雪降る谷で
ハルジオンの街を後にしてどのくらい歩いただろうか…。
俺は零下の森を抜け氷結の丘まで来たところで気がついたのだ。地図を持たずにここまで来てしまった事に。俺はこの世界に来てから氷結の丘より遠くに行った事がなかったため道に迷うのは当たり前である。氷結の丘のゼンに道を聞こうと丘に行ったが既にゼンはいなかった。
そしてあてもなく歩き続けて現在に至る。
知らぬ間に何やら谷のような所に入ってしまったらしい。雪はしんしんと降り続け、まわりには木があるが、葉は勿論なく、まるで死んでいるかのように静かにたたずんでいる。
寒さには耐えられるような格好で着たのだが、ずっと屋外で生活をしているためやはり体が冷える。俺は歩みを止め、近くの木のそばに座った。木の枝を折ったものを何本か集め手をかざし、火を起こした。
火の色は蒼であってもとても暖かく、こうして街から追い出された事を忘れてしまいそうだ。
暖まっている間に自分の状況を再確認するため、あたりを見回してみた。するとどうだろう、俺が今座っている所からかなり離れた所に何かがある。木の形ではない事はここからでもなんとかわかる。
まだここで火の温もりを感じていたいが、遠くにある何かを見に行きたい気持ちもある。
しばらく悩んだがやはり行く事にした。ここで立ち止まっていても何も進まないのはわかりきっている。
あれは何なんだろう?
おもちゃを買ってもらう少年のように心を躍らせ歩みを進めていく。しかし、歩いていく途中でその気持ちは薄れ、何かの輪郭がはっきりした所で驚きに変わった。
今俺はその何かの目の前にいる。
とても大きいその何かの身体は透き通るような水晶と見間違えてもおかしくはない氷で覆われている。強靱な足腰に鋭くとがった爪、ひときわ大きな氷がついてる尾は振り回すだけで凶器として成立してしまう。そして、広げればさらに威厳が増すであろう今は折りたたんでいる大きな翼…。
空いた口がふさがらなかった。俺の目の前にいる何か…それは眠れる竜であった!俺は知らないうちに竜神の谷に入っていたのか。
驚いて目が飛び出そうである。少しでもいいので竜に触りたかったのだが、竜の周りには竜を中心に赤黒い文字で魔法陣が書かれている。
竜が封印されている場所は入りづらく、魔法陣で守られているとデントとが説明してくれた事を思い出した。でも、何の苦労もなくここまで来てしまったぞ…。
魔法陣は…血で書かれているのか?
そう思って魔法陣に触ったその時であった。俺の右手は魔法陣に触れた瞬間、見えない何かに腕をはじかれ俺はその場から後ろに飛ばされてしまった。そして、その場に立ちあがろうとするが立ちあがる事が出来ない。バランスをとる事が出来ない。そして気がついた。地面が揺れている。
ハクと戦った時のようにブリザードが巻き起こった。なんとか立ちあがり、ブリザードがやむのと同時に竜のものであろう咆哮が再び地面を揺らした。その咆哮は地面だけではなく空気をも揺るがし、立っていた俺を再び吹き飛ばした。木に頭を強打する。そして叫びと共に声が聞こえた。
グワァァァァァアアアアア!!!
〈…やっと封印が解けたか〉
低くくぐもった声が頭に響く。見ていたが竜の口は咆哮を上げていた時は動いていたが声が聞こえた時は動いていなかった。頭をぶつけておかしくなったかと思ったが竜は再び言葉を発した。
〈…そこのガキ、お前…アナザーワルドから来た人間だな〉
『だからなんだ!!!』
内心めちゃめちゃ怖かったがあえて強気に言ってみた。
〈威勢のいいガキは嫌いじゃねえがな…事情があってお前を殺さなきゃならねえ…〉
竜の眼はあれで見えているのだろうかというほど真っ赤であった。そして竜は翼を広げ飛びあがるとその大きな口を開けた。そこに渦を巻くように…雪の塊が形成されどんどん大きくなっていく。
まさかあれを俺に…!
予想的中、見事竜は口の中の雪の塊をこちらに飛ばしてきたのだ。勿論かわす。かわさなければ木端微塵になってもおかしな話ではない。
俺のすぐ横に先ほど竜の口の中にあった雪の塊が飛んできた。その雪の塊は地面にぶつかった瞬間、その場に氷の竜巻のようなものを作り上げ近くにいた俺を余裕で吹き飛ばした。なんで俺はこんなにとばされなきゃならないんだ…。
〈…まだ生きているか…死ねぇぇ!!!〉
咆哮を一つ上げると竜はこちらに向かってものすごいスピードであの大鎌のような爪をむき、飛びかかってくる。
ギリギリのところでその大きな爪をかわすと竜がかなり大きな咆哮を上げた。
〈貴様っ!!!くたばりやがれ!!!〉
瞳の赤い竜は既に怒りをあらわにし再びあの雪の塊発射に備え大きな口を開ける。次あれを食らえばこちらも危うい。あれをためている間は隙だらけなので雪の塊めがけて右手を掲げる。それと同時に俺の前髪の先に炎がつく。
『灼熱速激砲!!!』
俺の右腕から放たれた蒼い炎の塊はそれよりも大きい雪の塊にぶつかる。するとかなり簡単に雪の塊は崩れたかと思うと竜の口の中で爆発(?)した。竜はさらに激怒するかと思ったがそうではなかった。空中で静止している。そしてどこからともなく声が聞こえた。
(…すまない、私は氷竜クロウカシス。今、目の前にいる竜、つまり私の体は黒魔法によっておかしくなってしまっている。お前の力が必要だ!)
先ほどの声とは正反対の透き通るような美しい声。
『どうすればいいんだ!』
俺は竜に聞こえるように大きな声で叫んだ。
(とりあえず攻撃し続けてくれ。こいつも復活したばかりであまり機能していない。隙を見て私がこいつを弱らせるから、その時にお前の青いブレスレットを私に近付けて欲しいんだ…頼むぞ!)
グワァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!
咆哮と共にベルガの声はかき消えてしまった。
〈忌まわしき氷竜め!まだ生きておったか!!!〉
隙あり!俺は竜に向かって飛びかかる。
『炎鎚バーンクラッシュ!!!』
両手に纏った炎で竜の頭を思いきり殴りつける。竜の頭はかなりぐらついたが、赤い瞳はこちらに向けられ俺も竜に殴りつけられ数十メートルも飛ばされた。
もう何回も飛ばされた俺の体はぼろぼろだがその場になんとか立ち上がり竜の顔面に向け両手を構える。
『灼熱双速激砲!!!』
その名の通りバーニングジェットカノンを両手に備え、蒼い灼熱の炎は俺の両腕から発射される。飛んで行った二つの青い炎の球体は目標である竜の顔面に直撃し、竜が大勢を崩す。
その瞬間竜は腕を上げ自らの体を殴りつけた。一発ではなく何回も何回もだ。そして何度も頭を地面にたたきつける。
〈クソォォォオオオ!!!氷竜め!!!〉
(今だ、走れ!!!)
言われる前から俺は全力疾走で走っているがベルガが何度も頭を地面にたたきつけているため走りづらくなかなか竜のもとへたどりつかない。
何ともおかしな情景を目の前に俺は走り続けている。竜が動いているだけでもすごい事なのにその竜が自分を傷つけているのだ。
竜まで後二十メートル、十メートル。そして俺は飛び上がり右手につけているブレスレットを竜の額に押しつけた。するとそこから眩い光が放たれあたりは何も見えなくなった…。




