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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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3/21

辺境の村に現れた、ありえない魔法使い

辺境の村・ローデンは、王都から三日ほど離れた場所にある。


 土地は痩せ、魔物は少ないが実りも少ない。

 若者は外へ出て行き、残るのは老人と子どもばかり――そんな、どこにでもある小さな村だった。


「……今年も、厳しそうだな」


 村長のハルドは、畑を見下ろしながら溜息をついた。

 春先だというのに、土は固く、水の巡りも悪い。


 魔法使いを雇う余裕など、当然ない。

 いても、王都か大きな街に行く。


 だから彼は、村の入口に立つ見慣れない青年を見たとき、正直あまり期待していなかった。


「すみません。しばらく、この村の近くに滞在してもいいでしょうか」


 青年は、控えめにそう言った。

 装備は簡素で、高価な杖もない。


「泊まる場所も、仕事も……できることがあれば手伝います」


 その態度は丁寧だったが、頼りなさも感じた。


「魔法使い……か?」


「一応、そうです」


 一応、という言い方が気になったが、村長は深く追及しなかった。

 断る理由もない。


「好きにするといい。ただし、報酬は期待するな」


「分かっています」


 青年――名を名乗った彼は、静かに頷いた。



 変化は、その日の夕方に起きた。


「村長! 井戸が……!」


 慌てた様子で駆け込んできたのは、若い村人だった。


「水が、増えてます! あふれそうなくらいに!」


「……は?」


 ハルドは耳を疑った。


 この村の井戸は浅く、水量が少ない。

 増えるなど、聞いたことがない。


 急いで向かうと、確かに井戸の水位は明らかに上がっていた。

 しかも、澄んでいる。


「誰か……魔法を?」


「分かりません。ただ、あの旅人が井戸の近くに……」


 村長は、背中に嫌な汗を感じた。


 まさか、と思いながら探すと、青年は井戸のそばで土を触っていた。


「……何をした?」


 ハルドが問う。


 青年は、少し困ったように答えた。


「失敗した水脈探知と、使い道のなかった保水魔法を……少し、重ねただけです」


「……は?」


 意味が分からない。


 だが、井戸は満ちている。

 事実だけが、そこにあった。



 翌日。


 今度は、畑だった。


 芽が出なかったはずの土地に、青々とした若葉が顔を出している。

 それも、一面に。


「……こんなこと、今まで一度も……」


 農夫たちが呆然と立ち尽くす中、青年は畑の端で首を傾げていた。


「肥沃化が足りなかったので、微調整しました」


「微調整……?」


「ええ。効果が弱すぎて失敗扱いだった魔法が、いくつか残っていたので」


 農夫たちは、互いに顔を見合わせる。


 失敗魔法?

 そんなもの、普通は残らない。


 だが、作物は育っている。

 魔法陣も、派手な光もない。


 結果だけが、完璧だった。



 決定的だったのは、その夜だ。


 村の外れに現れた中型魔物――

 普段なら数人がかりで対処する相手。


 だが、青年が前に出た。


「下がってください。危ないので」


「お、おい! 一人で――」


 制止する間もなく、青年は地面に手をついた。


 光は、ない。

 詠唱も、ない。


 次の瞬間、魔物の足元の地面が、音もなく崩れた。


 沈む。

 絡め取る。

 動きを封じる。


 魔物は、抵抗する前に倒れていた。


「……終わりです」


 青年がそう言ったとき、誰も声を出せなかった。


 派手な魔法はなかった。

 だが、確実で、無駄がなく、異常だった。



 その夜、村長は確信した。


(この青年は……)


 この村に来てはいけない存在だ。


 強すぎる。

 だが、それ以上に――


 本人が、その自覚を持っていない。


「……ここにいてくれ」


 村長は、頭を下げた。


「報酬は出せないが……それでもいい」


 青年は、少し驚いたように目を見開き、やがて微笑った。


「構いません。ここは、静かでいい」


 その言葉に、村人たちは安堵し、同時に気づかなかった。


 この静かな辺境に、

 世界の前提を壊す魔法使いが根を下ろしたという事実に。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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