第3話 先生の噂
「先生が、ドラゴンを倒したって噂――本当ですか?」
教室中に響いた予想外の質問に、シンと室内が静まりかえる。
(あぁそうか……それはそうよね……)
自分が予想したのとは異なる種類の質問に、シホは一瞬虚を突かれながら、くすりと微笑む。
この年頃の生徒たちにとっては、きっとそちらのほうが関心の対象なのだろう。
シホは可笑しくなって、くつくつと喉の奥で笑いながら答えた。
「あぁ、本当だよ。といっても、私一人で、ではないけれど。仲間と小隊を組んで討伐したことならあるね」
「……すげー…!」
わかりやすく目を輝かせて、騎士志望のラスティンは拳を握る。
「まぁ、ドラゴンと言っても種類があるから、きみの期待にかなう個体かどうかはわからないけど」
それでも一般的に言って、ドラゴン狩りは非常に危険度の高い仕事だった。
基本は軍の管轄になるし、それ以外であれば、シホのような国家機関による調査討伐隊の仕事になる。
(一番の疑問は、私の実力ってことね)
まぁ将来騎士を目指す人間ならば、師が評判も実績もない人間というのは不安なのだろう。
今現在のこの国では、シホの実力など何の保証もないし、前任者のように高名な大魔術師というわけでもない。
そもそもシホのこの出で立ちからして、信用を得るのが難しいのだ。
自身の姿を客観的に見下ろして、シホは深く息をついた。
はっきり言って、外見は彼らとそう変わらない。
クラスの大半が18歳前後のこのクラスにおいて、シホはたった2、3上の存在でしかない。
身長も体格もそれほど小柄な方ではないが、それでもやはりこのクラスの長身な男子生徒たちに比べれば小さく、頼りなく映るのも仕方ないだろう。
おまけにこの服装からして――前職ではそう変な格好でもなかったのだが――遠征用の特製外套はその防御性能に反して薄手だし、森の中での動きやすさや戦闘時の使い勝手を考慮して選んだ膝上丈のブーツなどは、魔術師の枠から見れば異端ともいえるアクティブな装いだろう。
はっきり言って、風格もそれらしさもない、ただの冒険者だ。
唯一違う点は、シホだけが知る、これまでの経験に裏付けられた自信があることだけ。
「きみたちも研鑽を積めば、ドラゴンだって倒せるようになるよ。励むといい」
貴族でありながら、魔法学校で魔術に始まる戦闘術を身につけなければならない子供たち――。
それはひとえに、この世界が、生身の人間では討伐することが難しい魔物で溢れているからだ。
だからこそ力を持つ者は求められ、人々を束ねるようになり、そして貴族となった。
貴族は人々の守り手だ。ゆえに、退くことも、鍛錬を怠ることも許されない……。
男子生徒のみならず、女子生徒も多く通うこの学園の実情がそれらをよく示していた。
豊かに暮らすだけでは許されないのが、彼らなのだ。
「できるかぎり、私も力になるよ」
それこそが、シホ自身がここに呼ばれた理由なのだから。
「……ハッ。ご大層な激励なこって」
シホが笑んだ直後、教室の隅から吐き捨てるように低い声が飛んだ。




