よくある話ですわ
「お姉様! 私ルッファレス様が好きです! 私の方が彼に相応しいです!」
ルッファレスの隣に座る後妻の娘であるロッシーナは鼻を大きくさせる。
前妻の娘であるアンドリーネは、婚約者であるルッファレスを見る。
分かりきっていることを聞くのは道化だと思いながら、聞いてみた。
「ルッファレス様は?」
すでに隣にロッシーナを座らせていることから答えは分かりきっている。
「僕もできれば、ロッシーナの方がいいかな」
迷うことなく言い切ったルッファレスに、アンドリーネは少しは迷えと頭にくるが、顔には出さない。
アンドリーネは内心心変わりしたルッファレスに対して虫けらと罵るがけして顔には出さず、淑女らしく目を落とし、傷ついたのを耐えるように、父親を見た。やり過ぎてルッファレスが心変わりして復縁を求めないように気をつける。
「お父様。私とルッファレス様との婚約は白紙にし、ロッシーナを新しい婚約者にして下さい」
破棄にしなかったのは、傷物になりたくなかったからだ。
「お前はそれでいいのか?」
今まで黙っていた父親がアンドリーネに気にかけることもなく、ただ確認してきた。
愛していると言われたことはなく、頭を撫でられたこともなかった。貴族らしい貴族で、前妻であるアンドリーネの母親が亡くなったときでさえ仕事をしていた。
「はい。ルッファレス様はロッシーナの方がいいみたいなので」
「分かった」
父親は使用人に手を差し出す。使用人は書類を渡す。
「婚約白紙にするサインをしろ」
「はい!」
元気よく嬉しそうにルッファレスは返事し、ロッシーナも嬉しそうにお腹を撫でる。
ルッファレスは書類にサインし、ウフフ、と思わず後妻が笑いをこぼした。
「サインしたな?」
使用人が書類を持っていき、父親に別の書類を渡す。
「お前にもサインしてもらいたいものがある」
父親から書類を受け取り、後妻は首をひねって内容を読んでいくうちに顔を青ざめていった。
「何ですこれは!?」
「離縁手続きのサインをしろ」
「はあ!? 何でですか!?」
「お前の娘が婚約を壊したからだ」
「ちょっと待って下さい!」
今まで成り行きを見守っていたルッファレスが声を上げた。
「ロッシーナはあなたの娘ではないのですか!?」
「ロッシーナは連れ子で私の娘ではない。養子にも入れていない」
「なら彼女は公爵家を継げないじゃないですか!!」
「お前はアンドリーネと婚約白紙したのにかかわらず、公爵家に入ろうと思っていたのか?」
呆れたように父親が言う。
「だってそのために勉強してきた!」
「舐めるなよ小僧。次期当主はアンドリーネだ。お前は婿以上でも以下でもない。まあ、その道はお前自身が潰したがな」
信じられないという顔でルッファレスはロッシーナを見た。
「ロッシーナ! 君は! 自分が次期当主になるって、そう言ってたじゃないか!!」
「お姉様より、私が相応しいですわ!」
「それはない」
冷たく父親は否定する。
「それ以上言えば、家乗っ取りを企てたとして牢屋に入ってもらうぞ」
「っ!!」
「ルッロエンド。お前には責任を取ってもらうぞ。お前がお前の娘に家乗っ取りを企てたとして牢屋に入りたくなければそれにサインしろ」
「旦那様。私はそんなつもりじゃ──」
「私が家にいなければ何でもできるとでも思ったか? アンドリーネには古臭いドレスしか用意せず、お前の娘にしか新しいドレスを買わず、お茶会をしているアンドリーネとルッファレスの所にお前の娘を行かせていると執事から報告を受けている」
ルッファレスはそこで改めて古臭いドレスを着ているアンドリーネを見た。
アンドリーネは淑女らしく辛そうに目を落とすが、内心気に入っていたドレスが古臭いだと言われてショックを受けた。
「旦那様。私は──」
「黙れ。牢屋に入りたいか?」
「……分かりました」
後妻は顔を青ざめながら書類にサインをする。
「僕は騙されていたんだ! ロッシーナが連れ子なんて、知らなかった!」
「アンドリーネと婚約中その女の娘と体の関係があると調べはついているぞ」
吐き捨てるように父親が言う。ルッファレスとロッシーナは顔を青ざめ、アンドリーネはそこで辛そうに目を落とした。
「どうして……」
「公爵家を舐めるなよ小僧」
「お父様! 私の話を──」
「お前の父親じゃない。呼ぶな」
冷たく言い放し、ロッシーナは言葉を失う。
「私はどちらでもいいぞ。その娘とこのまま婚約しても破棄しても。この娘は母親の実家の伯爵家に移るが、すでに次期当主がいるからな。侯爵家の三男であるお前とその娘が婚姻したら平民になるが、私が知ることじゃない」
「……破棄させて下さい」
ロッシーナは目を見開く。
「ルッファレス様!? そんなのいやああー!!」
紅茶を飲む新しい婚約者はクスリと笑う。
「それでどうなったのですか?」
「よくある話ですわ。ロッシーナは修道院で子供を生み、元婚約者様は勘当されて平民に。ちなみに継母は実家から勘当されて同じように平民になったとか。私から聞かなくても、知っているのではなくて?」
「何故?」
「あなた様はお父様の仕事先の上司の方のご子息様だからですわ」
「確かにその通りだけど、君は勘違いをしているよ。私が父上に頼んで君のお父様を動かしたんじゃないよ。お父様が動いた後に君との婚約話がきたんだよ。つまり君のお父様が動いたのは愛によるためだよ」
アンドリーネは目を丸くする。
「まあ。そうなんですの?」
「報われないねぇ。君のお父様は」
「今まで愛していると言われたことなんてありませんでしたもの」
「私はそうならないためにちゃんと言葉で伝えるよ。愛していると」
「まあ。私もお慕いしておりますわ」
アンドリーネは照れくさそうに言うのだった。




