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第83話 呼び出し


「ランドール先生、それにミリウス・ウィルテシア・ヴェルトリンガム君。至急学長室まで来てください。――学長がお呼びよ」


 とある穏やかな日差しも心地いい秋の午後。

 教室を訪れた教師はそう言った。



「私と……ミリウス?」


 なんだろう?

 個別に呼びされることならままあるが、二人揃って同時にというのはいままでない。


 二人で、顔を見合わせる。



「……わかりました」


 用件にまったく心当たりがないながらも、シホは首を縦に振る。

 そうして二人、学長室に向かったのだった。





          *




「いやはや、突然呼び出してすまないね、二人とも」


 学長室に着くなり、学長はにこやかな顔で二人を出迎えた。


「忙しいだろうとは思ったんだが……至急、きみたち二人に確認しておきたいことができたものだからねぇ」


(…………確認?)


 シホは内心首を傾げながら、続きの言葉を待つ。


 学長は自慢の髭を何度も撫で付けながら、ゆっくりと切り出した。



「ヴェルトリンガム君。きみにはもうすでに別筋から話が行っているかもしれないが――――きみに、リンデール公国魔法学院への交換留学の話が来ている」

「!?」


 シホは初耳だった。

 が、ミリウス本人が驚いていないところを見ると、学長の言うとおり、王家関係筋から、すでに話は来ていたと見るべきだろう。



「以前から話自体はあったのだが……リンデール公国の公女ユリス殿下が、ぜひこの学院を視察したいと仰っていてねぇ」


 ユリス公女殿下。たしか御年12になるリンデール大公家の長女だったはずである。


「先生もご存じのとおり、リンデールは魔法適正の高い国民だろう? 公女殿下も魔法に秀でた方だから、年齢は多少若いが、当校での授業も問題ないと仰るんだ」


 それは……血を重んじるリンデール公国でも最も高貴な血統の娘なら、学業面はともかくとして、能力的にはまったく問題ないような気がした。



「そこでだね。ユリス公女殿下を受け入れるにあたって、交換にウィルテシアの王族――ヴェルトリンガム君を、あちらの魔法学院が受け入れる用意があると先方から打診があったんだ」


 つまりは、王族同士の交換留学を兼ねた親善外交といったところだろうか。


「どうだい? ヴェルトリンガム君。向こうに行ってみる気はあるかな?」

「………………それは」


 ミリウスは口を開いた。


「それは、ここにランドール先生もいらっしゃるということは、先生も同行されるということでしょうか?」

「ああ、そうだね」

「!!?」


 初耳である。


「ああ、すまないね。ランドール先生。先生にも順を追って話そうとは思っていたんだが……」


 学長は申し訳なさそうに頭を掻く。


「いや、私はここの授業があるんですが……」

「もちろん理解しているよ。だが、いくら先方が指導役や警護の人間を用意してくれるとはいえ、こちらから誰も出さないわけにはいかないだろう? そこで衛兵と教員を何名か……と考えた結果、ランドール先生。きみ以上の適任者がどこを探しても見つからなかったんだよ」

「………………」


「きみはリンデール出身で、それも今回の留学先――魔法学院の卒業生だ。地理も勝手もよくわかっているだろうし、何よりきみは腕が立つ。これ以上ない適任だ」


 それは……そうだろうが。


「もちろん残った生徒たちのことは学院に任せてほしい。今回はヴェルトリンガム君のほかにも、希望者を数名募って一緒に送り出すつもりだ。先生のクラスにも希望者がいれば共に連れて行っても構わないし、期間もごく短期の滞在だ。生徒たちの学業に支障はでないと思うが……」


 そう言われてしまえば、反対する余地がなくなってしまう。


「うーん……」


 ちらり、と。肝心の当人であるミリウスのほうを窺う。

 すると彼は、じっとこちらを期待する眼差しで見つめていた。


(それは……そうだろうけど)


 ミリウスにとっては、王族間の外交――つまり、ほぼ強制に近い仕事である。

 そんな用件で一人外国に送り出される身とあっては、それは不安にもなるだろう。


(ついていってあげたいのは山々だけど……でもなぁ、魔法学院ねぇ……)


 あまりよい思い出ばかりではない古巣に今更戻るのは、それほど乗り気にはなれなかった。



「……ちなみに、今回は通常の給与のほかに特別手当と護衛代も付く予定だよ」


「行く! 行きます!!」



 二つ返事で引き受ける。



 決して金に目がくらんだわけではない。



 可愛い教え子が心配だったのである。







新章はリンデール公国(交換留学)編です。

先生の故郷を訪れて何も起きないはずがなく……。



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