表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなざーわーるど  作者: トム助
存在の証明
29/38

忍び寄る黒い手

アーリアが精霊魔法を解禁し、驚きの戦いを見せてから数日がたっていた。その後、試合が幾度となく行われ、俺自身も勝利を収め、既に明日の自分の試合は準決勝であった。次の対戦相手は今会場で試合を行っているキリトかその相手の黒魔法を使う仮面、つまり第1関門でアーリアを襲ったあの仮面のヤツである。どちらが勝つか非常に気になる所であったが、アーリアが気絶してから何日たっても目を覚まさないので側にいてやることにした。


先ほど来た医師の話によると、極限までの魔力消費に重なって以心伝心している精霊、ラミエルが相当なダメージを受けているためによる疲労ということだった。


この話からアーリアは相当無理をして戦ったのだなという事がよくわかった。光の国へ行きたいという熱い気持ちが伝わってくる、そんな戦いだった。アーリアにも光の国へ行く理由がきちんとある。アーリアの両親を追いやった光の国を代表して、長に話を聞きたいという事だった。復讐をするわけではなく、ただただ真実を知りたい、その一心という事を以前アーリアは俺に話してくれた。


アーリアはまだ、その事件に対して疑いの念を持っているのだ。本当に自分の両親は悪者なのか。それが事実なら真摯に受け止める、アーリアは俺の目を見てそう話してくれた。


俺にはその気持ちが痛いほどわかる。俺も真実が知りたい。俺がなんのためにこちら側の世界に来たのか。俺はこの世界にいてはいけない存在なのか。その全ての答えを知るために戦ってきた。


アーリアは俺が座っている丸イスの横にあるベットですやすやと寝ている。


――――やはり、勝たなければならない。


自分のためだけではなく、今横で寝ている大切な…仲間のためにも、次の試合は勝たなければならない。たとえ相手がだれであろうとも。


アーリアの腕につながれている点滴の管がほんの少し、動いたように見えた。そして寝ていたアーリアの顔が曇り、とてつもなく大きい欠伸を一つした後、目をしばつかせ、あたりを見回している。


『…ラミエルは?』


まだ自分の状況をよく理解していないのか寝ぼけたような声で俺にこう訊いてきた。寝起きが悪くないという事はきっちりと寝た証拠である。


『ラミエルは休んでるよ。最後、お前の盾になって槍をくらってたからな』


『…ごめんね。私勝てなかった』


まだ横になったままのアーリアは悔しそうにしている。


『でも、負けなかった。それにスゴイ戦いだったよ。お前あんなに強いと思わなかった』


アーリアは俺の言葉をきくと「そうかな」と言いつつも照れながら俯いた。


『ありがと』


アーリアは天井を見つめたまま頬を赤らめて小声でこう言った。


『…あのね、私…スバルの事…』


そこまで聞いた時点で、いきなりこのような展開になった事について内心驚いている。心臓の鼓動の音がアーリアがしゃべるのを止めた事によって静まり返った病室に響き、アーリアの耳に届くのではないかと思うほどであった。そして、アーリアが次の言葉を紡ぐために、息を吸い込みその健康的な口が動き始めかけた瞬間、廊下からガタガタと音が聞こえてきた。思わず扉に目が行く。


実にタイミングが悪いものだった。しかし、今はそんな事に嘆いている暇ではない。この音は負傷者をここまで運ぶ時の音。そして、この音は今まで何度もきいた事があるがこれほど大きく早い音は初めてきいた。つまり、医師が相当焦って負傷者を運んでいる、負傷者がかなりの傷だという事だ。ここで言う負傷者はキリトか仮面のヤツ。今のところ、この車輪が廊下を滑るような音は一度しか聞こえてていないため、どちらかがボコボコにやられてしまったという事がわかる。


再びアーリアと顔を合わせると、先ほどまでの顔の火照りはなくなり、変わりに驚きの色がよぎっていた。


『行ってくる』


『私も行くよ!』


アーリアはベットから立ち上がろうとしたものの、俺がそれを右手で制した。


『お前はまだ起きたばっかりなんだから休んでろ』


アーリアはなおも起き上がろうとしたが、俺の目を見た後「わかった」と少し不満そうに呟くと再びベットに横になってくれた。それを見た俺はすぐさまアーリアのいる病室を飛び出し、そこからさらに奥へ数室行ったところの医師が数人集まっている部屋へ向かった。部屋へ入ろうとした時、その場にいた医師に止められてしまった。


『どうして入れないんですか?一体どっちがやられちゃったんですか?教えて下さい』


若干興奮気味だという事は自分でもわかった。しかし、相手はあの黒魔道士、きっと俺と戦った時も本気ではなかったはずである。キリトがやられていないとは言い切れない状態の試合だった。医師は険しい表情をするとしぶしぶと話してくれた。


『キリト様が、あの黒仮面の女にやられたんだよ』


『女!?』


仮面を付けていたのでどちらかわわからなかったがてっきり男だと思い込んでいた。そして、あのキリトがやられたという事実。


『ど、どんな感じですか?』


『キリト様はかなり危険な状態だ。数か所の骨折に意識不明、かろうじて呼吸はしているが…私たちは全力でキリト様を回復させようと尽くすが…何とも言えないといったところだ』


すると、その医師は自分もキリトの治療にかかると言って病室に入ってしまった。その時一瞬見えた病室内は、キリトと思われる者の周りに何人もの医師が囲むようにしているという状態であった。


黒魔法使いの仮面の女の名前は―――レイス


キリトを大怪我させるほどの実力の持ち主。どんな魔法を使ったかは教えてもらえなかった。わかったのはこれだけだと仕方なくアーリアのもとへ戻った俺は事後報告をした。


『大丈夫?次当たるんでしょ』


さすがにこの驚愕の事実を知ったアーリアも不安そうに訊いてくる。


『…うん。大丈夫』


こうは言ったものの強気な返答とはならなかった。試合は明日。不安も募る中、水面下で黒魔道士が動いている事は誰も知らなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


数時間前、ここでキリトが意識不明の重体となり、大騒ぎになった。しかし、今、この会場は静まり返り、夜の静寂が居座っていた。普段は誰もいない会場に二人の男女がいた。二人とも漆黒の仮面を付けている。


『今日のはちょいとやりすぎじゃないか?』


男の方が話している。身長と体格からして青年といったところであるが、魔法で声がかえられており、見かけとは反している以上に低い声であった。


『あれぐらいがちょうどいい。明日の余興という所だ』


仮面の女、つまりレイスがそれに返答する。普段は全く話さない彼女だが、この時間帯は敵などおらず、魔法で気配を消しているため、会話は成立している。


『それより、コードD。お前が探している奴はあいつであっているのか?』


名前を呼ばれた青年コードDは静かにうなずいた。


『ドンピシャだ』


仮面で表情は見えないがおそらく不敵な笑みを浮かべているであろう。


『…ほう。だが、今回の目的はあいつではない。勝手な行動は許さんぞ』


『わかっている。コードS、いやレイスよ』


その直後二人の姿は闇に溶け込み、会場は真の沈黙に包まれた。この会話を聞いていたのは空に浮かぶ満月と無数の星だけであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