episode2 代わり
感想もらえたらうれしいです。
――――これは夢じゃないだろうか。そう思いたかった。
真璃夜は頭が良くて、運動神経も良くて、美人で、何でもそつなくこなせる人間だった。
性格は落ち着いていてクールで。
時々人に冷たいと誤解されていたが、優しくて面倒見が良かった。
よく妹ではなく姉にまちがえられた。
俺は真璃夜の笑った顔が好きだった。太陽みたいに笑うと言うより、月のような笑顔だった。
太陽ほど明るく眩しい笑顔ではなかったが、人を安心させる静かだがやさしい月の光のような笑顔が。
俺は真璃夜を尊敬していた。
そして憧れていた。けしてかなうことのない憧れだとわかっていた。
―――――でもせめてずっと傍にいたかったんだ。
「真璃夜が・・・・死んだ?」
無言で医師は頷いた。
「あなたが来る少し、本当に少し前に亡くなってしまい、マナだけに。
病室内に、透明のケースがあり中に赤い宝石のようなものが入っていた。
キラキラというよりはギラギラした光だった。
ふとその時、
(母さんは?母さんは無事なのか?)
「あの、母の桜雫沙羅は?」
母さんも一緒だったハズだ。だが母さんの姿はどこにもない。
「死後からから時間がかなり経過したのか、マナだけになってしまったようで、今警察が捜索しています。」
「母さん・・・・・・も死んだってこと・・・ですか?」
医師は苦い顔をして、
「助かってはいないかと・・・・・・」
俺は視界が真っ暗になった。ただマナの赤いギラギラした光が見えたが、その光は俺を照らす希望の光ではなく、絶望の光に見えた。
母さんは朝俺を起こしに来た。
俺が家を出るときいつものように、いってらっしゃい、と言ってくれた。
真璃夜はいつものように校門で俺を待ってて、弁当を届けてくれた。
優しく笑っていた。
いつものように、平穏な一日のハズだった。
だけど
なんで
どうして
二人が死ぬんだ。
無差別殺人。人通りの多い駅付近の商店街で事件は起こった。
上から人々を銃殺。6人が重傷、15人ほどの死亡者が出てしまった。
3人の人間による犯行だった。殺人の動機は
「外国でライフルが手に入ったので、人を撃ってみたかった。」
殺人をする人間のありがちな動機。
そして、
「どうせまた代わりができるので、いくら壊してもリサイクルされると思った。
マナを壊すよりは刑は軽いと考えた。」
―――――いくら死んでもいいならなんで俺を殺してくれなかった?
憎しみの感情も沸いたが、それより俺は強くそのことを思った。
なんで世界でたった二人の家族を失って俺は生きているのか。
残されるぐらいなら一緒に殺してほしかったと。
「真璃夜さんと沙羅さんに貴方以外のご遺族は?」
「真璃夜は幼いころ本当の両親に捨てられて、教会の孤児だったのを母が養子にしたのでわかりません。多分俺だけです。
母も俺以外の家族はいません。
祖父母は母が18の時亡くなって、兄弟も親戚もいません。
父は俺が4歳の頃にKillされました。」
Killとはマナを壊され殺されることの意味だ。
医師はそうですか、と言ってこう続けた。
「お二人とも17、38歳とお若くて良かったですね。」
(・・・・こいつ何言ってんだ?)
「どう言う意味ですか?」
医師は俺の言葉に一瞬キョトンとしていた。
「若いので、リサイクルされてもまだ、真璃夜さんなら70年、沙羅さんのマナでも40年は生きられますし、それなら貴方の妹さん、お母様の代わりとして生きて行くなら十分な時間だと思います。
最初は知らない人間どうしで暮らすのは大変かと思いますが、貴方が協力してリサイクルされた方サポートしてあげて下さい。」
医師は自分が正しいことを言っているような、満足そうな顔をしていた。
「・・・・・アンタ頭おかしいだろ。」
「え?」
「聞こえてねぇならもう一度言ってやるよ。
アンタ頭おかしいだろう!!!」
俺は今まで出したことがないような声で医師に怒鳴った。
「若いからまだ家族の代わりとして生きていける?
