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あなざーわーるど  作者: トム助
存在の証明
28/38

母を乗り越えて

口を添えた横笛の穴にそっと息を吹き込むとそれと同時に透き通るようなキレイな音色が会場中に響き渡った。そして、私の立っている少し前に私の髪の色と同じ金色の魔法陣が出現する。


パトリシア姉さんはそんな事は気にも留めずに指に挟めた刃を勢い良く放ってくる。その刃の刃先全てが私の方に向いていて、私めがけて一直線に飛んで来ていた。


しかし、その刃が私を捕らえる事はなかった。


たくさんの刃は私の前の魔法陣から出現した「何か」によって虚しくもはじきとばされ、何か紐のような物で巻き取られたかのようにパトリシア姉さんの指の間に戻って行った。


『出てきていきなり刃の雨ってどういう事ですか?アーリアさん!』


魔法陣から出てきた「何か」はボヤき始める。もうこいつとは何年もの付き合いだから意外と親しい。「何か」とはこの横笛に憑いている天使の精霊「ラミエル」のこと。天使と言ってもその容姿は愛らしくて小さいキュ-ピットのような天使じゃなくて、甲冑を付けている昔のギリシャの成人男性のような感じで、言っちゃうと…彫りの深いおっさんという感じである。


すると、パトリシア姉さんは長い緑色の髪を鬱陶しいというかのように結び、こう言った。


『懐かしいわねぇ。お久しぶり。元気にしてた?』


『…おぉ!これは、これは。その美しい声の主はきき覚えがあると思いまして、振り向けば懐かしき絶世の美女、パトリシアさんじゃありませんか!やはり何年たってもお美しくて…』


『あぁ!!もう、うっさいわよ!!!ラミエル!今、真剣勝負中!!!わかった?』 


私の精霊ラミエルは元々お母さんの精霊でお母さんが死んじゃった時に私の精霊となってくれた。顔はおっさんなんだけど体はそこらのおっさんと違ってムキムキの部類に入るから何もしてなければ「ワイルドでかっこいい❤」って人はいると思うけど、何てったって無類の女好きだからめんどくさい。


『…私が予想するにこれは何かの大会でしょうかね?それで真剣勝負と…わかりました!!!私、い俊のアーリアさんのためならたとえ相手がマリア様の誰もが振り向くご友人でも…』


『もういいからっ!!!早く切り替えて!!!』


ラミエルは勘は良くて頼りになるんだけど…ひとたび放っておくとこれだから…。


『ふふふ、相変わらずね。あなた達を見てると昔のマリアを思い出すわ』


『もう、ラミエル、行くよ!!!』


私がこう叫ぶとラミエルもそれに「はい!」と応えて、純白の翼を広げ、空中に浮かぶ。私はそれを見計らって横笛を吹き始める。


『相手がラミエルとアーリアちゃんでも容赦しないわよ!!!』


パトリシア姉さんは両手に挟んだ複数の刃をさっきよりも勢いを付けてはなってくる。その刃先は全てラミエルに向けられている。


私の横笛の音色が響き渡るのと同時にラミエルの手元にラミエルの身長ほどの大きな弓が優しい光と共に現れ、ラミエルはすぐさま弓を引く。


純白の矢(イノセンスアローズ)!!』


ラミエルが放った複数の矢は一本一本が純白に光り輝き矢が通過した後には光の軌跡が生じている。しかし、矢の標的だった刃はまるで水中を泳ぐ魚の群れのように二手に分かれ、上空から降り注ぐ矢をかわした。


『何!?』


その光景を見て空中のラミエルは驚愕の声を上げている。昔私のお母さん、マリアの精霊としてパトリシア姉さんと戦った時にはパトリシア姉さんは刃を操ってはいなかったのだろうか。


『私はこの数年間なんにもやって来てない訳じゃないのよ!』


二手に分かれた刃の群れの一つは私の方へ、もう一つはラミエルへ向かっている。最初にラミエルに全部刃先を向けていたのは私を狙うのをばれないようにするためってことだったらしい。


私は咄嗟に飛んできた刃をかわそうとしたけれど、完全にかわしきれる事なんて不可能で、刃が私の体を貫通する事はなかったけれど、主に体の左側を刃の刃先が捕らえ、その部分に痛みが走る。私同様、空中のラミエルも刃の餌食になったのか、ラミエルのうめき声が聞こえた。


『大丈夫ですか?アーリアさん』


私の事を心配してくれて、傷を負っているのにもかかわらず、ラミエルはすぐさま私のもとへ来てくれた。精霊は例外を除いて死ぬ事はないが、痛みと言うものは勿論感じる。精霊魔道士の魔力切れ、もしくは精霊への一定ダメージの蓄積によって精霊は消滅し、しばらく召喚できなくなってしまう。


