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第87話 色付き


「リンデールで『色付き』と呼ばれるのは、主に、国内に住みながら、親が異国人と結ばれたか、その隔世遺伝か……体に色を宿して生まれた者のことを指すの」


 シホもおそらくこれだろう、と。薄々自分でも勘付いている。

 祖父母は何も言わないが、それは言えないだけで、きっと両親のどちらか、もしくはその父母のどこかで、異国人の血が混じっているのだろう。



「これらは国内の血の純度を薄める要因として忌み嫌われる。……ま、リンデールは小さい国だからね。混血を制限なく認めていけば、やがて国全体の血の純度が薄れていくのは時間の問題でしょう」


 だから彼らの拒否反応が理解できないわけでもない。

 シホだって、リンデール全体で見れば、特別優秀な魔術師でもないのだ。

 あくまで呪紋の特殊性と多様性、その他技能などの総合力で評価されているだけであって、純粋な魔力量でいえば、まだまだ上には上がいる。



「他国とそう変わらない実力の魔術師に成り下がったリンデール人に、いままでのように高い給料を払ってくれる国はない。そしてこれは……リンデール人が国外に出て他国人と結ばれた場合にも言えることよ」


 国内において結婚が難しいなら、国外に出ればいい。

 そう単純な話ではないのである。



「もし国外においてリンデール人の血を引いた魔術師が大量に出現したとする。しかも外貨を稼ぐために高額な報酬を要求するリンデール兵の何分の一の価格で仕事を引き受ける。この場合も待ち受けるのはリンデールという国の死よ」


 だからリンデール人は、外国人との結婚も認めない。



「リンデールにおいて国外へ嫁ぐ行為は、『血を、同胞を売る行為』として、国内に残された家族が徹底的に迫害される」

「そんな………………」

「放置すれば、リンデールは貧しい土地だからね。国外に出る者が後を絶たないんでしょう。……でも、リンデール人はリンデールでしか生きられない」


 どんなに豊かな土地を夢見たとて、国民全体を受け入れてくれる土地などどこにもないのだ。

 そして――その争奪戦に負けてしまったからこそ、リンデール人はいまの国土に身を寄せ合っている。



「リンデール人が魔法適正に優れるのは、魔石の出る魔力溢れる土地に生まれたからか、それとも適正ゆえにそんな悪辣な土地でも生きてゆけるのか――――。どちらが先かはわからないけれど、遠い昔の先祖がこの場所に落ち着いたことには理由があるはずよ」


「白の災禍…………」

 ファビアンがぽつりと呟いた。


「ガルディア王国物語の一節ね。よく知ってたわね、ファビアン」

 彼が呟いたのは、遠い昔の歴史書に出てくる出来事である。



「遠い昔魔術に優れる人々は、ある国では王侯貴族として敬われ、ある国では不気味で恐ろしいと迫害された。その後者の末裔が――――リンデール人といわれているのよ」


 リンデール人だけがそうなったのは、能力の高さ以外にも、その見た目の異質さも影響したことだろう。


「それで迫害から逃れた人々がようやく辿り着いた貧しい土地――それがリンデールといわれている」


 リンデール史では悲劇の一節だが、それが国外の歴史書では、恐ろしい悪魔たちによる『白の災禍』として語られているのである。



「だからリンデール人は外国人を嫌うのか……」

「嫌っているというよりは、警戒している……かな? まぁきみたちみたいな『正式な客』はちゃんと歓迎するんだけど……」


「『正式な客』?」


 ファビアンが首を傾げる。



「リンデールには『望まない客』も来るからね……」


 言って、自然と声が低くなる。

 それを敏感に感じ取ったのだろう。ファビアンもまた声を落とした。



「どういうことだ?」

「…………」


 これを彼らに伝えるべきか――一瞬シホは迷ったが、リンデール人の外国人嫌いを、理由のないものではないと伝えておくことは、今後の交流活動のためにも必要だろう。


 シホはゆっくりと口を開いた。




「リンデールには、人攫いが出るんだよ」

「――人攫い?」


 それならば他国でも、比較的治安のいいウィルテシアでも出るときは出る。

 そう言いたげな目でファビアンは続きの言葉を待っている。


「もちろん人攫いがこの国だけじゃないことは知っている。でもリンデールには、『明確にある目的を持った』人攫いが出るんだよ」

「…………目的」

「端的に言えばそれは、子供。それも女児を狙う」

「……!!」


 ファビアンは何かを察したのか、ぐっと真一文字に口を引き結んだ。



「人攫いが子供を狙う。これはまぁ、どこの国でもあることだね。子供は攫いやすいし、労働力として売れば農場や工場、どこでも一定の需要がある」


「ただそれなら、男の子供のほうが都合がいい……」

「そうだね。将来的な成長を見込むなら、どうしたって力の強い男性のほうが需要はある」

「それなのに女児を狙う理由…………」


 場に、沈黙が満ちた。





「そう――――『繁殖用』だよ」










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