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第67話 魔道具パニック 1


 真っ暗な視界に火を灯す。

 瞬間、むわぁっと足下から舞い上がった埃が、きらきらと視界一面に広がった。


「うわぁ…………」


 シホはげんなりと眉尻を下げる。

 年季の入った倉庫だとは聞いていた。けれどまさかこれほど手入れがなされていないとは。


 しかし、物は考えようである。

 これほど人の手が入っていないということは、掘り出し物のお宝が眠っているかもしれない。


「よしっ……!」


 せっかく巡ってきた千載一遇のチャンスなのだ。

 シホは腕を(まく)り、暗い倉庫の奥へと足を踏み入れたのだった。




          *




 ――時を遡ること数日前。

 なぜシホがこんなことになっているかというと、それはその日、たまたま顔を合わせた学長の一言だった。


「ランドール先生。先生は魔術だけでなく魔道具にも造詣が深いとお聞きしたのですが」

「はぁ」


 一応、ほかの教員よりは詳しいだろうという自負はある。

 なにしろ呪紋は魔道具の親戚だ。

 魔術効果を得るために道具に呪文を刻む魔道具と、詠唱の代わりに紋章を物に記す呪紋はよく似ている。

 シホも趣味の一環として魔道具を収集・研究しており、ほかの術者よりはずっと詳しいだろうという自負があった。


「それならば心強い。実はこの学院には代々過去より受け継がれてきた魔道具を保管している部屋があるのですが、そちらの整理と鑑定を先生にお願いしたいのです」

「はぁ」

「なにぶん学院設立前の(ふる)い時代の品もあるもので……どのような効果があるかわからない品を、素人が整理するわけにもいかず……」


 つまりは、いままで手つかずでずっと放置されていたということらしい。


「もちろん相応のお礼はいたします。何なら気に入ったもので、とくに問題のないものであれば、先生にいくつかお譲りしても構いません」

「!」


 それは…………大変魅力的な提案だった。

 魔法学院設立前の時代というと、まだこの街アーミントンが、私設の魔法塾の集まりだった時代のことである。

 当時は国中の魔術師たちがここに集い、魔術の研究に明け暮れていたという。


(魔道具は現代ではその技術の大半が失われていて、古代の物のほうがずっと高度で複雑な機能を持つことも多い……)


 それがこの地に大量に眠っているという。


(たしかに王立魔法学院は設備的には王立といえど、その実、内部の魔術的価値のある研究用資産は、所領であるアーミントン伯のものだ)


 そもそもの成り立ちが、当時当代随一と謳われた大魔術師が、王家より所領を得て、アーミントン伯となったのが始まりである。


 アーミントン王立魔法学院の学長とは、前アーミントン伯が当主の座を退いて隠居後に就任する職であることを考えると…………。



(これは、本当に古代の魔道具が!? 手に入る!?)



「はい! やる、やります!!」


 一も二もなく、シホは満面の笑みで引き受けたのだった。






            *




「……で、この箱は……っと」


 本日いくつ目になるかはわからない箱の蓋を持ち上げ、シホはその中身に目を凝らした。


 学長が手をこまねくだけあって、たしかにこの倉庫には、歴代級のお宝ともいえる魔道具がたくさんあった。

 下手をすると王宮の宝物庫よりも価値があるのではなかろうか。

 そんな数々の品に比べると、いささか今回の箱は簡素で保管もなんというか……適当だった。


(うーん……見た目は……ただの指輪だよね)


 特に高価そうでもない。

 宝石らしき石はついているが、うっすらと曇っているし、特に魔石というわけでもなさそうだ。


(失敗作? それとも練習用……?)


 何故かはわからないが、その見た目に惹かれて、結局シホはこの日の報酬として、この指輪を学長から譲り受けた。


 本当は喉から手が出るほど欲しい逸品もあったのだが、その価値の前におののいてこちらを選んでしまったとかそういう小心者なことではない。



(まぁいいや、ただの指輪でも。綺麗だし)


 学長は整理の続きをやってくれれば、また報酬をくれるというし。次にまた期待しよう。




 シホは何も考えず、指輪を嵌めた。




 ――軽率にも。





 その効果など、露ほども考えぬまま。





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