『大丈夫だけど…あんた私よりひどいじゃない』


見るからに私よりも出血量が激しい。たぶんパトリシア姉さんは私より先にラミエルを倒して私に降参でもさせようとしているのだろうか。


―――そんな事、させてたまるか、私はそう言い聞かせて傷の痛みに耐えつつ立ち上がった。


そうこうしているうちに、パトリシア姉さんの周りにはさっきの何倍とも言える数の刃がパトリシア姉さんを中心として反円状に広がり、規則正しく動いている。それを見て、私は即座に笛を吹く。


『行くわよ、千本の刃(サウザンド・ナイフズ)!!!』


『私も、千本の矢(サウザンド・アローズ)!!!』


響き渡る音色とともにラミエルの大きな弓やは消え、変わりに大きさはさっきの弓矢よりかは小さいものだけど、両手にクロスボウが出現し、それをラミエルが連射する。


会場の中心で武器と武器とが激しく激突している。しかし、パトリシア姉さんは刃を操っているために中心で激突している刃とは別の複数の刃が今度は私めがけて違うルートで飛んでくる。ラミエルは自分の事で精一杯でそれを防ぐことなどできなかった。


『きゃっ!!』


右足に激痛が走る。見るとふくらはぎに刃が突き刺さっていて、そこからドクドクと血が出てきていた。あえて足を狙ってきたんだ。そして、私を痛めつけるのだろうか。そして、双方の激しい打ち合いも止まった。どちらともかなり息が上がっているように見える。


『…やはり、操る武器が多ければ多いほど消費する魔力も多いようですね、パトリシアさん』


『…そっちこそ、相当疲れてきてるんじゃないの?…それに、アーリアちゃん足やられちゃってるわよ』


私の傷は足だけではないけれどやっぱり一番ひどいのは右足だ。今度は立ちあがることさえ不可能な気がした。


『…アーリアさん、すいません。…立ちあがる事は出来ますでしょうか?』


そうだ。私なんかよりラミエルの方がずっと痛いし辛いのに私の事を心配してくれている。まだ立って戦おうとしている。精霊魔道士の私がこんなんじゃ…お母さんを乗り越えることなんかできない。スバルの手助けにもならない。忘れる事のないお母さんとの日々…。


「ねぇ、お母さん、精霊さんって強いの?」


私はいつもお母さんにこのような質問をしていたような気がする。幼かった私でも魔法が強ければいいというのは何となくだけど知っていた。


「そうよ。精霊さんはとーっても強いのよ。でもね、精霊さんがもっと強くなれる方法があるの」


炎の国へ移住してきた後の家の庭でお母さんは優しい声で言った。


「えー、なになに、教えて、お母さん」


幼い私に服のそでを引っ張られてお母さんはなおも優しくこう言った。


「あのね、精霊さんと心が通じ合えればもっと強くなれるのよ」


「つうじあう???」


「ふふ、アーリアにはまだわかんないわね」


「えー、なになに、わかんなーい」


―――心が通じ合う、か。


『…アーリアさん、思い出したでしょうか、お母様の言葉を』


『え、なんで、あんた…』


『今、少しずつですが通じ合ってきています。…立てますか?』


心が通じ合えば強くなれる。これにかけるしかない。そのためには何としてでも立たなくては。私は痛みに耐えつつも必死にその場に立ちあがった。


『お母さまを乗り越えたい、そして大切な仲間のために勝ち上がりたいという気持ち、ビンビン伝わってきますよ!』


「私もあなたに応えたいんです!アーリアさん、お母様に最後に教えていただいたあの曲をお願いします!!!」


口が動いていないはずのラミエルの声がどこからともなく聞こえてきた。これもきっと、私とラミエルの心が通じ合っているから。あの曲はとても難しくて魔力の消費がすごいけど今の私たちならいける!!!


そして、私は再び笛に口を添えて音色を奏でる。その音を聞いてパトリシア姉さんが大きな目を一層見開いたのが見えた。その表情には驚きの色が窺える。


『立ち上がったと思えば、まさか「狂想曲(カプリッチオ)」とはねぇ。驚いたわよ。…でも、あんた達にはここで散ってもらうわ』


パトリシア姉さんがそう言うとパトリシア姉さんの両腕が巨大な鉄の槍へと変化した。その槍はどんな分厚い壁でも突き破ってしまいそうだった。


『私の魔法は体の状態変化魔法。その状態変化は「武器化」よ。あなたたちに勝ち目はないわ!!!』


「ラミエル、援護お願い!」


私は狂想曲(カプリッチオ)を弾きながら心の中でラミエルに話しかけた。


「わかっています」


やはり伝わったみたいだ。そして、ラミエルは両手のクロスボウをガチャンとならすと、向かってくるパトリシア姉さんに向けて再び千本の矢(サウザンド・アローズ)を放った。しかし、それを見たパトリア姉さんは自らの体の前で槍と化した両腕をクロスさせ、向かってくるスピードこそ遅くなったものの、見事に矢を防いでいる。


『…何!?』


ある程度ラミエルとの距離が近づいたところでパトリシア姉さんはスピードを一気に上げてラミエルのクロスボウを両方破壊した後、ラミエルを振り切って私の方に向かってくる。これを私が演奏に集中するため一瞬目を閉じた間に起きた事だとわかった。


