魔法大辞典
ものすごい速さでめくられていくページが辞典の半分ほど行ったところでふと止まった。
『この時点から出てくる魔法の数々はもう文房具には関係ないよ。…これは私の元仲間の辞書さ。』
『…元?』
『あぁ…。あいつは私を庇って死んでしまった。そしてこの辞典を私が引き継いだんだ…。』
『死んだって、仲間は仲間だろ!!!』
『…あいつもお前のように仲間仲間ってうるさい男だったよ…。この辞典は使うつもりじゃなかったんだけど…。』
『うるせぇ!!あんた最初から本気出せよ!!!』
そして、メトルの周りに先ほどとは違う模様の赤い魔法陣が現れた。
『業火フレイムダンス!!!』
すると、魔法陣の淵から真っ赤な炎がまるで山が噴火するかのように飛び出し、上空に行くにつれねじれて行く。そしてある一定の高さまで炎が上がると、そこから向きを変え炎の柱はうねりながら、俺の方へ飛んできた。
とりあえずかわさなければ…。その場から後ろに離れ、炎の柱は俺のいた場所へぶつかった。しかし、炎の柱はぶつかったあとそのままうねりながら回転し、地面を削って地中へ入ってしまった。きっと、メトルが炎を操っているのだろう。
しかし、メトルを見ると、再びページをはためかせ次の強力魔法を唱えようとしている。
『…この魔法は自分の意思で敵と認識したものを追い続ける追尾の炎さ』
こちらの目線に気がついたメトルは余裕の笑みを浮かべながらいった。そうこうしているうちに、地面が揺らぎ始めてきた。
間一髪で炎柱をかわせたが追尾なのでかわしてもかわしても追いかけてきてしまう。いくら竜魔法だからと言っても炎には分が悪い。ここは黒炎だ。
上に向かっていた炎は頭をこちらに向けたかと思うと、こちらへ向かって飛んでくる。
『灼熱速激砲―黒点―!!!』
かつてこの炎がまだ蒼かった頃、ハクとの対決でこの魔法でハクの絶対零度とぶつかり合ったものだ。それの黒魔法版。なかなか強力な魔法の一つだ。
かまえた右腕からぐるぐると黒炎が出現し、拳で球体となり、高速で炎柱まで飛んで行った。
うなりを上げて飛んでいった黒点は見事生きているかのような炎柱の頭と衝突し、炎柱を引き裂きながら、勢いそのままメトルのもとへ向かっていった。
『神風―カミカゼ―!!!』
俺が炎柱に苦戦している間に唱えたであろう風の呪文が空中に出てきた水色の魔法陣からカッターとなって飛んでくる。今度は両腕を氷の爪で武装し風のカッターに対抗する。
次から次へと…。
ガリガリと俺の腕の氷が削られるも、跳んでくる風の刃を壊しながら徐々にメトルへの距離を縮めて行く。もう少し…もう少しでメトルへ届く…。…今だ!!!
