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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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6/21

辺境に来た調査役は、静かに違和感を見る

ローデン村に、見慣れない人物が現れたのは、昼過ぎのことだった。


 外套を羽織った一人の女性。

 装備は軽装だが、無駄がない。

 冒険者というより、どこか役人に近い雰囲気を纏っている。


「中央ギルドから来ました。

 簡単な聞き取り調査をさせてください」


 村長のハルドは、一瞬だけ言葉に詰まった。


(……やはり、来たか)


 だが、拒否する理由はない。

 これまで正式な依頼として処理した以上、隠す方が不自然だ。


「分かりました。

 こちらへどうぞ」



 女性の名は、リィナ。


 肩までの淡い銀髪を束ね、落ち着いた声で話す。

 年は二十代前半だろうか。


「最近、この村でいくつか“記録に残らない成果”が出ていると聞きました」


「ええ。水路の修復や、井戸の水量改善などです」


「魔法を使った、と?」


「はい」


 リィナは頷き、手元の書類に何かを書き留めた。


「術式は?」


「……分かりません」


 村長は正直に答えた。


「光も詠唱もなく、結果だけが出ました」


 リィナのペンが、ぴたりと止まる。


「……結果だけ、ですか」


 彼女は顔を上げ、周囲を見回した。


 畑は青々とし、水路は整っている。

 どれも、確かに“成功した後”の状態だった。


(なのに、痕跡が薄すぎる)


 魔法を使えば、必ず魔力残滓が残る。

 だが、ここにはそれがほとんどない。


「その魔法使いの方に、会えますか?」


 村長は、一瞬迷った後、頷いた。


「……こちらです」



 俺がリィナと会ったのは、倉庫の整理を手伝っていた時だった。


「こんにちは」


 穏やかな声に振り返ると、見知らぬ女性が立っている。


「中央ギルドから来ました。

 少し、お話を聞かせてもらえますか?」


 嫌な予感が、しなかったわけではない。


 だが、逃げる理由もない。


「……どうぞ」


 俺は、作業を止めて向き直った。



「あなたが、この村の水路を修復したと聞きました」


「はい。依頼でしたので」


「どんな魔法を?」


 率直な質問だ。


 俺は、少し考えてから答えた。


「失敗魔法を、組み合わせただけです」


 リィナは、すぐには反応しなかった。


 否定も、驚きもない。

 ただ、静かに観察する視線。


「……失敗魔法、とは?」


「効果が不完全で、評価されなかった魔法です」


「普通は、消えるものですが」


「そうですね」


 俺も、そう思っていた。


 だから、これ以上は説明しなかった。


 だが、リィナは引かなかった。


「結果として、水路は“完全な状態”になっています」


「はい」


「しかも、補修ではなく、再構築に近い」


 彼女の視線が、鋭くなる。


「……あなたは、自分がやっていることを、異常だと思いますか?」


 少し、考える。


「……周りから見れば、そうかもしれません」


「では、あなた自身は?」


「……便利だとは思っています」


 それだけだった。


 リィナは、一瞬だけ目を見開き、すぐに表情を戻した。


(自覚が、薄い)


 それが、彼女の第一印象だった。



 その後、彼女は村を一通り見て回った。


 畑、水路、井戸。

 どれも“完璧すぎる成果”だ。


 だが、どこにも決定的な証拠がない。


(強制力がない……?)


 術式による支配ではなく、

 条件が自然に整ったかのような結果。


 魔法というより、環境そのものが最適化されている。


「……不思議な村ですね」


 リィナは、村長にそう告げた。


「報告書には、“異常なし”と書いておきます」


「……それは」


「ただし」


 彼女は、静かに続ける。


「“今は”です」



 夕方、村を発つ前。


 リィナは、俺のもとを訪れた。


「忠告です」


 彼女は小声で言った。


「あなたの力は、いずれ隠しきれなくなります」


「……そうでしょうね」


「その時、敵も味方も増える」


 彼女は、真っ直ぐ俺を見た。


「覚えておいてください。

 私は、あなたを“危険人物”とは報告しませんでした」


「……ありがとうございます」


「その代わり」


 彼女は、わずかに微笑った。


「あなたが何者なのか、私は見続けます」


 そう言って、彼女は去っていった。



 静かな村に、再び日常が戻る。


 だが、確実に一つだけ変わったことがある。


 この村には、

 世界と繋がる視線が、一本通った。


 それが、吉と出るか、凶と出るか。


 それを決めるのは――

 たぶん、俺自身だ。


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