理論を拒む者達
王城の外。
白い塔の影に隠れるように、古い礼拝堂があった。
そこに集う者たちは、王国の正式機関ではない。
だが、無視できない力を持っていた。
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「――揺らぎ始めています」
黒衣の司祭が、低く言う。
「魔法の“神聖性”が」
円卓を囲むのは、聖典魔法会と呼ばれる者たち。
魔法は神より授けられたもの。
それが、彼らの教義だった。
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「失敗も、暴走も」
「神の意思」
「それを、人の手で“整える”など――」
司祭は、言葉を濁さなかった。
「冒涜です」
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「だが」
別の司祭が、静かに言う。
「王城は、動いた」
「研究院も、軍も」
「このままでは」
拳を、握りしめる。
「信仰が、後回しにされる」
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「例の人物」
「“調整役”と呼ばれている男」
「排除すべきだ」
即断だった。
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「待て」
老司祭が、杖を鳴らす。
「軽率な行動は、逆効果だ」
「彼は、力を誇示していない」
「むしろ、静かすぎる」
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「ならば」
「こちらから、近づく」
司祭の一人が、提案する。
「“問い”を投げる」
「信仰を揺るがす存在かどうか」
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決定は、祈りと共に下された。
接触は、穏やかに。
だが。
目的は、一つ。
正しさの奪還。
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同じ頃。
王城・研究院。
「……宗教側が、動き出しました」
ハルディアが、報告する。
国王は、黙って聞いていた。
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「止めるか?」
「難しいでしょう」
「彼らは、公式機関ではない」
「だが」
「影響力は、大きい」
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「放置は?」
「衝突の可能性が高い」
「特に」
一瞬、視線が伏せられる。
「“彼”が、無自覚だからこそ」
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「……ならば」
国王は、静かに言った。
「ぶつけさせる」
「必要な衝突だ」
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王城を出た俺は、宿に向かっていた。
その途中。
「失礼」
声をかけられる。
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白衣ではない。
軍服でもない。
だが。
異様に、整った魔力。
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「聖典魔法会の者です」
「少し、お話を」
穏やかな笑み。
だが、目は鋭い。
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「拒否権は?」
「あります」
「ですが」
「信仰とは、逃げても追ってきます」
遠回しな圧。
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「……分かりました」
俺は、立ち止まる。
「話だけなら」
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「一つ、問います」
司祭は、真っ直ぐに言った。
「魔法とは、神の恩寵だと思いますか?」
核心だった。
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俺は、少し考える。
そして、答える。
「魔法は、現象です」
「祈りで起きることもある」
「理論で起きることもある」
「どちらも、条件次第です」
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「神を、否定するのですか?」
「いいえ」
「神が関わっているなら」
「それも、条件の一つです」
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司祭の笑みが、消える。
「……危険な考え方だ」
「そうでしょうね」
俺は、正直に言った。
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「あなたは」
「信仰を、壊す存在になり得る」
「その自覚は?」
「あります」
「ですが」
「壊したいわけではない」
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「直したいだけだ」
その言葉に。
司祭は、言葉を失った。
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「……結論は、保留にしましょう」
「ですが」
一歩、下がる。
「我々は、見ています」
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去り際。
彼は、振り返った。
「信仰は」
「理論より、しつこい」
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俺は、ため息をつく。
軍。
研究。
王城。
そして、信仰。
世界は、複雑すぎる。
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それでも。
直すだけだ。
条件が、揃えば。