家族が死んだってまたリサイクルされるから大丈夫ってアンタ殺人者と考え一緒じゃん。
俺は代わりなんていらねーんだよっっ!
俺の家族は母さんと真璃夜だけだ!!!
なのに他の人間が代わりになれるハズなんてねぇだろうがよっ・・・!!!」
医師は何故俺を怒らせてしまったのかわからない、といった不思議そうな目をしていた。
「やめてください!ここは病院ですよ!?」
看護婦の声にふっと我に返った。
「っ・・・・すみません・・・」
医師は苦笑いをして、
「い・・・いいんですよ。ご家族を亡くされて気が立っていたのでしょう。」
と言った。
翌々日。
母さんのマナも20日の午前0時に発見された。
やはりマナだけの状態だったようだ。
二人のマナはリサイクルも終了して名もそれぞれ違った名前をもっているらしい。
今日はその二人との面会日であった。
俺はまだもやもやした気持ちだった。あの医師の言葉に。
19日から今日までで大分気持ちは収まった。
医師の言った言葉もふつうの一般論にすぎないと。
だが俺はまだ二人が死んだを悲しみ悔んでいる。
あの時の医師への怒りも忘れていないし、偽りではなかった。
(医師は普通のことを言ってる筈だ・・・だけど俺はあの言葉は今だに理解できない。俺がおかしいだけなのか?)
面会室入ると一人の女の子が中にいた。
そのまま10分ほど無言で部屋にいたのだが、
その子がいきなり
「・・・かわいい・・・」
と言った。何が?と言うと、ハッと我に返ったようで、
「スッスミマセンっ えと・・・その・・・あの あっ貴方の携帯に付いてるストラップがかわいいなぁって。」
これのこと?と俺が返すと、
「はいっ!そのかわいいサイの子ですっ!!」
一発でサイとわかる人間は少ないので少し驚いた・・・とゆうより感心した。
ストラップは真璃夜のクリスマスプレゼントに買ったワタナベだった。
贈る人間ももういないと思い適当に付けていた。
「・・・かわいい。なんていうお名前なんですか!?」
「・・・ワタナベさんって言うキャラクター。」
「ワタナベさん・・・素敵なお名前・・・えと、桜雫さんはワタナベさんがお好きなんですか?私は人目でこの子の魅力にやられてしまったみたいです。」
(真璃夜と同じワタナベ教になりそうだな・・・いい子そうだけど性格は全然違うみたいだな。)
感情表現がおおきく明るい子だった。
(あれ?でも・・・)
「あのなんで俺の名前知ってるの?初対面だよね?」
その子はあっ、と言う顔をしたのと同時にノックの音がして医師と女性が入ってきた。
「済みません。お待たせしました。日笠さん彼に自己紹介はお済になりましたか?」
ごめんなさい、まだです。と、その子は答えた。
「ではお二人とも桜雫さんに自己紹介を。名前と年齢だけで結構です。」
医師がそう言うと、女の子のほうから自己紹介を始めた。
「ひ、日笠祈ですっ!10(じゅう)・・・7(なな)です。」
次は女性が、
「佐籐香織と申します。38になります。」
「医師・・・このお二人は?」
「? 桜雫真璃夜さんのリサイクル、日笠祈さん。」
医師は女の子のほうにかざした手を次に女性に。
「こちらは桜雫沙羅さんのリサイクル、佐籐香織さん。」
―――――――――嘘だろ?この子とこの人が二人のリサイクル?
