しぶりです。エトワールは元気にしてましたか?』
『我は元気だったぞ。…ところで汝は誰だ?只ならぬ魔力を感じる』
今の久しぶりに会った親戚みたいな会話から、エトワールと呼ばれたこの竜はいきなり俺に会話を振ってきた。
『あなたに話があって氷の国から来ました』
『ほう。氷からか。さぞ遠かったことだろう。氷の竜の使いよ。汝の話とは何だ?』
エトワールは非常に興味を示している。きっと俺がこちらの世界の人間ではないことに気づいているからであろう。俺が今までのいきさつを話そうとしたそのときだった。俺もギリギリまで感じることの出来ないほどの速さで誰かが俺の喉元に短剣を近づける。横目で見る限り同い年ぐらいの美青年。
『す、スバル…!』
アーリアは立て続けに起こる非日常的なことに驚きっぱなしの様子。喉元に短剣を近づけた青年は言った。
『俺は星、いや光の竜魔道士だ。お前誰だ?』




