影
『レイス対スバル、戦闘開始!』
審判のよく通った声が会場に響く。現在会場には今まで見られていた歓声や黄色い声などの動きは一切見られない。なぜなら前日、キリトが今俺の目の前にいる対戦相手のレイスにやられたからである。炎の国の民にとっては衝撃の出来事だったようだ。いくら準々決勝だったとはいえ、キリトはかなりの凄腕の魔道士だという事は全国民が知っていたからである。それに我らがリーダーゼランの息子を審判の止めが入っても、攻撃し続けるという暴挙をしでかしたためか、レイスの事を応援するものなどこの会場には一人たりともいなかった。しかし、俺の方にも声援はない。普通ならキリトの敵を取ってくれという全員一致の思いがあるはずなのだがそれを行動で示すものもいなかった。それもそのはず、レイスというこの女は異様な魔力を放っている。誰もがおののくような寒気が走る不気味な魔力をこの会場にいる誰もが感じ取っているのだ。それを俺は一番感じている。
俺は両手をパキパキと鳴らしながら竜の眼を発動させる。
『そっちが来ないのなら俺から行くよ』
レイスは身に付けている漆黒の仮面、マントのおかげで体型や表情は全く分からない。俺は宣言通り攻撃態勢を取る。しかしレイスはいまだに動こうとはしない。俺はその場で腕を伸ばしてクロスさせ青い魔法陣を出現させる。
『氷河!!』
俺が魔法を唱えると、レイスの足元に巨大な氷河がせり出す。本来ならこの氷河が対象者を飲みこんでさようなら…のはずなんだが。後ろに気配を感じ、ほとんど無意識に右腕を回す。その瞬間いつの間にか移動したレイスの右拳が俺の腕に飛んできた。なんて力なんだ!攻撃を受けた衝撃で、振りあげた腕が正反対の方向へはじかれる咄嗟にその場から離れ、レイスとの間合いを取る。一体どうやって移動したんだ?
そんな事を考えさせる間もなくレイスは指を鳴らした。すると、レイスの近くから二体の一型の影がはい出てきた。レイスや俺の何倍もの身長で、両手は何もかもを八つ裂きに出来るかのように鋭くとがっていた。その二体の影は何の予備動作もなくジグザグに向かってくる。その大きさとは裏腹に物凄い俊敏な動きである。俺は腰の長剣を引き抜き、それと並行して氷の剣を生成する。生成したとほぼ同時に、俺の目の前に一体目の影が跳びかかってきた。ギリギリの状態で相手の両爪を受け止めたために膝を曲げて持ちこたえる。
『うわああああああああッ』
その刹那俺の全身に激痛が走った。思わず叫び声をあげてしまう。正直何が起こったかよくわからないほどであった。レイスは悠々ととたたずんでいる。その横には一体の黒い影。爪には真っ赤な血がべっとりとついていた。
きっと俺が受け止めた影の後ろに見事に隠れて、影もろとも俺を切り裂いたと見れる。必死の思いでその場に立ちあがるが傷が大きく、尚且つ深いためか意識が既に朦朧としている。その時俺は全く気付いていなかった。
『…ッ!』
全く見動きが出来ない。俺は魔法を唱えようと腕を上げようとしたが体が言う事を聞かない。足元を見るとレイスの影が恐ろしいほどに長く伸び、俺の足元の影にくっついている。
『お前何をした!!!』
しかし、レイスは一言も話さない。まるで機械仕掛けの人間ようだ。レイスから伝わってくるものは異様なほどの魔力しかなかった。何度動こうとしても結果は同じだった。そして脱力感が俺を襲う。魔力を吸い取られているのだ。大量出血と、魔力減少によりさらに追いやられた状態となってしまった。
『…ふざけんな。俺は、俺はこんなところで負けるわけには…いかねぇんだよ!!!』
俺の前髪と右腕に黒い炎が巻き起こり、それとは対照的に左腕には透明の氷が形成される。
『うおおおおおおおお!!!』
思い切り力を振り絞り腕を動かそうとする。徐々にだが俺の腕は思い通りに上にあがってきた。それを見たレイスは何らかの指示を出し、影を送りこんでくる。両手を高々と掲げ、影を切り裂こうと力を振り絞ったその時であった。
『グワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
影は勢い良く振り下ろすことが出来た両腕の餌食となる前に消し飛んだ。俺自身にもよくわからなかった。会場にいたもののほとんどが耳を押さえ、ひどいものは気絶している。
『…威圧…だと?』
明らかに俺にはそう聞こえた。レイスが喋ったのである。明らかにその声は驚きを隠せない様子であった。俺はレイスの影の拘束からは解放されたものの未だ状況が圧倒的に不利なことには変わりない。すぐさま反撃の準備をする。
『灼熱衝撃!!!』
レイスの周りに俺の黒炎が渦を巻くように出現する。そしてその炎は中心にいるレイスに飛んで行き、ぶつかった瞬間に炎が大の字に広がる。しかし炎が消えた後、レイスはその場にいなかった。そんなことわかっている。この竜の眼で二回もみればすぐにわかる事だ。レイスは影に潜り込んだ。そして、先ほどは俺の背後に出てきて攻撃したという事だ。出てくる場所は予測不能。だがこれでどうだ!
