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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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9/21

名は出ないまま、仕事だけが残る

ローデン村の朝は、相変わらず静かだった。


 だが、変わったことが一つある。


 村の入口に、見慣れない馬車が停まっていた。


「……また、来たのか」


 村長が、ため息混じりに言う。


「近隣の村の方です。

 用水路の件を聞いたそうで」


「噂って、早いですね」


 俺は、少し苦笑した。


 名前を出した覚えはない。

 宣伝もしていない。


 それでも、結果だけが歩いていく。



 依頼人は、三人組だった。


 農村の代表らしく、服装は質素。

 だが、表情には切実さがにじんでいる。


「水が、止まるんです」


「急に、ですか?」


「いえ。

 少しずつ、悪くなって……」


 話を聞く限り、典型的だった。


 過去に使われた補助魔法が、中途半端に残っている。

 失敗魔法として放置され、劣化した結果だ。


「再工事だと、費用が出せなくて」


「……分かりました」


 俺は、条件を確認する。


「現地を見てから、判断します」


「お願いします!」


 それだけで、十分だった。



 現地は、ローデン村から半日ほど。


 水路は、一見すると正常だ。

 だが、流れが不自然に細い。


(残滓が、絡み合っている)


 複数の失敗魔法が、互いに邪魔をしている。


 力で壊せば、周囲の地形まで傷つく。

 だから、やることは一つ。


「ほどく、か」


 俺は、小さく呟いた。


 魔力を流し、結び目を一つずつ解く。

 強化もしない。

 上書きもしない。


 ただ、邪魔なものを退かす。


 水音が、変わった。


「……あ」


 依頼人の一人が、声を上げる。


 細かった流れが、太くなる。

 自然な速さで、水が通り始めた。


「これで、元に戻ります」


「本当に……」


 男は、水路に手を伸ばし、確かめる。


 確かな流れ。


「ありがとうございます……!」


 だが、俺は頷くだけだった。



 帰り道。


「お名前を、聞いても?」


 そう尋ねられた。


 少し、考える。


「……今は、必要ありません」


 名が広がるのは、早すぎる。


 まだ、積み上げる時期だ。


 依頼人たちは、顔を見合わせ、頷いた。


「分かりました」


 それ以上、聞いてこなかった。


 それが、ありがたかった。



 数日後。


 ローデン村に、また一通の依頼が届いた。


 今度は、商人からだ。


「倉庫の保管状態が、改善されたと聞きまして」


 水路、井戸、床下。

 それらが整うと、物流が変わる。


「正式な工事契約を」


 村長が、ちらりと俺を見る。


「……一度、内容を見せてください」


 仕事は、選ぶ。


 無理な条件、過剰な要求は断る。


 それでも、依頼は減らなかった。


 むしろ――

 選んでいるのに、増えていく。



 その頃、王都。


「……例の辺境の件ですが」


 ギルドの一室で、報告が上がっていた。


「派手な魔法使用は、確認されていません」


「成果のみ、ですか」


「はい。

 修復、改善、再構築……ですが」


 報告官は、首を傾げる。


「術者名が、出てきません」


「名乗らない?」


「ええ。

 依頼人も、詳しく知らないようで」


 室内が、静まり返る。


「……妙だな」


 誰かが、そう呟いた。



 ローデン村の夕暮れ。


 畑では、収穫の準備が始まっている。


「今年は、早いな」


「助かるよ」


 村人たちは、穏やかだ。


 俺は、その様子を少し離れた場所から見ていた。


(評価は、いずれ追いつく)


 急ぐ必要はない。


 ここでは、

 名よりも、結果が先にある。


 それでいい。


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