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第79話 占術師の館


「占い処……?」


 きらきらとした看板は、生徒たちの室内展が並ぶ、講義棟の一画にあった。

 どこのクラスの出し物だろう。

 学校側や実行委員会の許可を取ってやっている以上、変な出し物ではないのだろうが、きらきらとした看板に書かれた文言からは、言いようのない怪しさが漂っていた。


「レムリアの母って……」

「占い自体は、生徒が行っているわけではないようですね」


 まぁ生徒の占いに金を払う客など少数派だろう。

 ここもほかの出店と同じく、外部から本職を雇って店を出しているようだった。


「占いかぁ……」


 シホは正直、占いというものをあまり信じていない。

 もちろん遊び程度には楽しめるが、こういった手合いのものは、大抵当たり外れどちらにでも取れるような答え方をして、最後に客の不安を煽り、護符やら壺やらを買わせる店というのが相場だった。


「う~ん……」


 怪しい。実に怪しい。

 店先に出した小さな看板には、『仕事運・金運・恋愛運・あなたのペットの運勢まで何でも視ます』と書かれてある。

 つまりは何でもありだ。……ますます怪しい。


 しばらく看板を見つめていると、中から二人組の生徒が暗幕を押し上げて出てきた。

 熱々の視線で見つめ合った、男女のカップルである。


『あなたも恋の占いしてみませんか?』


 その瞬間、頭上に掲げられた大きな看板が光り輝いたような気がした。




 シホは出てきたばかりの互いを見つめ合うカップルを呼び止める。


「ここで占いをしてきたのよね? 中で変なことを聞かれなかった?」

「変なこと?」


 そのカップルには、まったく心当たりがないようだった。

 それどころか声に熱を乗せて、占いの素晴らしさを熱く語る。


「私はここで気づかされたの! 本当に愛してるのはこの人なんだって……!」

「僕もだよ……!!」


 どうやらこの占いでくっついた手合いのカップルらしい。


(まぁ男女二人で占いに行く時点であらかた出来上がっているようなもので……)


 お幸せに、とシホが密かに祝福の手を振って見送っていると、背後から何やら熱い視線を感じた。


「……? ミリウス、どうしたの?」


 それほど占いが気になるのだろうか。

 ミリウスはじっと店先の看板を見つめていた。


(たしかに……今回害はないようだったけど、実際に確認してみないことには結論は出せないものね)


 警戒するに越したことはない。

 ミリウスもそう思っているのだろう。


「入ってみる?」

「!」


 ミリウスはこの手の店は初めてなのだろう。

 すぐ後ろにぴたりと付くように、シホの後についてきた。


 こうして二人は、怪しい占い処を調査することになったのである。








 店内に入ると、そこは思いのほか明るい空間だった。


 もちろん天井や壁には暗幕が張られ、魔女の館といった雰囲気を醸し出している……が、室内には至るところにきらきらとピンクや水色、明るい光を出すランプが設置されており、思ったより人の不安を煽るような造りはしていなかった。


(といってもまだ安心はできないわ……)

 そういう造りで客を安心させて詐欺を行う占い師もいるのである。


 室内を奥に進むと、そこには一人の老婆がいた。


「あなたが……レムリアの母?」

「なんじゃい。無作法に。……そうだよ、占いなら料金はここに。前払いだよ」


 なんともぶっきらぼうな、愛想もへったくれもない占者である。


「それとも冷やかしかい? なら帰っとくれ」

「そういうわけじゃないんだけど……占いって、あまり信用できなくて。ほら、当たり外れどちらにも取れるようなことを言うじゃない?」


 シホが喧嘩を売りに来たとしか思えないようなことを言っても、老婆は慣れているのか、フンと鼻を鳴らしただけだった。


「ま、そういう手合いもいるだろうさ。ただね、お嬢ちゃん。占いは所詮占い。決まった未来なんてものはこの世に存在しないのさ。仮にもしあったとしても、それはまだ選択の余地が残されてる。その中でどう足掻くか――――その選択の材料になるのが占いってものなんだよ」


 だからあまり当てにするんじゃない、と老婆は口にする。


「………………」


 言っていることの結論は『必ず当たるとは限らない』、その予防線であることに違いないのだが、その語りようが正直で、予想よりも良心的な場所のような気がした。


「ミリウス、どうする?」

「レムリア人といえば、たしかに占術に秀でた国民ですが……。優秀な術士がわざわざウィルテシアまで来るでしょうか……」


 つまりは、占術に秀でたレムリア人を語った詐欺の可能性もあるというわけである。


「おばあさんはどうしてレムリアからウィルテシアに?」

「は、疑ってんのかい。まぁいい。向こうの都にいられなくなったからだよ」

「いられなくなった?」

「しばらく前に帝都が政変か何かできな臭くなって、それで居辛くなってこうして諸国を巡って稼いでいるというわけさ」


 老婆は国を出る前までは、本当に『レムリアの母』として国でも指折りの占者だったという。


「しばらく前という時期が気になりますが……言っていること自体は間違っていません」

「ならあながち嘘八百で荒稼ぎをしているわけでもないのか……」


 ひそひそとミリウスとする密談に、老婆は面白いものを見るようにしたりと笑みを深める。


「それで、どうするんだい? 占うのか、占わないのか。そっちの坊ちゃんには何か占ってほしいものがあるようだが――?」

「!!」


 にやにやと老婆が楽しげに口端を持ち上げる一方、ミリウスは内心でも見透かされたように大きく目を見開いている。


(そうなの? ミリウス?)


「………………わかったわ。それなら、まず私を占って」


 万一、適当なことを言って、ミリウスが洗脳される事態などあってはならない。

 シホはまず自分を占うように、老婆の前に進み出た。



「お嬢ちゃんかい。……ふーむ…………」



 老婆は手元の水晶ごしにシホを見て、むぅと低く唸った。






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