第一関門
只今の時刻、朝六時。…眠い。もっとあのふかふかのベットで寝ていたかった。
この迷いの森に集まった人数ざっと百人。今日初めて魔法使って対戦しますっていう身なりのヤツもいれば百戦錬磨のムキムキのヤツとかもいる。か弱い少女みたいな子もいれば、目だし帽の変態みたいのもいる。
色んなのがいるなぁと思った。国外からもたくさん集まってくるんだからこれぐらい個性的なヤツもいるのか。そして、百人が集まっている目の前の台のような所につかつかと音をたてて一人の女が登ってきた。役人の服装をしている。
『はーい、ちゅうもーく!私が第一関門監督のメトルだよ!…そこ、私の話、きいてる?…んじゃあ私の名前言ってごらん。…あ?メートル?私は長さ測るのは好きだけどよぉ、メートルって名前じゃねぇよ!!!』
すると第一関門の監督であるメトルは一瞬で手中に長くて大きい定規を出現させ、その平らな面で、名前を間違った大柄な男をペチャンコにしてしまった。
『話聞いてないとこ-ゆーことになるから、注意してね。じゃあ、ルール説明。簡単に言うと5日間サバイバルゲームだよ。ここに来る前に運の良い十五人に鍵を渡しといてるから、それを奪い合ってね~。五日後に鍵を持って森から出られたら第1関門突破つーこと。わかった?』
この森は迷いの森って言うほどだからかなり出るのが難しい森なんだろうな。しかも俺は鍵を貰ってないから…出会った人二十人中三人鍵を持っているかいないかの低確率…。かなり分が悪いな。
『あ、ここはまだ森の中じゃないから攻撃したら反則だからね!森に入ってからスタートだからね!はい、じゃあ、始めっ!!!』
この始め方だと鍵を貰って、自分の実力に自信がないヤツは森にすぐ入れないんじゃないか…。てか今もう始まっちゃった!
俺の周りにいたヤツほとんどが迷いの森へ散る。ヤバい!これって俺が鍵を持っていて怖いから森に入れなかった人みたいじゃん。それに、狙われやすくなった。俺鍵持ってないのに…。
周りも見回すと俺と同じ状況か、もしくは本当に鍵を持っていて自信がないヤツ…十五人ほど!!!何故に偶然にも十五人ぐらいなんだ…。そして、もっと驚く事があった。その中にあの金髪の美少女…アーリアがいたのだ!おどおどしている所から鍵を持っていると見える。
まず五百人の中で俺と一緒の迷いの森だった事もすごいし、あいつが鍵を持っている事はもっとすごい。
そう思っていると、アーリアの方も不安からかあたりを見回し始めた。そして目がバッチリ合う…。アーリアは俺と目が合うなりにっこりと笑い、俺の方に向かってこようとする。
アーリアの事は受け入れてあげたいが、俺と一緒にいると敵に狙われてしまう。そのため、俺はアーリアを避けるように(そんなつもりはなかったが)その場を離れた。アーリアの悲しそうな顔が頭に浮かぶ。
しばらく木の枝、木の枝といってもものすごく太いヤツで足場にできるくらいのものを足場に移動しながら後悔した。…よくよく考えてみるとアーリアもきっと鍵を持っているのだから、その場にいた俺と一緒に行っても狙われる確率はほとんど変わらず、一人にするより俺がいてあげた方が良かったのではないかと。
何度も言っているが俺は彼女に惚れたわけではない。恋愛的に好きでもない。でも…なぜか放っておけない感じがするのだ。考えれば考える程に後悔の念が積み重なり、それは俺自身の溜息となる。
そんな後悔をどこかに飛ばしてしまうような、大きな声が聞こえた。
『何逃げてんのよ!!!…待てー、スバルっ!!!』
バカかと思った。この声は確実にアーリアである。こんな森の中でも大きな声を出されたら誰かに感づかれるかもしれないから、俺にとってもアーリアにとってもよろしくない事なので言われたとおりに止まる。
止まった後すぐに俺の横に息が上がっているアーリアが来て俺の右肩やら右腕などをポカポカと叩いてくる。
『…も、もう。ホントひどいわね…。私と目があった瞬間、逃げたでしょ!おまけにあんた速いから…いきなり疲れちゃったじゃない…』
