第一関門「サバイバルゲーム」 前編
結局あの後、俺達は暖まるために悩みに悩んで火をつけてしまった。「スバルは強いんだし、襲われても大丈夫じゃない?」というアーリアの一言で火をつけることになったのだ。(俺は最後まで反対したがアーリアが着火した)おかげで寝ることもままならず、俺はうたた寝でガマンしているのに言いだしたアーリアはぐっすりと寝てしまっている。俺だって…眠いのに…。
朝日が昇って来た。しかし、この森は暗かった。木がものすごい高さまで伸びていて、太陽の光が地上まで届かなくなっている。それに、木から魔力を感じる。昨日の夜、気を張って森を観察していたが、木が動きだすというこちら側の世界で起こりそうな出来事は起きなかったが。
『おーい、起きろ、アーリア!俺、鍵持ってねんだから探すぞぉ!』
耳元で大きな声で言うのだが、まだすやすやと寝息をたてて眠っている。…ハルだったらたたき起こすんだろうが俺はしない。たぶん。…俺はもっとひどい事をして起こす。
『アーリアさーん、朝ですよ―!!!』
『…ぅん…。まだ…眠い…』
ちょっと起きた!今がチャーンスである。俺はアーリアへの極力の配慮をしてその場から少し離れた。
『…おりゃ!!』
俺は足元の地面に黒炎の拳で殴りつける。クロウとの修行過程で、蒼い炎が黒へと変わったのだ。その時はやはり、俺は黒魔法を使えるのかと思った。
ドカーンっ!!!
軽く地面を殴りつけただけだが、その場所は半径三メートルほどのクレーターが作られ、轟音が鳴り響く。
アーリアは「きゃっ!!!…何すんのよ、スバル!…てかすごいわね。」とか言ってくれるものだと思っていたが、その反応は予想だにしないものだった。
『…うっさいわねー。…これやったのスバル?』
………寝起き悪っ!!!こんなんじゃ、せっかくの元気な美少女キャラが崩れ落ちちゃうよ。そう思ったのだが、どうやら今は自分の身の安全の事を考えた方がイイらしい。
『…』
アーリアは起き上がり、俺の事を見つけるなり、俺の襟をつかみ、動きを封じてきた。昨日ポカポカ殴ってきた時とは比べ物にならないくらいの力である。
『…ご、ごめんなさい。ごめんなさい。…アーリアがこんなに寝起き悪いなんて思わなかったから…』
『寝起き悪いだってぇ?』
え!?嘘だろ!?もしかして、自分が寝起き悪いことを認めたくないのか、こいつ。そして、アーリアは右腕を振り上げ、ものすごいスピードで俺の顔面を殴りとばした。
痛い!!!
顔に激痛が走り、身体がふわっとしたかと思うと、木にぶつかったのか、体中に痛みが走りぬける。
『…はぁ~。スッキリしたぁ!おはよ、スバル。あれなんか暗いね、朝なのに』
…もしかして、もしかして、こいつ…。俺を殴った時とは全く違う人格になったみたいだぞ、今の反応は!昨日まであんた、俺の胸の中で泣いてたか弱い美少女じゃなかったのかい!
勿論こんな事は言えない。
朝っぱらから殴りとばされ、体中が痛いが、このまま放っておくとまたアーリアが寝てしまい、悪魔が出現しかねないので、それを防ぐ手段に走る。
『あ、アーリア。ここは木がでっかいからさ、太陽の光が届かないんだ。一応朝だぜ』
『なーんだ、まだ夜ならもうひと眠りしようと思ってたのに。でも、今サバイバルゲーム中だもんね。朝ごはん取りにいこ!』
アーリアは「ふわぁぁぁ」と大きなあくびを一つすると、支度を始めた。
やっと起きたと安堵していると、アーリアが「あ!」と声を上げ、動きを止めると、俺の方は向かず頬を赤らめてこう言ったのだ。
『…っとその前に着がえるから…あっち行ってよ』
『はいよ!』
『見ないでね!!!』
『お前の着替えてるとこなんて、誰も見たがんねーよ』
『いいから早く行け!!』
…なぜ、頬を赤らめて言ったのだろうか。アーリアが見えないところまで着くとふと思った。別に「着替えるから」って普通に言える言葉だよな?恥ずかしがることもないし…。俺そんなに変態じゃないし…。
『きゃぁぁぁぁああああッ!!!!!!!!』
!!!
アーリアだ!悲鳴が起きてすぐに走り出す。先ほどの場所へ行くと、アーリアはビクビクしながら震えていた。(アーリアは着替え終わっています。)指をさして「そこ、そこ」と言っている。
指をさしている所から、不意に何かが飛び出してくる。俺はとっさに腰の剣を抜き、それを受け止める。
男だった。俺達より少し年上ぐらいの男で、剣の腕前はそこそこと見える。
『お嬢ちゃんに彼氏がいたなんてねぇ』
『俺は彼氏じゃねぇけど、お前みたいな変態は、俺がぶっ飛ばしてやる!』
そして俺は相手の剣を押し、体勢を崩させた。やられるのはえーな、と思いつつ斬りつける。しかし、俺の剣が男の腹に当たった時になった音に耳を疑った。
ガンッ!!!
俺の剣は男の腹に傷をつけることなく、むなしくもガンという鈍い音を上げたのであった。…部分硬化魔法か。だがこの手の魔法の弱点はだいたい分かっている。
『次は俺の反撃だ!!』
男は剣をしまい、部分硬化したであろう右手で殴りかかってくる。何て単調な…。勿論楽にかわす。しかし、その右手はおそらくおとりであったのだろう、右足で俺の顔を蹴りあげた。
クリーンヒット!
男の笑みとアーリアの「スバルっ!!!」という声が聞こえた。凡人が今のをくらっていると顔面崩壊だが、俺は違う。痛い顎を押さえつつも、剣に黒炎を纏わせ男の事を斬りつけた。
男の顔には先ほどの笑みはなく、痛みと悔しさに顔を歪め、その場に熱さと痛みに苦しみながら倒れた。
部分硬化魔法の弱点は痛み以外の刺激を与えるだけである。強化した部分硬化魔法ではない限り、この方法で、ダメージを与える事が出来る。
そして、男は立ちあがったと思うと、憎しみを抑えながら、その場から消え去るように逃げて行った。
『ス、スバル…。い、今のって…もしかして…』
変態男をやっつけた俺の事を誉め讃えてくれると思ったアーリアが恐怖と驚きを隠しきれていない様子で俺に言った。そして、アーリアは俯いてしまった。
「…どうした?ケガでもしたか」と声をかけ、近づくとアーリアは顔を真っ赤にして目には涙を浮かべ、こちらを睨み、次の瞬間思ってもいなかった行動をした。
ぱんっ!!!
乾いた音が森に響く。見事に俺の頬にアーリアの平手打ちが飛んできた。何故だ?何か悪い事をしただろうか。
『…あんた、黒魔導士だったの!?……ハルジオンの街にいたって事も嘘なんでしょ!?』
そういうことか…。すっかり忘れていた。アーリアが闇の国に大きな恨みを持っている。だから…。
『…違う!違うんだ!!!俺は嘘なんか…』
『あんたの声なんか聞きたくない!!!消え失せて!!!』
『アーリア、お願いだ、きいてくれ!』
『…もう一度だけ言うわ。私の目の前からいなくなって。さもないと、私、あんたを殺してしまいそうだわ』
アーリアは腰の短剣に手をかけながらそう言った。ダメか…。俺は言われた通り、アーリアのもとから離れることにした。
森は俺の事を嘲笑うかのように、相変わらず暗いままだった。




