表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/111

第68話 魔道具パニック 2


 倉庫整理の報酬としてもらった指輪を嵌めて、シホは一路食堂へと向かう。

 そろそろ昼食の頃合いだ。

 今日は倉庫の整理でよく動いたせいか、いい感じに腹も空いており、たくさん食べられそうな気がした。


 そんなときに、目の前の回廊に一人の人物の後ろ姿が見えた。


(あれは…………ミリウス!)


 これから昼食に向かうのだろうか。

 彼は休日だというのに、いつもと変わらぬ規則正しさで、背筋をピンと伸ばして姿勢良く歩いていた。


(そうだ! 驚かせてみよっ!)


 ちょっとしたいたずら心で、シホはミリウスに向かって駆け出した。

 足音を消して、距離を詰め、背後からポンとその肩を叩く。

 そして同時に、


「ミーリウスっ!!」


 と、満面の笑みで声を掛けた。




 びくり、と驚いたのだろう、ミリウスはゆっくりとこちらを振り返る。

 そして――――……目を見開いて、一瞬、少しだけ眉根を寄せると、すぐさま爽やかなお手本のような笑顔を浮かべた。


「これは……驚いたな。いきなりだったからびっくりしたよ」

「あ…………え、と……ごめん」

「何か用かな?」

「あ……いや。一緒に、お昼はどうかなと思って…………」


 何故か徐々に口ごもるように小さくなっていくシホの声に、ミリウスは相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべながらこう答えた。


「すまない。昼は他の約束があるんだ。申し訳ないけれど、他の人を誘ってあげると喜ばれると思うよ」


 そう言い残して、ミリウスは爽やかに去って行った。



「………………???」


 あれ?

 予想と異なる展開に混乱する。

 想像では、もっと好意的な反応が返ってくると思っていた。

 肩を叩いて、名を呼んで。そうすればミリウスは、驚いて顔を赤くしながらも、笑顔で『…先生!』と、受け入れてくれるような気がしていた。


 そうではなかった事実に、ぽかりと胸に穴が空いたような空虚感が訪れる。


「………………あれ?」



 何故だかわからなかったけれど、それはとてもひどく……寂しかった。





         *




 次にシホが出会ったのは、ラスティンだった。

 ミリウスを追いかけていたのだろうか、中庭を走っていたラスティンを呼び止めると、彼は「ん?」と首を傾げ、いつものようにこちらに寄ってきた。


「どうしたんだ?」

「いや、ラスティンの姿が見えたから」

「あーそっか。そりゃ仕方がないな! いつでも見かけたら呼んでくれよ!」


 ミリウスとは違い、いつもと変わらない反応にホッとする。


「……大丈夫か? なんか元気がなさそうに見えるけど」

「や、そんなことないよ。大丈夫」

「ならいいけど……いつでも言えよ。相談なら乗るから」

「ありがとう……」


 なんだかんだ言って、ラスティンはとても頼りになるのだ。


「ラスティンは……優しいね」

「!?」

「そうだ、これからお昼なんだけど一緒に――――」

「っっ!! あぁ~ッ、えぇ…と!! お、俺はこれから用があるんで、また今度! また今度な~~~~ッ!!」


 突風に煽られる葉のように、手をひらひらと振りながら一瞬にしてどこかへと消えていった。


(………………???)


 シホの心に、不可解な疑問だけが積み上がった。




           *




 次にシホが出会ったのは、ファビアンだった。

 食堂の入り口で、どこかのクラスの女子生徒に声をかけられていた。


(さすがファビアン…………モテる)


 その色男ぶりに一部始終をじっと見つめていると、こちらの視線に気づいたのだろう。ファビアンは女子生徒たちに手を振ると、こちらに駆け寄ってきた。


「そういうわけで、俺にはもう彼女がいるんで、きみたちとは遊べないんだよ。ごめんね?」


 ――ぞわっ。


 背筋を駆け抜けたのは鳥肌か。

 なんだ、このファビアンは。日頃の悪態をついている生徒とは同じだとは思えない声音に、シホは思わず後ずさりをした。


「………………」


 不信を顔に貼り付けたような視線で思わず見てしまうと、ファビアンは、


「あれ…………?」


 興味深いものを見るようにこちらを覗き込んできた。


「何」

「面白い目で俺を見るね。……久々だ」


 何が彼の気を引いたのか、ファビアンは口の端を吊り上げる。



「そんなに俺のことが気になる?」

「べつに……」

「ならどうしてそんな目で見るのかな?」


 ファビアンの目には、こちらを探るような光が見えた。


「さっきからじっと俺のことを見てただろ?」

「………………」


 ファビアンに詰め寄られ後退するうちに、知らぬ間に廊下の柱の陰に押し込まれていた。



「俺に、どうしてほしい?」


 ファビアンの甘い顔と、綺麗な指がそっと近づく。

 それはシホの頬を包んで、まるでこれからキスでもするかのように甘くさすった。


「キスしてほしい? それともそれ以上? ……ああ、それか『正式にお付き合い』を始めるのなら、まずは健全に『二人でお食事』から始めようか」


 語りかける言葉はひたすら甘いのに、剣呑な空気が指先からピリピリと流れ込む。



「――どういうつもりだ?」


 ナイフのように、冷たく硬質な言葉の刃。

 ファビアンはその綺麗な声から一切の色を消した。


「さっき他のリースターの男共にも声を掛けてただろ。相手は誰でもいい……? ――どういうつもりだ」


 低くドスの利いた声が、いまにもシホの首でも絞めんばかりに纏わりつく。


「……………………」


 シホが何も答えずにいると、一瞬後、ファビアンは嘘のように獰猛で険悪な雰囲気を解いた。

 にこやかな人好きのする善人の笑顔を浮かべて、忠告する。



「遊びたいのなら、俺にご指名を。ただ地位や金が欲しいのなら…………他を当たれ。あいつらには関わるな」


 そうしないと次は許さない。

 そんな最後通牒が含まれているような気がした。








 そのまま食堂の中へと去って行くファビアンに、さすがにシホもこれはおかしいと勘付いた。

 リースターの皆が皆、シホのことを『まるで知らない他人』のように扱うのである。


(まさか…………この指輪の影響?)


 シホは指に嵌めた指輪をじっと覗き込んだ。


「…………っ、取れない」


 試しに指輪を外そうと試みるが、外れない。

 相当力を入れてみたのだが、全くといってもビクともしなかった。


(え…………これはまずいんじゃ……)


 どうしたものか。

 そうこうしている間にも、食堂の入り口から出てきたエメリーやマリーベルたちが、シホの横を素通りしていく。

 誰もがシホのことを忘れていた。


(よく調査もせずに指に嵌めるんじゃなかった……!!)


 魔道具研究者にはあるまじき失態に、シホはしばらく前の迂闊すぎる自分に後悔した。



(とりあえず……寮に戻ろう! そうだ箱、あの箱をもう一度調べれば何か解決策が書いてあるかも……!!)


 一縷の望みに賭けて、シホはリースター寮を目指すのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