表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/110

第71話 学園祭へようこそ!


「学園祭?」



 放課後、授業を終えたばかりの教室で、シホは突然耳に飛びこんで来た単語に振り返った。


「そうなんですよ先生! もうすぐ学園祭があるんです!」


 ねーっと、クラスの女子生徒、エメリーとマリーベルが手を取り合う。



「学園祭って……あの?」


 シホはおぼろげなイメージを脳裏に浮かべる。



 ちなみに祖国リンデールでは、学園祭はおろか、行事らしい行事などなかった。なので、あくまでここで浮かぶのは、夢の世界に出てくる『地球』とやらでの出来事である。



「ええと……演劇とかお化け屋敷とか、メイド喫茶とか……生徒が主体になって行う、学内上げての催し物のこと?」


「??? それが、リンデールの学園祭なんですか?」


 どうやらエメリーたちの認識する学園祭とは違うらしい。



「学園祭というのは、ここアーミントンの魔法学院では、いわゆるチャリティーバザーのことを指しますわ。生徒たちが各家で不要になった品や、協賛者から集めた品物を、校庭で開く慈善市で販売し、そこで得た収益を教会に寄付するのですわ」


 マリーベルが朗らかに解説する。


「わたくしとエメリーは、毎年物品の包装や、お客様の対応を任されておりますの」

「なるほど……」


 看板娘をとびきり品良くしたような、と形容できるエメリーは、さぞややる気に満ちているに違いない。

 彼女たちが楽しみにするのも理解できた。



「でも先生の学園祭も気になるなー。演劇はわかるけど、『お化け屋敷』と『メイド喫茶』ってどんなもの??」


「それは…………」


 シホは、かくかくしかじか。自分が理解している限りの、それらについて説明する。



「何それ……! すごく楽しそう!!」

「素晴らしい行事ですわ……!!」


 エメリーとマリーベルの反応は、何故かすこぶるよかった。


「いままでの学園祭も気に入っておりましたけれど、先生のお話しするリンデール式のほうが、より崇高なものに思えます」


「崇……高……??」


 慈善市のほうがはるかに崇高だと思うのだが。

 シホは首を捻った。



「つまり演劇は、普段演劇を目にすることのできない恵まれない方々への娯楽の提供。生徒が主体になって行うことで、無料で観劇することができます」

「!?」


「さらにお化け屋敷は、普段魔物に接することのない方々にも、世の危険を身近に感じ、自衛の精神を高めてもらうための意識啓発施設……。その名も『魔物屋敷モンスター・ハウス』!」

「!!?」


「最後に、先生の仰るメイド喫茶とは……わたくしの勝手な想像ですけれど、つまりは、普段メイドに奉仕されているわたくしたちが代わりに市民に奉仕することで、彼女たちのありがたみをその身に刻む……感謝と自戒の教訓に満ちた、まさにわたくしたちのためにあるような催しですわ……!」



 パチパチパチ……と、気づけば周囲からも拍手が上がっていた。

 いつの間にかクラスの全員がこちらを見ている。


「あれ……?」

「先生! すごいことをやってるんだな、リンデールでは!」


 ラスティンが感動した、と目をキラキラさせて詰め寄ってくる。


「いままでの学園祭より断然いい! 特にモンスター・ハウス! どんな魔物が出てくるんだろうなぁ……! ドラゴンは出るのか? 出るなら俺! 俺がやりたい!!」


「ちょっ…………」



 気づけばシホが止める間もなく、新しい『学園祭』のイメージを得た生徒たちは、その話題で持ち切りだった。


 しかも異様な熱気に満ちた盛り上がりは、隣のクラスの生徒にまで伝播したのだろうか。見知らぬ生徒が教室を覗き込み『なんだなんだ』と話に加わっている。


「今年の学園祭は、先生の案でいこうぜ!!」

「それがいいっ! わたしも賛成!」

「わたくしも頑張りますわ」

「ちょっと…………待って…………!?」


 トントン拍子に話が大きくなっていく。


「そんな急に学園祭の方針を変えることなんて学院側が許さないでしょう!? せめて来年、来年に……!」



「ほっほっほ。その心配には及びませんよ」

「!!?」


 シホが振り返ると、教室の入り口には何故か学長がいた。


「ランドール先生にご用があって教室まで出向いたのですが……何やら面白いところに遭遇したようですな」

「学長! いや、これは別に、ただの案で、実行しようなんてことはとても……」


 だらだらと冷や汗が流れ出る。

 アーミントンの由緒ある伝統行事を、まさか自分の適当過ぎる一言で塗り替えてしまうわけにはいかない。


「いえいえ、実に面白く興味深い内容だと思いますよ」

「!?」

「実に教訓深い。生徒たちにとっても街にとっても、良い学びの機会になるでしょう」


 うんうん、と頷いて、学長は踵を返す。



「それでは、ランドール先生。詳しいお話は、また後日職員会議で。ほかの先生方にも説明しなくてはなりませんからね」


 ほっほっほ。

 そう言い残し、放心状態のシホを残して学長は廊下の先に消えていった。




(ど……ど……どうしよう……!?)



「大丈夫ですよ、先生! 一緒に頑張りましょう!!」


 エメリーとマリーベルの明るい笑顔が目に沁みる。




 こうしてここに、第1回 アーミントン魔法学院、リンデール(地球)式学園祭の開催が決定したのである。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