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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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8/21

辺境の依頼は、静かに積み重ねる

朝の空気は、ひんやりとしていた。


 ローデン村の畑には、早くから人の気配がある。

 鍬を持つ者、水を運ぶ者、作物の状態を確認する者。


 どれも、以前より動きがいい。


「今年は、芽の揃いが早いな」


 畑仕事をしていた老人が、感心したように言った。


「土が、いいんでしょうか」


「さあな。

 だが、去年とは明らかに違う」


 その視線が、俺の方へ向く。


 期待でも、疑念でもない。

 ただの事実確認。


 この村では、それでよかった。



「今日の依頼はこちらです」


 村の集会所で、村長が木札を差し出した。


「倉庫の床板が、湿気で傷んでいましてな」


「戦闘では、ないんですね」


「ええ。

 むしろ、そちらの方が助かります」


 俺は、軽く頷いた。


 こういう依頼の方が、向いている。



 倉庫の床下に潜ると、原因はすぐに分かった。


 地下水脈が、わずかにずれている。

 そのせいで、湿気が溜まりやすくなっていた。


「……大きな問題ではないな」


 俺は、失敗魔法をいくつか思い浮かべる。


 本来は、地形調整に失敗した術式。

 水流を逸らすはずが、効果が弱く使い物にならなかったもの。


 それを、少しずつ重ねる。


 強引に変えるのではない。

 流れを、流れとして整える。


 床下の空気が、すっと軽くなった。


「これで、しばらくは持つ」


 派手さは、ない。

 だが、確実だ。



「助かりました」


 村長は、深く頭を下げた。


「これで、穀物の保存も安心です」


「いえ。

 依頼通りですから」


 それ以上の言葉は、いらない。


 成果は、時間が証明する。



 昼過ぎ。


 村に、新しい依頼人が訪れた。


「近隣の村から来ました」


 痩せた男が、帽子を取って頭を下げる。


「用水路が詰まりまして……」


 話を聞けば、原因は明白だった。


 数年前の工事で、失敗した魔法が残っている。


「本来なら、再工事ですが」


「費用が……」


 男は、肩を落とした。


 俺は、少し考える。


「失敗魔法の残滓なら、処理できます」


「……本当ですか?」


「はい。

 時間は、かかりません」



 作業は、半日で終わった。


 水は、自然な流れを取り戻す。


「……流れてる」


 男は、呆然と呟いた。


「ちゃんと、流れてる……」


「一時的なものではありません」


「……ありがとうございます!」


 何度も頭を下げる姿に、胸がざわつく。


(以前なら、評価されなかった仕事だ)


 だが、今は違う。


 ここでは、必要とされている。



 夕方。


 リィナが、村に立ち寄った。


「再調査ですか?」


「いえ。

 個人的な確認です」


 彼女は、村の様子を見渡す。


「……落ち着いていますね」


「ええ」


「中央なら、もっと騒ぎになります」


 彼女は、小さく息を吐いた。


「あなたは、ここが合っている」


「そうかもしれません」


 否定はしなかった。


 俺にとって、ここは“過剰な評価”がない。


 それが、心地よかった。



「ただし」


 リィナは、真剣な表情になる。


「依頼は、必ず増えます」


「構いません」


「……それでも?」


「はい」


 結果を出すことに、迷いはなかった。



 その夜。


 村の宿で、簡単な食事が出された。


「今日は、スープが濃いですね」


「水が良くなったからだよ」


 誰かが、そう言って笑った。


 小さな変化。

 だが、確かな変化。


 俺は、湯気の立つ椀を見つめる。


(ここからだな)


 静かに、積み上げていけばいい。


 失敗と呼ばれたものを、

 必要な形に戻すだけだ。


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