息も絶え絶えに必死に俺に怒っているが、疲れのために何にも伝わってこない。おまけにポカポカと叩いてくる拳にも力がない。
『はいはい、ごめんなさい。…アーリア、お前鍵持ってるだろ?』
適当に謝って、本題を訊いてみる。突然の問いにあたふたしながらアーリアは答えた。
『え!?…も、持ってないわよ』
…図星。
『俺、お前の鍵とったりしないから…持ってんだろ?』
『…持ってます』
『じゃあ…俺と一緒に行くか?』
この言葉を言うのに思っていた以上の勇気が必要であった。心臓がいつもより少し早く動いている。
『…え?…いいの?』
さっき逃げたヤツが手のひら返して、一緒に行かないかと言っているのだから驚くのも無理はない。アーリアの返答には驚きと喜びが混じっていた。
俺はアーリアの方を見る事が出来ず、ただ頷いた。
『イェーイ!!!やった、やった~!!!』
アーリアは子どものようにと飛び跳ねながら喜んでいる。
『ただし、条件がある。大きな声を出さない、勝手な行動はしない。これ守れよ』
アーリアはそんな事は耳に入っていないかのように一人で喜んで、たまに俺に向かって「ホントについてっていいんでしょ?」などと尋ねてきては、また喜んでいる。
『で、さっき何か言った?』
一通り喜んだアーリアは俺にこう訊いてきたが、呆れながら何でもないと俺が言うと、今いる木の枝から下へ飛び下り、手招きをしてきた。
今度は俺がアーリアの横に飛び降りて、そこから特に行くあてもなかったので、広くなっていたその場に、座り込んだ。
『…あのね、スバルってさぁ…』
…何を…何を言うんだろうか…。いや、別に期待しているわけではないけど…。いや、嘘です。
『スバルってさぁ、どうして街から…逃げてきたの?』
『え!?…な、何で知ってるんだ?』
『いいから、いいから、教えてよ。気になるから』
アーリアは笑っているが、先ほどまでの笑みとは少し違い、どこか悲しみがその笑顔に潜んでいるような…そんな気がした。何かあるのだろうか?
俺は少し、ほんの少しの迷いがあったが、アーリアに俺の今までを一通り話した。勿論追い出された理由や、竜の事も…。
『そうだったんだ!私、そこまでは知らなかった。…ほとんど一緒だね』
『一緒って?』
『…うん、スバルも話してくれたから教えるけど…私も本当は光の国の住人だったんだ。でも、追い出されちゃったんだ。私がまだ小さい時に…』
彼女にもつらい過去があった。アーリアの父は闇の国の住人で母は光の国の住人。今もそうだが光の国と闇の国の仲の悪さから、両国から非難され、ついには光の国を追い出されてしまったそうだ。そして現在の炎の国のフィオーネに逃げ込んだらしい。
『…フィオーネの人は優しくてね、私たちを受け入れてくれたの。…でも、でも…。お父さんも、お母さんも…ぐすん、くろまどうしに…ぐすん…殺されちゃったんだ…』
アーリアは嗚咽混じりに話してくれたが、最後には泣きながら笑っていた。
『…私の目の前で…ね』
そう言うとアーリアは再び泣いてしまった。先ほどより激しく。アーリアの瞳から大粒の涙が次々と流れだし、顔の輪郭をなぞるように顎へと伝い、地面を濡らした。
昔の俺なら…なにも出来なかったと思う。悲しみに暮れた美少女をただ見つめる事しか出来なかったと思う。だが、今は違う。俺はアーリアの肩を持ち、声をかけた。
『…アーリア。……泣いていいぞ。強がんないで…笑わなくていいぞ。もっと泣いていいんだ』
アーリアは顔を涙でぐしゃぐしゃにして俺の胸に顔をうずめて、泣き続けた。どれくらいだろうか。しばらくたった後、アーリアは顔を上げて再び笑顔を見せた。
『…ごめんね。本当はこんなに泣くつもりじゃなかったのに…。ありがとう。嬉しかった』
アーリアの目はまだ赤くなっていたが、彼女の笑顔には先ほどの悲しみはどこかへいなくなっていた。
アーリアさんがちょいとなれなれしいって?
知りません、そんな事。
スバル君アーリアさんに惚れてますよねって?
知りません、そんな事。
(惚れてませんよ)