『追跡氷結!!!』
俺の周りにクルクルと回る大きな氷柱が出現する。これはその名の通り追跡する氷。俺の意識とは無関係に敵へと向かう。
レイスは俺の予測通り、背後に出現した。それとほぼ同時に氷柱が一斉に飛んでいく。そしてそれらは鈍い音をたててレイスを突き刺した。しかし、レイスからは血など一滴も飛び散らず、レイスの体はズズズと音を上げて灰のように、砂のように、風にさらさらと流れていった。
―――影!
俺の竜の眼で見抜く事が出来なかった。いや、ギリギリまで本体だったのだろうか?俺の目を欺くことなど出来ないはず…。あいつはどこへ消えた?
そして、俺の数メートル先にレイスは出現した。俺とは対照的に傷一つ付いていない。だが、負けない。絶対に負けられないんだ!
俺が動き出した瞬間、周りがとてもゆっくり動いて見えた。見えたのではなくゆっくりと動いているのだ。その中を俺はレイスめがけて突っ走る。これまでにない息苦しさを感じた。そして黒炎を纏った右拳を振りかぶり、レイスの漆黒の仮面へと右斜め上から地面へ向けて思い切り殴りつけた。殴ったその部分から仮面が驚くほどゆっくりとひびが走り始め、それと同時進行でレイスが大勢を崩し、地面にたたきつけられた。その瞬間この異様な感覚は無くなってしまった。
ゆらゆらと立ちあがったレイス。もうその顔には仮面はなく、本当の顔があらわになっていた。とても顔立ちが良く、鼻筋がしっかりと通っており目は少しながらつり目気味。それがきりっとした顔をなおも引き立たせている。色白な肌は俺が殴った部分だけ赤くなっていた。
『…もう顔見られちゃったらこんなものいらないわね』
レイスはそう言うと鬱陶しそうに黒いマントを払いのけ、束ねていた黒い髪をほどいた。服装は俺と同様和中心のもので、先ほどのマントとは対照的な白をベースとした動きやすい着物のような服装。肩と胸の部分は大きく開けている。そして、両手を合わせ魔法を唱え始めた。
『影拘束!』
先ほどと同様にレイスの影が恐ろしく俺に向かって伸び始め、俺を捕えようとする。だがもうその手には乗らない!ようするにあの影に触れないように戦えばいいのだ。おそらく、あの魔法を行っている間はレイスは動けないはず。俺は動こうとしたがそれは出来なかった。レイスの影に拘束されたわけではない。いつの間にか出現していた動く影に腕を掴まれている。
『影に気配なんかないわ』
レイスは全く無表情で語りかけてくる。そのうちにも影は伸び続け、ついに俺の体を捕えてしまった。そしてその影は先ほどとは違い、地面から這い上がり、俺を縛り上げるように伸びてきた。影がぐいぐいと俺を締め付け始め、やがて俺の体は宙へと浮いてしまった。
『ばいばい、ドラゴンちゃん』
動く影は自らの役目を終えたかのように地面に潜り込んでしまった。傷口が開き始め、血が流れ、魔力を吸い取り、さらに締め付けてくる。
『うわあああああああああああ!!!!!!』
くそ!もはや魔力がほとんど0だという事は体が叫んでいる。…負けるわけにはいかない。俺が最後の望みなんだ!だから、だから…。
『動くな!!!』
声が聞こえた。驚くほどに低い。その声は国長のいる所から聞こえた。皆がその方向に目をやる。そこには驚くべき光景が広がっていた。仮面を付けた一人の青年がぷかぷかと宙に浮いている。その腕にはゼランが掴まれていた。ゼランには白い手錠がされている。あれは確か、キリトに付けていた魔封じの手錠。
観客が喚き、今すぐ逃げようと立ち上がり叫んでいる。
『動くなといっただろう!!!皆殺しにするぞ!!!』
そう言うと爆発音が鳴り響き、近くにいた全ての兵士が殺られた。一瞬で全滅。レイスはそれを見てにやりと笑っている。そして空中の青年は大きな声で叫んだ。
『…これから、炎の国の長ゼランの死刑を実行する!!!』
皆さんどんな些細なことでもいいので感想など待ってます!
よろしくお願いいたします!!




