山道で
スバル君のあざなは前話では「魔人(訂正前)」となっていましたが「竜人(訂正後)」に変更いたしました。すみません。
さっきの盗賊かなりくそかったなぁと思いつつも少し自分のすごさに自信を持ち山道を歩き続ける。
小早川 すばる 十五歳。字は「蒼炎のスバル」からいつしか「竜人スバル」へと変わっていた。というよりさっき変わった。あまりおれが竜魔法を使える事は他人には言わない方がいいかもしれないが、どうせ知れ渡る事なのだ、いっそのこと有名になってしまおうと開き直ったところである。
竜神の谷から小さな村を三つほど越え、盗賊をぼこぼこにしてからだいぶ歩き続けたが一向に山道は続く。美味しそうな生き物が出てこないかなぁと期待しながら歩いていると、前から俺と同じくらいの年齢の青年が歩いてきた。腹は減っていたが生の人間を食いたくなるほど腹が減っているわけではない。
その青年は赤と黒の羽織を身につけていて、髪の毛と瞳は目が覚めるようなオレンジ色。背丈も年齢も俺と同じくらいであろう。腰にはまたもや俺と同じく剣を身につけている。その容姿から明らかに気性が荒く、元気で火の魔法を使いそうな奴だと思った。
『…お!お前は先ほどの盗賊が言っていた容姿そのもの…。竜人スバルとかいうやつか?』
青年はこちらを見るとそう尋ねてきた。盗賊とは先ほど逃がした盗賊の事であろう。
『…そうですけど、何かありましたか?』
出来るだけ丁寧に確認してみる。
『…そうか!自分の事を「竜人」というんだから相当の腕があるんだろうな!!!』
青年は先ほどより大きな声で言うと、腰の剣を抜き、ものすごいスピードを出して、その剣で俺に斬りかかってきた。目に見えぬほどの早さとはこの事であろうと思うほどの早さである。
青年は俺に剣を抜く時間すら与えずに斬りかかってきたため、俺は竜魔法で氷刀を作り上げ、青年の剣を受け止める。ギィィンという金属音が山道に響き渡り、二人の青年はお互い一歩ずつ後退した。
『俺の剣を受け止めるとはやるなぁ、お前!』
『いきなり斬りかかって来て何なんだよ!あんた!』
『俺の名前はキリトだ!炎の国の長であるゼランの息子だ!!!』
…!?
炎の国の長と言ったらかなりのお偉いさんだ。ハクの父は確か町の長であったからそれ以上にスゴイ人の息子か…。
『これはこれは失礼した。おれはスバルだ』
『竜人と名乗るだけの事はあるな、スバル』
『…まだやるか?』
俺がそう訊くとキリトは首を横に振って剣を腰の鞘におさめた。そう言えば、ここで炎の国長の息子に出会ったのだから、もうここは炎の国なのであろうか。その点がかなり気になるが、そうではなかった。俺が尋ねる前にキリトがこう話し始めた。
『俺は今、炎の国から脱出して来たんだ』
脱出だと!?そんな拘束されているみたいな言い方だが…。でも考えてみれば次の国長はこいつなんだし外で暴れまわってケガを負ったり、死んでしまったりしたら大変なことになるからありえなくはないか。
『俺は拘束されていて自由に外出したりできない身なりなんだ。んで、こんなのもう嫌だからまた脱出して来たんだ。もう百回目ぐらいだけどな』
キリトは笑っている。百回も炎の国から逃げだしているのかぁ。そうなると追手が必ず来るのではと思った矢先、黒いマントのようなものをつけた集団が向こうからかなりのスピードで向かってきた。
『そこの青年!!キリト様を…捕まえて下さい!!!』
黒い集団の先頭にいる図体の良い男が叫んだ。キリトは逃げるのかと思っていたら、両腕を大きく広げた。その両腕からキリトの髪の毛の色のような炎が出現し、両腕に勢いを付けて黒い集団へと放った。
その炎は不死鳥を思わせる形となり一直線に追手である黒い集団に飛んでいく。
しかし、黒の集団の一人ひとりが不死鳥とは対照的な水の塊を投げつけたのだ。水の塊一つだけならまだ炎の不死鳥は飛び続けたかもしれないが、それは黒の集団の人数の数だけあったので、不死鳥は消え去り、残った水の塊は俺とキリトのいる方へ飛んでくる。
逃げ出したキリトを追いかけてくる集団なのだから、炎の国の尖鋭なのだろう。そいつらに反抗すればいくらキリトを助けたからといって炎の国の民にどう思われるかは分からなくなってくる。少々判断に迷ったが、結局、黒の集団に言われた通りキリトの無防備な腕を掴み、動きを封じた。
『…ッ、スバル!』
俺の考えでは、俺が黒の集団に協力すれば今飛んできている水の塊は消えるか何とかして、俺達にあたる事はないと思っていた。しかし俺の考えとは裏腹に、水の塊は止まることなく飛んでくる。そして、俺とキリトに逃げる間も与えず、水の塊は俺達にぶつかった。いや飲み込んだといった方が正しいだろう。
水の塊は俺達にぶつかってもはじけ飛ぶことなく、その場にとどまり、俺とキリトを飲みこんだ。勿論水の中なので息が出来ない。
『…ウゥ…ゲホッ!!!』
突然の事だったため、一気に大量の水を飲みこんでしまいむせる。このままじゃ死ぬ…と思った時、バシャという音ともに水は消え去り、今度は大量の空気を吸い込んでしまい、これまたむせる。隣のキリトも同じ状況だ。そのキリトに白い石のようなもので出来ている手錠が、黒い集団によってかけられた。
『…失礼いたしました。キリト様を捕まえて下さりありがとうございます。私は炎の国のトルネオと申します』
先ほど集団の先頭にいた大柄な男がペコペコ頭を下げて自己紹介をしてきた。どうも、と俺も名前を言うが、国長の息子をこうも手荒に扱ってもよいのだろうかという疑問が胸に渦巻く。
『…えーと、とりあえず、炎の国までお送りいたします。すぐ着きますので…』
すぐ着くの言葉につい過剰反応してしまう。これまでずっと山道が続いていたので飽き飽きしていたところである。しかしどうやってそんなすぐに炎の国へ行くのだろう。
トルネオは両手を地面に合わせると、そこから巨大な赤い魔法陣が出現し、その場にいた黒の集団と俺とキリトを包み込んだ。
『こ、これは?』
『見た事はありませんか?これは移動式魔法陣です。魔法陣内にいる生き物を指定場所に瞬間移動させる事が出来ます』
そ、そんな優れものがあったのだなんてと心の中で驚き、感心していると地面の魔法陣が美しく輝き、目の前を赤い光が包み、思わず目を閉じてしまった。
再び目を開けるとそこは、昔通っていた役所と似た雰囲気の、しかし、大きさや造りは比べ物にならないくらいにすばらしい建物の前に立っていた。
『では、こちらへ』
トルネオの案内でその立派な役所へ入って行った。