全くの別人。わかっていた事だった。
リサイクルされた人間が二人とは違う事なんて。
だが何処かで二人の面影があるのではないかと勘違いしていた。
真璃夜は長い黒髪に整ったキレイな顔立ちをしていた。
だがその日笠祈という人間は先ほど話した印象では性格も全く違う印象をうけた。
髪も栗色のセミロングで、顔は整っていて美少女だがキレイというよりカワイイ雰囲気だった。
佐籐香織は性格はわからないが、容姿はどこにでもいる日本人の顔立ちをしていた。
母さんはイギリス人なので、純潔の日本人にはとても見えなかった。
「・・・少しトイレ言ってきていいですか?」
俺はとりあえず気を落ち着かせようと面会室の外に出た。
途中廊下で二人の看護婦が立ち話をしていた。
一人は俺がキレそうになった時、医師に付き添っていた看護婦だった。
「もうびっくりしちゃった。医師の首元つかんで、医師の頭がおかしいだの、家族の代わりはいらないとか・・・おかしいのはアンタでしょ!と思ったわ。」
「親戚いないんでしょう?新しい人とやっていけるのかしら?やっていけないとしたら一人暮らしよね。まだ高校生でしょう?」
「なんかそう言う場合国から生活保護もらえるみたいよ。一人で生活できる程度にはもらえるでしょう。」
「にしてもその男の子、考えが変というか・・・おかしいというか・・・・・狂ってる?」
「そうよねぇ。これから先どうするのかしら。」
盗み聞きするつもりはなかった。だが俺はその看護婦の話を聞いて、確信した。
狂ってるのは俺でもない。医師でも看護婦でもない。
この世界の常識そう、
――――――――――狂っているのはこの世界だ。
俺は病院で適当に自己紹介をし、家に帰って今後の事を話し合うようにと、医師に言われた。
「じゃぁ、祈ちゃん志紋君、この先どうしましょうか?」
佐籐香織がそう言うと日笠祈が、
「住むとこないので・・・とりあえずここに住ませてもらいたいです。」
佐籐香織もその意見に何故か嫌々そうに同意した。
「じゃぁ3人で住む・・・でいいかしら?」
「あの俺ここ出ます。」
二人は驚いた顔をした。
「やっぱり女性同士のほうが一緒に住みやすいと思いますし。」
適当な理由をつけた。
「あのっでも1人じゃ大変じゃないですか?お金とか・・・」
と日笠祈は心配そうに言った。
(偽善者・・・)
そう思った。同時にそう思う自分が嫌だった。
「バイトしてるんで。それに生活保護もでるみたいですし。新しい家が見つかり次第、出て行くんで。」
「そ・・・そう。志紋君がそう言うなら止めないわ。個人の意見は尊重しないとね。あ、でも家が見つかるまではいくらでもいてね」
今この家は事実上佐籐香織の家だ。
佐籐香織はうれしそうな顔をしていた。自覚はないようだが隠しきれていなかった。
―――――12月30日。
冬休みに入り、家も決まった俺は真璃夜、母さんと10年過ごした家を出て行く日が来た。
朝9時。
佐籐香織に一応挨拶をして荷物をまとめ、門の前で家をしばらく見つめ、歩き出した。
「志紋君・・・!志紋君!!」
少し歩いたところで名前を呼ばれる。振り返るとそこには日笠祈がいた。
「本当に家・・・出ってっちゃうの?」
背を向け無言で頷く。
「でもずっとあそこに住んでたんでしょ?なのに・・・いなくなっちゃうの?」
「あそこはもう佐籐さんの家だ。アンタも住むとこないなら勝手に住んでれば?」
「違う・・・違うよ。
あそこは・・・あの家は・・・桜雫家でしょ?
他の誰の家でもない!
出て行く必要なんて・・・・」
「・・・・・だまれ。だまれよ!!」
そう叫んだ。
「アンタに俺の気持ちわかるわけ?わからねーだろ。
確かにあの家は3人の思い出の場所だ。だけどな思い出があるから辛いんだ・・・!居られないんだ・・・・・!!
しかも俺の家族の命でのうのうと生きてるアンタ達と一緒に暮せ?支えになれ?馬鹿にしてんじゃねーよ。
アンタ達は代わりなんかじゃない。
俺は人とすら認めてない。」
そんな狂った常識認めたくない。
「わかった。・・・・・・サヨナラ。」
顔は見えなかったがいつもの声の調子で日笠祈は言った。
そしてまたこうつづけた。
「・・・・・・・あたし!あの時君に会えて良かったと思うんだ。
君会えなきゃワタナベさんにも会えなかったし!ハハハっ。
・・・・あの時少し話せてうれしかったよ。」
俺は携帯についていたワタナベを地面に捨てた。
見るたび真璃夜を思い出す。
悲しくなる。
見るたび日笠祈を思いだして嫌になり、
そう思うたび自分が嫌いになりそうで。
そのまま俺は日笠祈の前から去った。