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第6話 新人教師シホ・ランドール 2


 試合は、強烈な打ち込みから始まった。


 打ち込んだ主は、もちろんラスティン。

 その大柄な体躯を活かした両手剣での打ち込みが、シホを襲う。


「――――――っ!?」


 が、驚愕に目を見開いたのは、ラスティンを初めとする生徒陣のほうだった。

 大剣での強力な打ち込みを、シホが片手剣に腕を添えただけで、いとも簡単に凌いでみせたのだ。


「なっ!!」


 弾かれざま、ラスティンは直ちに剣筋を立て直し再急襲する。

 しかし結果は同じ。

 身長も体重も、腕の太さも大幅に劣るはずの女教師に、すべての攻撃が流されてしまう。


「どういう……っ、ことだよっ?!」


 ラスティンは思わず距離を取る。

 が、それに若干目を見開いた女教師は、次の瞬間、再び表情を消して、距離を詰める。

 それも一足で――人間にあるまじきスピードで。



「ぐっ……!」


 距離を詰めた勢いで打ち込まれた撫で斬りは、すさまじい重さだった。

 まるで遠心力を込め振り上げられたハンマーを受けるような、明らかに常人のものではない重さ。


「っ……!!!」


 距離を取り、いなし、隙を見てさらに距離を稼ぐため刺突を織り交ぜる。

 上・中・下段の攻撃を交ぜて、力押しまで含め始めたところで、ようやく女教師が若干退いた。



「……さすがだね、騎士団長を目指すだけのことはある」


 息も大して乱さず、心の底から感心したといった様子で、シホは剣先を下ろす。


「どーも。……あんただって、どういう絡繰りだよ、それは」


 反対に息を盛大に荒らげている自分が、悔しいを通り越して情けなくなってくる。



「あぁ、まぁ簡単な仕掛けだよ。そうだね――種明かしをしようか」


 そう、彼女が口にした途端。何か薄い膜のようなものが彼女の側から弾けて消える。

 彼女の手の中から、重い片手剣がどすりと音を立てて地面に突き刺さった。


「………………ね、簡単でしょ」

「は?」

「あくまでここは、魔法学院だからね。こういう魔法もあるってこと」

「???」


 理解が追いつかず混乱を極めるラスティンに、審判を務めていたミリウスが助け船を出す。


「強化魔法……ですか」

「平たく言うと、まぁ、そんなものだね」


 シホ・ランドールは小さな肩を竦めて見せた。


「肉体の強化に加えて、動作に伴う運動量の操作。わかりやすく言うなら、身体を強化するだけじゃなく、腕や剣を魔法で操ってるってこと」


「えぇぇぇぇぇ……」


 それは反則だ、と言おうとして、これが実戦形式だったことをラスティンは思い出す。


「まぁ、実際の戦場にはこういう輩もいるってこと。魔術師で前線に出る者は少ないけど、魔剣士なら覚えておいて損はない魔法だよ」


 ……たしかに、前線でドラゴン退治をしようと思うなら、おそらく必須といえる能力だろう。



「それで、このあとはどうする? 続きをやる?」


 シホはまだまだ大丈夫といった素振りで、今度は腰に差した短剣を抜いてくるくると放り投げては弄んでいる。


「いや……いいです……」


 正直疲れた。それが本音だった。


 まさか、こんな使い手がいたとは。

 魔法学院にも剣技師範はいるが、あくまで剣技に特化した一般兵だ。

 魔術を利用した技を習ったことはなかったし、特別授業で招かれた魔剣士も、魔法と剣技の組み合わせ技は披露しても、剣技のための魔法は教えてくれなかった。


(何でだ…………?)


「ラスティン、きみの疑問に答えようか」

「!?」


 心中を覗かれて、今度こそ飛び上がるように驚いた。



「普通は、前線剣士の強化は後衛魔術師の仕事だからだよ」


 シホは人差し指を立てて説明する。


「だからわざわざ適正の低い剣士に、強化魔法のことは教えない。逆に魔術師には、剣士の強化方法は教えるけど、あくまでそれは肉体強化や防御魔法まで。――剣士個人の運動に伴う肉体操作なんてのは、当の本人にしか制御できないし、だから魔術師も剣士も普通はしない。それだけだよ」


「………………」


 ぽかん、と口を開けて、ラスティンは感嘆した。


(――この人は、本当にすごい人なのかもしれない)


 魔術師なのに剣を操り。剣技を完璧な精度で繰り出しながらも、同時に裏で高度な魔術を操作する――――ラスティンにとっての理想形。



「っ……先生! 早速明日から稽古をつけてくれ!!」



 この日、ラスティンにとって、ようやく目指すべき師が現れた。














 その背後で、ぶつぶつと爪を噛みながら熟考する生徒を残して。


「くそっ、あの機動力……厄介だな」

「やめておくか? ファビアン」


 ミリウスが声をかけると、ファビアンは振り払うように胸を反らす。


「はっ、まさか! ……やってやるよ」



 ファビアンは唸るように吠え、演習場の中央へと向かっていく。

 それに気づいたシホもまた、ラスティンたちを下がらせると自身も所定の位置についた。



「準備はいいか、ファビアン。先生も」


「あぁ」

「えぇ」


 両者が距離を取って向かい合う。




 そして、再び戦いの火蓋は切って落とされた。




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