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第1話 異世界転生? 憧れの魔法学園生活は『先生』でした。


『異世界転生』

 異なる世界に生まれ変わり、新たな生を生きること。


 そんな夢の溢れる言葉を聞いたなら、きっとはしゃいで教室中を駆け回るだろう。

 あの、夢に出てくる少女ならば。


 お気に入りの『漫画えほん』を胸に抱いて、この人がカッコいいのだと、一度でいいからこんな世界に入ってみたいと、友人たちを前に目を輝かせながら、自身が愛でるものへの愛を語るのだ。


 ――『魔法学校かぁ……。一度でいいからいってみたいなぁ!』


 そう願う彼女がもし、自分の前世だというならば。その願いは叶ったことになる。



「いや、叶った………………のかな?」


 疑問に首を傾げ、眼前の壮麗な建物を仰ぎ見る。


 魔法学校こと『ウィルテシア王国 王立アーミントン魔法学院』。

 王国中から魔法の才溢れる若者を集め、教育を施す学び舎だ。


 キラキラと品格が眩い光を放つ 貴族の子弟・淑女たちに囲まれながら、シホ・ランドールは今一度、うーんと唸る。

 


(『彼女』が期待した学園生活とは、違うような気がするけれど……)


 やるしかない。

 そう、やるしかないのだ。

 他でもない。今ここにいる自分は、誰の代わりでもなく、今この場所で生きているのだから。



 

       *




 シホ・ランドールは両親のいない子供だった。

 孤児ではない。親代わりの祖父母がいた。両親は事故だったという。


 とにかく、親代わりの祖父母に貧しいながらも大切に育てられ、8歳のとき、たまたま村はずれを訪れた旅人に魔法の才能を見出された。


 初めは遊びのつもりだったものが、いつしか師さえも一目置くほどのわざになり、きちんとした学び舎で学ぶべきだと推薦され――そして時は流れ……

 今、ここに立っている。



「きみがシホ・ランドール君かね」


 初めて招かれた王立アーミントン魔法学院の学長室で、初老の男性がゆっくりと振り返った。


「話は聞いているよ、よく我が校の招聘に応じてくれた。リンデールの名高い魔術師を我が校の教師陣に迎えられて本当に嬉しい」

「……どうも」


 こういった経験は初めてなのでどう返事をしたものか……、シホはひとまず頷いた。


「質の高い魔術師を多く輩出するリンデール公国のなかでも、魔法学院を最年少かつ首席で卒業。魔法研究院でも、深部調査隊として魔物の調査討伐にあたっていたと聞いている。申し分のない逸材だ」


「………………」


 そう聞くと、非常に聞こえの良い経歴に聞こえてしまう。

 が、正しくは若干の補足や訂正が入る。


 魔法学院を最年少で卒業したのは事実だが、過去に同じ年齢で5人が卒業しているし、成績に至っては首席ではなく次席である。


 隣国のことだからか情報収集がいくらか甘い気がするが、魔術師の数自体がそう多くはないウィルテシアでは、リンデールの魔術師を迎えられること自体に意味があるのだろう。


 せっかくありつけた仕事で雇用主を落胆させるのも忍びないと、シホは大人しく黙っていることにした。



「どうかね、我が校は」


 穏やかそうな瞳が、さらに弓なりに細められる。

 きっとこの学長は、この学園を愛しているのだろう。


「そうですね……よい学校だと思います」


 世辞ではなく、素直によい校風だと思える。

 ここに来るまでに見かけた生徒はみな品行方正そのものだったし、真面目で勉学によく取り組みそうだ。


 貴族の子弟が多いことから金銭面で悩むこともないだろうし、安心して学業に打ち込むことができるだろう。


 祖国リンデールの魔法学院は、魔術師にとっての殿堂だが、優秀な魔術師が多いぶん奨学金の競争も激しく、学園生活を楽しんでいる余裕などほとんどなかった。


「ここにいる子たちはそれだけで特別です。せっかくなら有意義で楽しい学園生活を送ってもらいたい……」


 思った感想をそのまま述べると、学長はまた満足げに笑みを深めた。


「それでは、我が校で教鞭を取ってくれるかね」

「ええ。私でよければ」

「ようこそ、ランドール先生。今日からあなたは我が校の教師だ」


 なんだかむず痒いものが、胸を走る。

 柄にもない役を引き受けてしまったことを、シホはこのとき初めて実感した。






「ところで、ランドール先生」

「?」

「先生に担任していただく学寮クラス、リースター・カレッジですが……」


 学長が意味ありげにコホン、と咳払いをして続ける。


「この学院においても特別優秀な生徒が集うクラスですが――ひとつ注意点があります」

「……はぁ」


 問題児でもいる、ということなのだろうか。

 いまいちピンとこず生返事を返すと、学長はにこりと笑う。



「先生のクラスには――王子殿下がいます」

「!?」

「次期国王と評される大変に優秀な生徒です。特別な配慮などは不要ですが、万一なにかあった場合……。先生の首だけでなくこの学院にもそれなりの影響があるということをお忘れなく」


「はは……」



 魔法学院生活、第1日目。



 私は、王子殿下の先生になった。



 


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