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あなざーわーるど  作者: トム助
存在の証明
31/38

解放

スバルが、あのスバルが押されていた。対戦相手のレイスの仮面を壊す事は出来たけれど、今はもう勝ち目がないくらいの状態だった。恐ろしい光景だった。スバルはレイスが発動させた影により縛りつけられ、とても苦しそうだ。


完全に会場が静まり返っていたから、応援など出来るような感じではなかった。だから、心の中で「頑張れスバル!」と叫ぶ事しか出来なかった。


しかし、あの青年が出現した事で、会場が騒然となった。そして、爆発音によりゼランの近くにいた兵士全滅。キリトは未だに病室でスバルはあの状況。全てあいつらの策略だったのだろうか。そして、ゼランを抱えたまま会場中心部へ移動を始めた。さっきあの青年が発した言葉―――「…これから、炎の国の長ゼランの死刑を実行する!!!」まさかと思っていたが本当にやる気らしい。私を含めた大会出場者がいる待機場所は結界のため守られているが、青年、ゼラン、レイス、そしてスバルのいる会場中心には行く事が出来ない。それをわかっていながらも私は見えない結界に近づき、叩いた。


『スバルッ!!!』


声は届いていても、スバルは未だにぐったりとしているままだった。このままじゃ、誰も何もできないままキリトの父、ゼランが殺されちゃう。誰もがあきらめかけたその時だった。ビリビリと耳をつんざくような、とても大きな音、いや声。その声の主はさっきまでぐったりとしていたスバルのものだった。目の色がいつもの竜の眼の時とは違う。


『グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』


試合中にも一回あったけどそれとは日にならないくらいの叫び声。結界がビリビリと震え、その感触が触れている両手から感じ取れる。


『…うるさいなぁ』


青年はその叫びに驚きもせず、ぼそっと呟いた。その刹那、空気を切り裂くようなヒュンという音が聞こえたかと思うと、青年の近くに影にとらわれていたスバルが瞬間移動したみたいに出現し、思い切りアッパーをかました。それをほとんど無防備な状態でスバルの攻撃を喰らった青年はそのまま上空に飛ばされ、途中で音もなく消えた。青年の魔法?それともスバルの魔法?


スバルはそのまま空中で静止している。その姿は異様なものだった。スバルの周りに水色の冷気が漂っていて、それはまるでドラゴンをかたどるようになっている。竜人スバル、まさにその通りだった。その姿を見て誰もが口を閉じる事を忘れていた。そして、レイスの方を見ると、横にはあの青年がいた。ゼランはもういない。さっきの攻撃でスバルがゼランを助けてくれていた。


『何してるんだ?』


青年が不愉快そうにレイスに話しかける。


『…すまない。もう一度捕える。今度は本気でな』


『いや、いい。俺がこいつをどうにかする』


そう言って青年が行動を起こそうとした時、青年の腰についていた黒い水晶が鈍く光り輝いた。青年はそれをまじまじと覗き込んでいる。どうやら連絡用の水晶みたいだけど…。それを見た青年はレイスにも見せると、何の合図もなしに、レイスは影に潜り込み、青年はさっきと同じように音もなく消えた。何だったんだろう?それはわからなくなっちゃったけどとりあえず一件落着…のように思えた。


『グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!』


え!?またスバルが叫び声を上げた。その叫び声はさっきのとは比べ物にならないくらいの大きさで、結界をも破壊してしまった。会場の観客のほとんどは気絶している。そして上空にいたスバルは大きく口を開いたかと思うと、そこに物凄いエネルギーの氷の魔力が集まり、球体になった瞬間、それを会場の縁に向かって発射した。氷のエネルギー体がぶつかった瞬間、ぐらぐらと会場が地震のように揺れた。


どこからどう見てもスバルの様子がおかしい。普段のスバルなら、こんなことしないはず…。でもなんで?私には何もわからなかった。でも、体が勝手に動いていた。スバルを止めなくちゃ。私が止めに行かなくちゃと。走り始めようとした私の腕を誰かが掴んだ。後ろを振り返ると役所のトルネオが立っていた。


『…行っちゃダメだ』


トルネオは静かに、でも私の目をしかっりと見つめて言った。


『何でですか!!!私はあいつの仲間だから、行かなくちゃダメなんです!!!』


『ダメだ!スバル君は見る限り竜の魔力に自分を奪われかけている。非常に危険な状態だ』


トルネオは先ほどとは対照的に荒々しく私に言い放った。


『だったら尚更…』


私は気付かないうちに泣きだしてしまった。滴が頬を伝って地面に落ちる。頭の中はスバルの事でいっぱいだ。


『大丈夫。火竜の竜魔導士リドガーさんがいる』


トルネオはさっきとは打って変わって優しくそう言った。私もリドガーの名前は何度かきいた事がある。


スバルは未だに破壊活動を続けていた。何発も何発もブレスを放ち続けている。その瞳は怒り狂っていた。しかし、スバルの態勢がぐにゃりと曲がる。一瞬の出来事だった。物凄い速さでスバルに飛んで行った何かがスバルを吹き飛ばした。そして、スバルが壁に激突する前に、スバルを殴りつけた何かはスバルに向かっていく。


――ドカンッ!!!


『…ほう、やるじゃねえか、ガキ』


『グルルルル…』


スバルが激突した直後、何かがスバルを殴りつけたけど、スバルは両手でその拳を受け止めていた。殴りつけているのはまぎれもなくリドガーだった。金髪の髪に体中にぐるぐると巻かれた包帯の上には黒いコートを着ている。


『だが…』


リドガーは息を吸い込むと燃え盛る火炎を至近距離でスバルに放った。スバルはかわさなかった。いや、かわせなかった。リドガーはスバルの手をつかんでいる。ゴオオと大きな音がして、焼け焦げたスバルが激突した壁から地面へと落ちる。


『スバルッ!!!』


私は叫んだけれど、その声は今のスバルには届いていないのだろうか。そして、一度は消えたスバルの冷気が再び竜の姿になっていく。


『…んー。まいったな』


リドガーは頭をぼりぼりとかきながらそうつぶやいた。


『マジでやんないと…まずいなコレ』


ヒュンと音が聞こえたかと思うとリドガーは既にスバルの近くに移動して、攻撃を始めている。何て早さなんだろう。目が追い付かない。ここから見るとリドガーの拳についている炎とスバルの冷気がものすごい速さで動いているようにしか見えない。


『アーリアさん。大丈夫です。リドガーさんはスバル君を殺したりしないですよ』


トルネオは優しく私を慰めてくれている。違う。そんな事で泣いているんじゃない。スバルは私を助けてくれたのに、私はスバルを助けられない。私は自分の無力さを呪った。


いつの間にか二人は上空へ移動して凄まじい攻撃を繰り返している。でも、リドガーは余裕の表情だった。そしてリドガーの拳がスバルの顔面を捕えスバルは大きく後ろに吹き飛ばされる。


『これで終わりだ!!!』


リドガーはとばされたスバルの真上に一瞬の内に移動して、大きく両手を上げている。


『竜式 紅蓮煌炎拳!!!』


灼熱の火炎が太陽の如くリドガーの両手に発生し、勢いよくスバルに叩きつけた。ゴオンという地響きのような音が会場に伝わり、スバルはものすごい速さで地面に叩きつけられてしまった。スバルの周りの冷気は消え、完全に気絶してしまった。


私はそれをなにも出来ずにただただ見つめる事しか出来なかった。

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