『御神渡り!!!』
空中にいる俺は手をクロスさせその手を勢い良く放つ。すると指先から凍てつく氷が次々と出現し神さまが渡るとされる御神渡りが形成される。御神渡りは物凄い速さで空気を凍らせバキバキと音をたて、メトルへと向かっていく。
『破滅の冬!!!』
いつの間にか出来ていたメトルの足元に形成された青色の魔法陣が光り輝き、一瞬にして周りの空気が凍てつき始め、その白銀の雪はメトルを包み込み、ある一点から発射された。白銀の雪は御神渡りとぶつかるとはじけ飛び、空中から御神渡りを放っていた俺の方までピリピリと突き刺す寒さが伝わってくる。
『くぅう~!イイねぇ。…でも破滅の冬はまだ終わっちゃいないよ』
メトルの言うとおり、まだメトルの周りには白銀の雪が漂い続けている。
『氷柱!!!』
メトルのその一言で漂っていた雪は無数の氷柱に変わり俺めがけて飛んでくる。いつかの戦いと似ている。こういう時は一気に氷を溶かすこの魔法で…。
『フレイムウォール!』
ハクと戦った時とほとんど同じである。違う所は俺の炎が黒いことぐらいだ。しかし、この攻撃の後の連続攻撃にはもう備えてある。俺の黒い炎の壁の前に氷柱は水蒸気と化してしまった。
そして、俺がきっと来るであろうメトルの攻撃に備えて動きだそうとした時、全身に激痛が走った。何かとがったもの…氷柱が俺の体のあらゆる所に突き刺さり、派手に血が飛び散った。痛みが走ったその瞬間はわからなかったが、痛みに地面に手を突くと俺が氷柱の餌食になった理由がすぐにわかった。
『…雪…』
『やっと気付いたか、坊主』
メトルは右手を前に出して来いと俺の事を挑発してきている。
『…てめェ!!!』
『悪魔の黒炎!!!』
何とか立ち上がり、あの白銀の雪に対抗しやすい黒炎を放つ。大きくうならせた右腕から、黒い炎が飛び出し、踊るようにメトルめがけて飛んで行った。白銀の雪は悪魔の業火の前では虚しくも水蒸気にならざるを得ない。しかし、メトルはそんな状況下でも余裕の表情であった。そして、こう呟く。
『…そろそろやるかなぁ……鋼の壁!!!』
メトルの目の前に地面から鋼鉄の大きくて分厚い壁が出現し、飛んで行った踊る黒炎はあっけなく崩れ去ってしまった。
『最硬の壁さ…。どんな魔法でも防ぐ事が可能。…これから私は融合魔法を唱える準備をするから…それまでにこの壁を壊さないと私には勝てないね…。どうする、坊主?』
壁はぐにゃりと丸くなったかと思うとメトルを包み込んでしまった。
どんな魔法でも防ぐことのできる魔法なんてあるはずがない。いくら固くったって、壊す事は可能だ。弱点を、あの壁の弱点を見つけなければならない。
『咆哮!!』
先ほどのよりうんと大きなブレスを壁にぶつけたものの、壁には傷一つ付かず、何回も他の攻撃を織り交ぜながら壁を壊そうと試みるが、そろそろ、魔力も大量消費し、体力的にもきつくなってしまった。
やはり、ものすごい攻撃力の高い技で壁ごとメトルをふっ飛ばさなければ勝てないということか…。
残りの魔力をほとんど使う事になるけど…あれをやるしかないらしい。竜の魔力を拘束している自分自身の魔力も弱まっているはずだ。
俺は最後の一撃のために全神経を両腕に集中させる。俺の周りに冷気が立ちこめ、それは俺の周りを包み込んでいった。
行ける!!!
俺は両手を今まで以上に鋭くとがらせた、獣ではなく竜の爪で鋼鉄の壁に飛びかかる。
『氷竜 七連舞!!!』
その名の通り、竜の鈎爪のごとく強靱な氷の爪に冷気を纏って七回攻撃する連続技。一発目、ほんのわずかながら壁がへこむ。二発、三発と繰り返すごとに壁はどんどんへこみ続ける。
『おぉぉぉおおおお!!!』
四発目の後に回転して五発目につなげる。壁は最初の状態から比べてもかなりへこみ、もう少しで壊れそうだ。
六発目。壁に稲妻のような亀裂が入った。
『これでもくらえぇぇぇぇええええ!!!』
最後の七発目は両手を合わせ鋼鉄の壁めがけて上から叩きつける。俺の竜の爪がぶつかった瞬間、壁は木端微塵となり、そこを中心に衝撃波が広がり、メトルがいる地面はクレーターのように抉れてしまった。
メトル自身はもろに七連舞をくらったため辞典は消え、気絶してしまっていた。
『…勝者、スバル!!!』
審判のその言葉と同時に、観客が一斉に立ち上がってわき始めた。とても嬉しかったがこの魔力がほとんどない状況なので、気を抜けば意識が飛びそうだ。それに、いつ竜の魔力に乗っ取られてもおかしくない。
選手待機室でアーリアがとびっきりの笑顔を俺に振りまいて、手を振っている。その光景を見た瞬間、思わず安堵してしまい、俺はその場に倒れてしまった。
スバル、見事勝利!!!
次回、アーリアの初本格バトルシーン突入!!!




