プロローグ ~舞踏会にて~
煌々とした明かりが満ちるホールの中心で、一組の男女が踊っていた。
夜空を模した青いドレスを着た令嬢と、
彼女を大事そうにその腕に抱く長身の紳士。
二人は優雅にワルツの弧を描き、会場中の視線を釘付けにしていた。
男ははにかむ。
腕の中の愛おしい令嬢に。
その髪も、そのドレスも。いま自分とこの時を過ごすためだけに用意されたような美しさに、見惚れ、そして目眩のしそうな幸福に酔いしれる。
今すぐ、その唇に口づけたい。
口づけて、突然のできごとに驚き、戸惑い、真っ赤に染めた頬と潤んだ瞳で見上げてくる彼女を独占したい。
そんな自分の胸の内さえ知らず穏やかに微笑む令嬢に、男は――――王子ミリウスはその長身を折った。
彼女の耳元にそっと口を寄せて――――そして囁きかける。
「とても―――――綺麗だ」
不意打ちに真っ赤になる令嬢に、またしてもその瞳を細めて、王子ミリウスは会場中を睥睨する。
―――これで、わかっただろう――?
―――誰が、誰に、恋をしているのか。
お前たちが、誰の想い人に手を出そうとしていたのか――――よく、思い知るといい。
会場中にはびこる、彼女に邪な思いを抱く男たちに。
王子は、再度腕の中の令嬢をそっと引き寄せる。
愛おしい。
甘く、芳しく、自分を酔わせて、溺れさせて仕方のない令嬢に。
これ以上ない幸福の視線を注ぎながら、誓うのだ。
――彼女と共にいる未来のためならば。
――どんなことでもしよう。
――たとえ、何を引き換えに差し出しても――――。
もう手放すことなどできそうにない甘い幸福を前に誓うのだった。




