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第73話 甘やかな誘惑


『それではここに、アーミントン魔法学院、学園祭の開催を宣言します!』



 学園祭実行委員長の宣言とともに、華々しい花火が盛大に打ち上がる。

 歓声に包まれた群衆に背を向けて、ミリウスは自クラスの催しが行われているホールを目指した。



(監督生というのも厄介なものだな……)


 もちろんその名誉に預かれていることは光栄に思っているし、選出してくれた先生や学長たちにも感謝している。

 が、ことこうした行事の開催となると、実行委員やその監督役として駆り出されることになるのが、頭の痛いところだった。


(本当ならクラスの催しをもっと手伝えたのに……)


 監督生会の打ち合わせや何やらで、あまり準備期間中にクラスの手伝いをすることができなかった。


(今日もこのあとは『ティーハウス・リースター』で給仕役を務めたあと、監督生の職務で校内の見回りか……)


 脳内に学園祭準備で忙しく飛び回っていた先生を思い浮かべ、ミリウスは密かに口を尖らせた。


(……近頃は先生とも、あまり話せていない)


 学園祭の準備に互いに忙しいからだろう。

 クラスの催しに関することなら事務的に話すことは多々あるが、以前のような他愛ない二人の雑談が、すべてクラス全体を巻き込んだ学園祭準備の話題に置き換わっていた。


(先生もあまり教室にいないし……)


 休み時間に放課後に、何かと他クラスの生徒が現れては先生を連れ去っていってしまうのだ。

 一度ほかのクラスの教室で、生徒たちに囲まれている先生を見たときなど、不満が噴出してしまって、そんな自分を独り恥じたものだった。


(先生は……リースターのものなのに)


 そして…………言い訳はしない。

 自分は、先生に傍にいてほしいのだ。

 自分の目の届くところで笑っていてほしいし、その姿を絶えず見ていたい。


 なのに先生は、いまや学院中から引っ張りだこだ。



「………………」


 この気持ちが酷く子供っぽいものだということは自覚している。が、受け入れがたいのだからしょうがない。


(学園祭など――――早く終わってしまえばいいのに)



 そんなことをミリウスは思っていた。





 …………そのときまでは。





         *




 クラス展示『ティーハウス・リースター』が行われているのは、食堂からほど近い小ホールだった。

 教室2、3室分ほどの適度な広さのホールには、長い行列が出来ていた。


 まだ学園祭が始まって間もないはずだが、これはどうしたことだろう?

 ミリウスが疑問に思いつつ、廊下からバックヤードへと繋がる扉に手をかけて、中に入ったときだった。

 

 扉を閉めるその瞬間まで、外の様子に気を取られていたからだろう。内部にいた人物に気づかなかった。


 ぼすん、と胸に何かがぶつかる。

 視線を落とせば、それは――向こうもヘッドドレスの装着に気を取られていたのだろう――慌てて外へと繋がる扉を目指し、小走りに駆けてきたメイド姿の女子生徒だった。


「すまな……」

「ごめんなさ……」


 互いに謝罪しようとして、ばちりと視線が合う。


 見下ろしたミリウスの視界にいたのは、可愛らしいレースのヘッドドレスを付けたシホ・ランドール、その人だった。


「な……な…………」


(どうして先生が……!!??)


 見下ろした先生は、接客メイド用の特別愛らしいメイド服を着ていた。

 来客対応用だからだろう。たっぷりとしたレースがいたるところに縫い付けられ、華やかな雰囲気を醸し出している。

 それでいて可憐なエプロンの下のドレスは、慎ましやかな黒なのが、なんともいえないギャップを醸し出していた。


「ぐ…………」


 もしこんな姿のメイドが、どこかの家に本当にいたとしたら。

 間違いなく、彼女目当てに通い詰めてしまう自信があった。

 なにかと理由をつけて、彼女がいる屋敷の主人を訪ねてしまうのだ。

 そして主人の目を盗んでは、部屋の脇に静かに控える彼女を熱く見つめてしまう自信がある。


(いや、むしろ――――)


 彼女が、他人の家ではなく、自分の屋敷の――王城の使用人だったなら。

 間違いなく自分の部屋付きのメイドに命じて、一日中彼女を見ていたい。

 掃除や洗濯など、本来のメイドの業務などどうでもいい。

 ただ、彼女に一日中室内に控えているよう命じて、ただ、彼女を見つめていたいのだ。

 そうして時折交わす言葉、その声とともに返されるはにかんだ笑み、それに包まれる時間はなんと甘美なものだろう。



 とびきり甘やかな心惹かれる時間を想像して、ミリウスはハッと我に返った。


 ぶつかった反動で、相手が倒れないように伸ばした腕。

 その腕で先生を支える――見ようによっては抱き締める形になっていた。


(この腕を……離したくない)


 正直いえば、このままどこかへと連れ去ってしまいたい。


 先生は本物の使用人ではないのだから、雇うことも、何かを命じることもできないのに、それができればどんなにいいか…………ミリウスは苦悩にぐっと拳を握り締めた。



「すみません、先生。大丈夫ですか」

「こちらこそ。余所見しててごめんね。ミリウスは大丈夫?」

「ええ。なんともありません」


 先生はホッとしたように、息をつく。


「それよりも先生、その格好は……」

「そうだった!」


 先生はピンと勢いよく背筋を伸ばす。



「こうしてる場合じゃない! 話はあと! ミリウスも給仕服に着替えて手伝って!!」



 先生は廊下へと飛び出した。






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