氷結の丘へ
『…スバル、おまえがこちら側に来た直接の理由はわからんのだが、零下の森を少し行ったところにある氷結の丘にわしの古い友人であるゼンが戻ってきたのじゃ。ゼンはしばらく世界をまわっていてわしなんかよりはるかに物知りじゃ。何かわかるかもしれんから、早く行くと良い』
あえて俺がこの間気絶したときに見た変な夢については話さなかった。少し怖かった。あの誰かがこちらの行動をすべて見据えているかのようにさえ感じた。
『んじゃ、わしは忙しいから帰るぞ~い。気をつけるんじゃぞ~』
そう言ってロブ爺は行ってしまった。
ロブ爺がいなくなってからしばらくたってハルが口を開いた。
『明日行くのか?』
『あぁ、早く真実を知りたいからな』
『そっかぁ』
デントは少し悲しそうな顔をして吐き捨てるように言った。きっと真実が分かって俺がいなくなってしまうのだと思っているのだろう。
『大丈夫だよ、デント』
とは言ったものの真実を探れば探るほどにハルやデントとの別れが近づいてくる。俺が初めてここに来た時、家族として俺は受け入れられたけれど、確実に別れの日はあるのだ。
それを考えると突然悲しくなってきた。
頭の中は布団に入っても未だに整理されず、体は疲れているはずなのになかなか寝付けなかった。
俺はどうなるんだろうか?
明日真実が分かるのか?
茂みにいたヤツは誰だったんだ?
…いや、こんな事を考えていてもらちが明かない。明日に備えて疲れた体を休ませることだけに集中した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日の朝
今日もハルの大きな声によりたたき起こされる。ハルもきっと心配してくれているのだと思うが平静を装っているのだろう。
支度を済ませると家を後にした。勿論三人で氷結の丘へと向かう。今日は仕事を休んでまで二人とも来てくれているのだ。
とりあえず何のトラブルもなく太陽が真上に上る頃までには氷結の丘のふもとに着いた。今いる場所は氷結の丘のふもとだが丘は見上げるほどに高く、表面は凍てつく氷で覆われている。この丘の頂にゼンはいるという。
雪は降ってはいないがハルジオンの街とは比べ物にならないくらいに寒い。とにかく寒い。
この寒さの中、丘を登ること約一時間。普通は出てくるはずの生き物が全くいないのだ。何故かはわからないが寒さに耐えて上っている俺達にとっては嬉しいことでもあった。
そして頂が見える。踏み込むとそれまでずっと続いていた細い道が一気に開け、その端に、この寒さの中、上半身裸の老人が座禅を組んでいた。…あれが物知りのゼンさん?大丈夫か?
一抹の不安を抱えながらゆっくりと近づいていく。五歩ほど歩いていくと老人が立ち上がってこちらを見た。ロブ爺と同じくらいか少し大きいかの身長であり、老眼鏡をつけている。
『…君は…ここの世界の人間じゃないね』
俺の方を指さしながら、ゼンと思われる老人は言った。
俺達三人は、驚きのあまり言葉が見つからず、ただただ口をあんぐりと開けている事しか出来なかった。
ロブ爺の話は嘘ではないらしい。
『はい、その通りです。僕はスバルと言います。…その事について尋ねに来ました』
『うむ。詳しく話してみなさい』
俺はこちら側の世界に飛ばされたことから最近見た変な夢の話まで出来るだけ詳しく話した。
すると、ゼンは眉間にしわを寄せ、ゆっくりと言った。
『…………すまないが、わしはこのようなケースの人間に未だ出会った事がないため、詳しい事はわからないが…だが、ここからかなり離れた所にある光の国の竜なら何か知っているかもしれん』
光の国の竜…。
竜の存在についてロブ爺に初めて会ったときに言われたような気がするがすっかり忘れていた。たしか、ハルとデントが詳しいから話を聞いておきなさいとか言っていたような…。
『まぁ、それは君に任せる。光の国まではかなり遠いからそれなりの覚悟が必要じゃぞ』
『…はい。ありがとうございました。では…』
そして、氷結の丘を後にした。その場にハクがいた事は誰も知らなかった…。いや、ゼンは知っていて言わなかったのだろうか。これはのちに分かる出来事である。
…まさかここにハクがいたことによって事態が急展開することになるとは…
帰り道、一言だけハルと口をきいた。
『今日家に帰ったら竜の事について詳しく聞いてもいい?』
ハルは表情一つ変えず一度だけ頷いた。
次回、竜について徹底解剖!?
ハルとデントの父親についても書いていこうと思います!