狂想曲(カプリッチオ)はすでに終盤だけど、パトリシア姉さんのスピードだと間に合わない。


「弾き続けて下さいっ!!!」


演奏を止めようとした時にラミエルの大きな叫びが聞こえた。


「私を信じて、演奏に集中して下さい!!!」


これから何が起こるか、そんな事はもう考えずにただひたすら目を瞑って必死に指を動かし続けた。きっと色んな音がなっているんだと思うけどこの一瞬は私の笛の音しか聞こえなかった。


そして最後の一音。


――――ズカッ


私の音色にほとんど重なるようにして、何かが突き刺さる音が聞こえた。最初は私自身にパトリシア姉さんの槍がささっているのかと思った。痛みは感じられなかったが一瞬の事過ぎて痛みすら感じていないものだと思った。


だけど、目を開けてみるとそこには腹部に二つの槍が突き刺さって大量に出血しているラミエルがいた。槍の先はあと数センチという所でかろうじて止まっている。私に槍が刺さる代わりにラミエルに槍がささってしまった。


あまりの光景に絶句していたけれど、状況を飲みこんだ上で、大粒の涙がこぼれ落ちてきた。


狂想曲(カプリッチオ)は精霊との連携技。ラミエル、あなたはもう体力の限界ね。これ以上戦えない。だからせっかくの狂想曲(カプリッチオ)も発動されない。…あなたたちの負けよ』


『違うわ!』


私はパトリシア姉さんに向かって叫んだ。負けてなんかいない。理由はしっかりとある。さっきラミエルが私のココロに話しかけてきたときとても小さな声でこう付けくわえてくれた。


「…狂想曲(カプリッチオ)は精霊魔法の真の連携技です」


今の私にはその言葉の意味がわかる。そして、私たちがまだ負けていない事も。


『…!?』


私の持っていたお母さんの横笛が光り輝き、弱い風がふき始め、私やパトリシア姉さんの髪はたなびき始めた。パトリシア姉さんはさっきまでは勝利の微笑を浮かべていたけれど、この光を見るや、表情が曇った。


『…精霊の光スピリッツ・スペクトル…』


虫の息のラミエルが呟いた。そして、その光が最高潮に達したとき、笛は光の泡となり私の体へ、まるでここが帰るべき場所とでも言うように入って行った。それと同時にラミエルの体も笛と同じように光り始めた。そして、ラミエルの身体が消えると今まで以上にまぶしい光が私を包み込み、会場中に迸った。


「…精霊化「天使・騎士(エンジェル・ナイト)」です」


静かなラミエルの声が耳にこだまする。ここはどこだろう。


「…目を開けて下さい。アーリアさんと私がこの状態を保てる時間はわずかしかありません。一発で決めて下さい」


ラミエルの指示通りに目を開けると再び会場だった。観客は興奮して立ちあがっている者が多数だった。自分の姿を見ると、天使の羽根で出来た甲冑付きのドレスのようなものを来ていて髪型もいつの間にか二つ縛りで、頭には羽つきの帽子のようなものを付けていて、片手には白く輝く長剣。何より驚いたのは背中に巨大な天使の羽が生えている事だった。


『…そう言うことだったのね。だけど、私もこれ以上の長期線は望まないわ!』


パトリシア姉さんはそう言うと、、みるみるうちに服が変わり、刃の鎧を着た屈強な女戦士へと姿を変えた。手には持ち手の部分まで刃が迫り出している長剣がある。


刃の鎧(ブレード・アーマー)。その名の通り刃で出来ているから動けば動くほどに傷つくけど、攻撃力、防御力、速度は見違えるほどに上がる鎧。そして、もろ刃の剣。こちらも宿っている魔力によって攻撃力は底知れないけど使用者にもダメージがたまる魔剣。…これで決着をつけるわ!』


「…アーリアさん、あなたの持っている剣は私が修行時に大天使ミカエル様からもらった「聖剣セイクレッド・ソード」です。アーリアさんなら絶対大丈夫です。ともに勝ちをもぎ取りましょう!!!」


『言われなくてもわかってるわよ!!!』


もう既に私の胸の中に不安などはなかった。双方が剣を手に、身構える。会場も同時に静まりかえる。


『うあぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!!!』


もうどちらの叫び声か全く分からなくなっていた。そして、剣と剣とがぶつかり合う感触が伝わる。しかし、金属音が響き渡るまもなく、剣がぶつかった所からとてつもない魔力が発せられ、会場中心を包み込んだ。











気絶はしていなかった。地面に横たわっている。その変わり、ラミエルの声は聞こえない。そして、服装を含め笛以外のすべてが元通りになっていた。翼も消えていた。


立つ事は出来なかった。きっと魔力が完全にゼロなんだと思う。しかし、審判の次の一声で安堵してしまった。


『両者、戦闘不能。よって引分け!』


今回の話で書きそびれたてしまった事については活動報告にて詳しく書こうと思います。

すいません。


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よろしくお願いします!

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