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第2話 はじめまして、諸君。


 王立アーミントン魔法学院は立派な校舎の学院だった。

 貴族子弟の通う王立学校ということもあって、どこの領主の屋敷かと見紛う高い天井の廊下が続いている。

 縦に長く続く講義棟を延々と進んで、シホはようやく足を止めた。


『リースター・カレッジ』


 教室の入口には、古風な装飾看板で、そう学級名が記されている。

 この重厚そうな扉の向こうが、これから担任を任される学級だ。


(……よし)


 気負いはしない。けれど気合は入れる。

 何事も最初が肝心だと言ったのは師匠だったか。

 シホ・ランドールは、ゆっくりと重い扉に手をかけたのだった。



          *



 リースター・カレッジ。

 そこは前情報で聞いていたとおり、講義棟内の教室では、かなりこじんまりとした部類の部屋だった。

 数十人の生徒が集うような講堂とは違い、平床に十余りの机が整然と並べられている。

 だが、その理由をあらかじめ聞いていたからこそ、気を抜くことはない。


(アーミントンは実力別のクラス分け……つまり彼らが、この学校一優秀な生徒たち……)


 教室を見回してみれば、なるほど個性際立つ生徒たちの顔ぶれが見て取れる。

 一目見て、彼らが有象無象に埋もれるような存在ではないことがわかった。


 約十人あまりの男女を前に、教壇に立つ。



「初めまして、私はシホ・ランドール。今日から新しくこのクラスを受け持つことになった担任だ。よろしく」


 短く簡潔な挨拶に、戸惑う者、興味を寄せる者、隣席の生徒と囁き合う者。生徒の反応は様々だ。

 その初々しい反応に、どこかくすぐったい気持ちになりながら、シホは続けた。



「まずはきみたちのことが知りたい。自己紹介をしてくれるかな」


 細かな質問と説明はその後だ――と、教室を見渡すと、必然、一人の生徒と視線がかち合う。

 『彼』は、スッと立ち上がると、教師の意を酌んで、流暢な自己紹介を始めた。



「私の名前は、ミリウス・ウィルテシア・ヴェルトリンガム。リースター・カレッジのまとめ役を任されています」


 淀みなく凛とした佇まいで、柔和な笑みを浮かべて語るその姿――。

 衆目を集めることを苦としない、むしろそれこそ彼にとって自然な日常なのだと伺い知れるその姿に、シホの脳内でひとつの情報がかみ合った。



(なるほど、彼が――『ウィルテシアの第3王子』)


 引き継ぎ書に書かれていた生徒の情報を思い起こす。


 ――『ミリウス・ウィルテシア・ヴェルトリンガム』。

 このウィルテシア王国の第3王子にして、成績優秀かつ人格にも優れ、次期国王の呼び声高い王位継承権者。


 見栄えのする淡い金糸の髪に、意志の強そうな青い瞳。

 彫像に色彩と魂を宿して解き放ったのかと思うほど端正な顔立ちは、たとえ王族でなくとも多くの者の目を惹きつけただろう。


「クラスのことでわからないことがあれば、何でもお訊ねください」


 次期王の風格を備えながら、それでいて学生らしく師事する者への敬意も忘れない。

 ひと言で語るなら――非常に毛並みの良い好青年、といったところか。

 彼へと向けられるクラスメイトの眼差しからも、彼がよく慕われていることが伝わってきた。



「ありがとう。また頼らせてもらうよ。……それじゃ、次は」


 教室内をぐるりと見渡す。と、今度はこちらをじっと凝視している視線を見つけた。

 嫌な視線ではない……が、そんなに観察されるような要素があっただろうか?


(…………あるな)


 一点、心当たりを思い出して、シホは彼の疑問に応えることにした。



「そこの鋼色の髪のきみ。自己紹介をお願いできるかな?」


 目を丸くし、指名された生徒は『え、俺?』とでもいいたげに教室を見回す。

 そして、鋼色の髪を短く刈り込んだ生徒は立ち上がった。


「ラスティン・ライオール。18歳。ライオール家の次男です。――将来は、王国騎士団長を目指してます」


 はっきりと言い切ったその顔には、強い決意が見えた。


 なるほど、初対面で決意表明するだけあって、たしかに彼は立派な体躯の持ち主だった。

 先ほどのミリウスも相当な長身だが、さらにその上をゆく体躯。いまにでも王国軍に入隊できそうだ。


 きっと幼い頃から研鑽を重ねてきただろう結果を前に、シホは素直に感心と尊敬の念を覚えた。



「それで、きみは私に何か聞きたいことがあるのかな?」

「!!」


 突然、胸中を言い当てられて、彼はわかりやすく動揺した。


(本当に素直な性格なんだな……)


 再び感心する。ライオール侯爵家といえば、相当良い家柄のはずだから、良い家の人間というものは皆こうして素直で真っ当な人間に育つものなのだろうか?



「……じゃあ先生――……」



 意を決して、彼はぐっと身を乗り出して質問する。








「先生が、ドラゴンを倒したって噂――本当ですか?」





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